香奈子の核心1
小谷はデートに誘ったが、美術館に来るとは予想外だ。だいたい日曜に来るのは年配者が多くて、若いカップルは少なく、此の二人は目立った。しかし鑑賞者には、はた迷惑にはならない程度に激論していた。
此処で香奈子が持ち出した境田だ。彼の置かれている立場も述べたが、あくまでもそれは副産物で有って、本命は彼女の気持ちにどこまでも迫れるか。これには香奈子の策略の核心が何処にあるのか不透明になって、少しばかり焦り出した。
「境田さんへの忠告もいいんですが、具体的には菜摘未の何を指摘してやればいいのか随分曖昧なんですよね」
奇妙な香奈子の菜摘未に対する呪文を脳裏に焼き付けると、大概のことでは剥がしようがない。
「あら、そうかしら」
元々人の心は曖昧で、いつどう転ぶか分かったもんではない。人間の持つ防衛本能に照らし合わせれば、その主張に意義は挟まないが余りには適格性に欠ける。
「それを紐解くのが菜摘未本人の行動と言論でしょう」
香奈子さんはドン・マクリーンの音楽とゴッホの絵を取り上げて、その共通性を小谷の視聴覚に訴えている。彼女を何とかしてもらわないと、あたしは心苦しくてならない。的確に応える必要性に香奈子は迫ってくる。
「それで境田さんに、ちゃんと説明して欲しいの。あなたが菜摘未さんをいとましく思わなくて、素直に見ていられるようになって欲しいの。小谷さんもあの絵を見て、心に生じたものを自分の言葉で語ったように、菜摘未さんにも語らせてあげて欲しい、なんせ妹なのよ」
果たして彼女に受け入れる余地はあるのか。頑強に閉ざして心の思いを僅かでも語る菜摘未を今まで見たことがない。兄である十和瀬にも閉ざしたままなのだ。それなのに菜摘未は香奈子さんには裏表無く接しているようだ。そんな妹の思いを十和瀬はなぜぶち壊そうとするんだ。全ては菜摘未の為だと慈善家ぶっているが、十和瀬の奥底にそんな博愛精神が有るわけがないだけにあいつの魂胆が解らない。




