SS 魔物の森での生活
本日2回目の投稿です。
カナデとつくも(ねこ)が初めて異世界に来たときのことを物語にしてみました。
000 魔物の森での生活
「うーん、重い。ネミ、顔からどいてくれないかな」
「何を寝ぼけている。さっさと起きろ。食われたいのか」
あれ、ここはどこだ。
俺の家ではないな。
森の中か。
さっきの声は誰だ。聞き覚えがあるぞ。
周りを見ようとするが、顔が動かない。
よく見ると、ネコ科の動物に生えている牙によく似た白い尖ったものが4本、頭と顎の前で止まっていた。目の前で舌がうねうね動いている。
「まさかねー。夢の中に神様出てくるし、仕事のしすぎだな。少し休むか」
「ねこパンチ きつめ」
声と共に白い牙が顔から離れ、30メートルほど手前に、まだら模様の大きな塊が吹っ飛んでいった。
「……」
何今の。大きな猫みたいだったけど……。
「しっかりしろ、周りは魔物だらけだ。いくら結界があってもきりがないぞ」
猫がしゃべっていた。
ブン
1メートルぐらいの白い紐のようなものが5本、上から降ってきて、頭の上でピタリと止まった。まるで、そこに見えない壁があるようだ。
紐が降ってきた方を見上げると、熊によく似た動物がいた。大きい、マイクロバスぐらいありそうだ。なんだこいつは……。
「死にたいのか、ここは異世界だ!」
猫が叫ぶ、そして「異世界」の言葉で、私の意識がつながった。
全て現実だ。神様も、大きな動物も、そして、白い紐は、こいつの爪だ。
爪を手刀で振り払う。何故か、それが正解だと分かる。
白い爪がスパッと根元から切れた。
熊型の魔物は、びっくりして後ろに下がる。
「猫神様状況は……」
「囲まれている。かなり強力な魔物だ」
「真色眼を試してみる。敵の数が知りたい」
そう、なぜだか使い方が頭の中に流れ込んでくる。
「真色眼発動」
なんだこれは、
「猫神様、真っ赤だ。周りは真っ赤だ」
魔物達の体全体が真っ赤に輝いている。それが数千体はいるだろう。
「あのうっかり神め、とんでもないところに飛ばしてくれたな」
そう言いながら、「カカカカ」と短く鳴くと、ペロッと舌を出し、口の周りをなめ回した。
「もう使い方はインストールされたな。神装身体強化を全身にかけろ。手加減無しだ。全部吹っ飛ばせ、ただし霧散はさせるな」
「わかった」
霧散とは、体が霧状になって消えてしまうことらしい。さっき頭の中に入ってきた情報がそう言っている。
「神装力第三権限開放」
「神装身体強化発動『剛力』」
「さて、お仕置きの時間だ!」
「ねこパンチ きつめ」
『神装挑発』を発動し、魔物をこちらにおびき寄せては、ねこパンチで吹っ飛ばす。この繰り返しだ。
この力を使えば、魔物を追いかけなくていいのでかなり便利だ。
何体ぐらい吹っ飛ばしただろうか。100を超えたあたりから数えるのをやめた。
猫神様は、私の3倍ぐらいは吹っ飛ばしていた。小さな猫が、ワンボックスカーを次々と蹴散らしていくアニメのような光景だった。
「ふん、俺様に挑んでくるとは生意気な魔物達だ。まあ、準備運動にはなったから許してやるか」
丁寧に全身の毛を舐め回して毛繕いをする猫が瞳孔を細めてしゃべっている。
まあいいか。ここは異世界だ。猫もしゃべるんだろう。
「猫神様、これからどうしますか」
そう、ノープランだ。異世界転生特典のマジックバックもなさそうだ。
「ここから、1000キロメートルほど進めば、町があるな」
東京から北海道の端っこぐらいの距離か、ずいぶん遠いぞ。
「遠いですね。歩いたらきっと1ヶ月ぐらいかかりますね」
「ん、身体強化して走れば、ゆっくり休みながらで10日もあれば着くぞ」
マジですか。
異世界生活1日目は、真っ赤に輝く魔物達をひたすら『ねこパンチ きつめ』で吹っ飛ばして終わってしまった……かんべんして。
異世界生活2日目も、似たようなものだった。ただ、襲ってくる魔物達は段々減ってきた。そして、少し弱くなっているような気がする。
「猫神様、この真っ赤に輝く現象を変える事ってできないんですか」
「できるぞ。神装力は、イメージで顕現する。おまえ、無意識で手刀に神装力を纏わせて熊の爪を切っただろう、あの要領だ。光らないというイメージで発動してみろ」
なるほど、理解した。
イメージだ。全身は光らない、でも、敵か味方かを色で判断だ。敵は赤、味方は青……。
うーん、これだけじゃだめだ。具体的な形が必要だ……そうか、『玉』だ。
「真色眼 敵は赤玉、味方は青玉で発動」
10メートル手前の草むらにポンと『赤玉』が数十個浮かび上がった。
「猫神様、手前10メートルに、敵数十」
「ねこパンチ 強め」
猫がひとっ飛びで草むらにたどり着き、ねこパンチを炸裂させる。ゴリラによく似た魔物が次々と50メートル後方にすっ飛ばされる。
「猫神様、ありがとう。使い方と改良の仕方が分かったよ」
猫は、前足をペロペロと舐めながら、ぴょこんと尻尾を持ち上げた。
その後、3日かけて真色眼の改良を試みた。
まず、逃げていく魔物は、赤く輝いていない。つまり、私を殺す、または、死ぬかもしれないほどの攻撃をしてくる場合に、赤く輝くことがわかった。なので、私が意識しなければ、輝かないように調整した。
