20.誤解されていた友達
奏の転校から五日目。
たった五日にも関わらず、すっかりと奏がいる生活が馴染みつつあることを実感しつつ、俺は授業を過ごしていく。
「はい。じゃあ今日はここまで」
一日の授業を終えるチャイムが校舎に響くと、授業に退屈していたクラスメイトが沸き上がる。
そんなクラスメイトに交じることもなく、俺はいつも通り、手早く教科書を鞄に詰めていく。
帰りのショートホームルームが終わると、クラスメイトは各々の用事のために教室を後にした。
「高垣さんは、今日は図書室へは行くの?」
隣の席の高垣さんに尋ねてみた。
「行かない」
「えー、そっか。君と一緒に勉強するの、落ち着くから捗っていいんだけどね」
「そんな風に思ってたのね、あの勉強の時間のこと」
高垣さんは相変わらず、ドライな反応だった。
「今日は何の予定があるの?」
「女の子に気軽に予定を尋ねない」
高垣さんは少し怒っているようにも見えた。
「……まあ、本音を言うと予定があるわけじゃないの」
「え、じゃあどうして?」
「……今もこっちを見ているあなたの幼馴染が怖いから」
高垣さんの言葉で、俺は前方に座る奏が俺達の方へ向けて視線を寄越していたことに気付いた。
……奏が怖い、とは一体、どういうことだろう?
よくわからないが、俺は奏に向けて手を振った。能面を付けたかのように無表情でこちらを見ていた奏は、途端に笑顔になってこちらに手を振り返してくれた。
「……あなた達、本当お似合いよ」
高垣さんの呆れ声が聞こえてきたが、何を意図した発言かはよくわからなかった。
それから高垣さんが教室を出ていくと、門倉さん達と話していた奏がこちらに歩み寄ってきた。
「あっくん。高垣さんと何を話していたの?」
「え?」
……何を話していたか、と言われれば。
「……話していた、というかなんというか」
「ふーーーん。じゃあ、何をしていたの?」
「……まずは、これから図書室で勉強するか尋ねた」
「どっちが?」
「俺が」
「ふーーーーーーーん」
奏は微笑んでいるが、なんだか圧を感じるのは気のせいか?
まあ、気のせいか。
奏に限って、人と話す際に殺気を放つはずもない。
「それで? 一緒に勉強はするの?」
「いや、しないよ」
「ふーん。どうして?」
「高垣さんにこう言われたんだよ」
俺は鞄を持って、立ち上がった。
「俺と奏、お似合いだよねって」
……奏は目を丸くしていた。
「ふーん。ふーーーん。ふーーーーーん。……えへへぇ」
奏はだらしない顔を作っていた。
「あっくん。あたし、もしかしたら高垣さんのこと誤解していたかもしれないなって最近思っているんだ」
「そうなの?」
「うん。高垣さんって、すごい良い子だよね」
「あはは。そうだねぇ」
奏の発言に関しては全面同意を示さざるを得なかった。
何せ高垣さんは、友達の少ない俺相手に普通の友人同然に接してくれる。
まあ、勉強のことになると焦りからか口が悪くなるのは玉に瑕だが……それ以外、彼女は非の打ち所がない。
俺達は教室を後にした。
「高垣さんに、あたし今度お礼をしようと思う」
背後で門倉さん達へ向けて手を振る奏が言った。
「お礼?」
「うんっ」
……何をお礼するのか聞くのは、野暮なんだろうなぁ。
「そうだ。あっくん、明日と明後日って暇?」
「ん? まあ、暇だよ」
「本当? じゃあさ、高垣さんへ送るプレゼント探しに行くの、手伝ってくれない?」
奏の転校から今日で五日目。
彼女が転校してきたのは月曜日だったから、明日は土曜、日曜日。学校は休みだ。
「いいね。行こうか」
「やった。じゃあ明日でもいい?」
「いいよ」
「じゃあ、決まりだね」
「うん」
俺が頷くと同時に、背後を歩いていた奏が早足となって、俺の前に出た。
「だったら、こうしちゃいられない。あたし、先に帰るね!」
「え? ……明日、明後日遊ぶだけで、どうしてそんなに気持ちが逸るの?」
「ちっちっちっ。あっくん、それは野暮な質問だよ」
奏は微笑んだ。
「明日はデートってことが決まったんだよ? おめかしの準備とか何着ていくのかとか……。女の子は準備がたくさんあるんだっ」
「……ああ、なるほど」
「じゃあね、あっくんっ」
駆けだした奏を見送って、俺は気付いた。
「……え? デート?」
明日って、高垣さんへ送るプレゼントの買い出しじゃなかったの?