次に、ただの嫌がらせでも赤くなっていたので、私に何らかの苦痛を与えようとしている場合は赤玉が頭の上に浮かび上がるようにした。
そして、明らかな殺意がある場合は、緊急なので黒玉が浮かび上がると同時に、もらった力の2つ目『瞬間自動神装結界』を瞬時に張れるように調整したのだ。
異世界生活6日目だ。
もう、襲ってくる魔物は一体もいない。すべて、怯えて逃げていく。そして、明らかに魔物達が弱くなっている。そう、俺たちが強くなっているのではない。相手が弱くなっている。
「なあ、猫神様」
「……」
「ん、猫神様、どうかしたの」
「その、猫神様はそろそろやめないか」
「えー じゃあ、なんて呼ぶの。猫様とでも呼ぶのかい」
「つくもでいい」
「ああ、付喪神の『つくも』ね。わかった。じゃそれでいいね」
「なあ、つくも(猫)。今更なんだが、俺、食事してないけど、なんで動けるんだ」
「木の実を食べただろう。あの木の実は1つで10日は食べなくても生きていける魔素を含んでいる」
「魔素? この世界の人間は、魔素があれば生きていけるの」
「この森の中でならな」
「ふーんそうなんだ」
「なんだ、何か食べたいのか」
「なんか、魔物が襲ってこないから暇になっちゃたんだよね」
「なら、神装結界の使い方を覚えてみるか」
「ん、どういうこと」
「こういうことだ」
つくも(猫)が「ニャッ」と前足を横に払うと、目の前の太さが30センチほどの木が、厚さ10センチほどの輪切りになって積み重なっていた。
「俺様の爪を神装結界で包み、剣のようなイメージにした」
おう、見えない剣だ。かっこいい。
「やってみろ」
「うん」
神装結界はイメージすることで、いろいろな形にできることが分かった。うん、これは使える。
「つくも(猫)は何してるの」
「暇だからな、皿でも作ろうかと思ってな」
爪で器用に削られくり抜かれた、直径30センチの見事な器が出来上がっていた。
慣れれば、この森での生活も結構楽しいかも。
異世界生活7日目。
「神装結界 イメージ投網」
投網漁で使う網だ。それで兎のような耳を持つ鼠の魔物を絡めて捕まえる。
「チューチュー」と鳴いて暴れる鼠の耳をつかんで四足を拘束する。すると、不思議なことに動かなくなる。
この森の魔物は、決まった捕まえ方をしないと霧散して消えてしまう。
「よし、これなら食材になるぞ」
この森でなら、木の実だけでも生きていけるとは言うが、お腹はすくのだ。
「つくも(猫)、多分鼠だと思うけど、捕まえてきたよ」
「鼠肉か。さて、どんな味だろうな。焼いてみるか」
つくも(猫)は、爪を適度な長さに伸ばして手際よく肉にしていく。それをたき火で焼いていく。私も、やり方を教わってやってみる。キャンプみたいだ。
塩やコショウがないので、うまみが少ないが焼き方次第でそれなりの味になる。
木の種類も、広葉樹が増えてきた。木の実の種類も増えている。強い魔物もいない。日本の里山みたいな場所だ。
しばらくここでのんびりすることにした。スローライフってやつかな。
つくも(猫)は明け方と夕暮れになるとどこかに出かけていく。猫は薄明薄暮性だ。きっと野生の本能が騒ぐんだろう。
私は、つくも(猫)が張った神装結界の中で、安心して寝ていられる。ここは、穏やかないい森だ。
異世界生活8日目。
「なあつくも(猫)、この服、洗濯しなくていいのかな、全く汚れないんだけどどうなっているんだろな」
「なんだ、知らなかったのか。その服は、高次元空間で作られたものだぞ。汚れなんかがつくわけないだろう」
「……」
まじですか。
「ちなみに後、どんな仕様になっているのでしょうか……」
「やぶれない、伸縮性がある、シワにならない、蒸れない、防寒、防水……うーんあとなんだろう、まあ、この世界の素材ではないからな、たぶん数千年は着ていられるぞ」
「聞くのが怖いんですが、俺が身につけているもの全てがそうなの」
「当たり前だろう。靴もシャツも下着も同じだ。もちろんおまえの体だってそうだぞ」
「ちょっとまったー。今、さらっとすごいこと言ったよ」
「おまえは研究者だろ、想像してみろ、普通の体で神力使えると思うか」
う、確かに。
「おれ、もう人間じゃないの?」
「細胞レベルからちょっと違うだけだ、十分人として生活していける。安心しろ」
「ちなみに、細胞レベルでどの辺りがちょっと違うのでしょうか」
「神力のもとになる化学物質を出すミトコンドリアが、各細胞に多少増えただけだ」
「なんだ、なら安心だね……ん、今、各細胞って言ったよね」
確か、人間の細胞って、40兆個ぐらいだったはず、つまり40兆の数倍、そのミトコンドリアが俺の体の中にあるって事だよね。
「つくも(猫)、できればあの時『人間やめますか』って、聞いてほしかったかも」
異世界生活9日目
なんか、スローライフ飽きたぞ。
「つくも(猫)、そろそろ町に行ってみないか」
「なんだ、『スローライフ』とやらはもういいのか」
異世界生活10日目の朝が来た。
ここは森の中。そこを歩いているのは1人の人間と1匹の猫だ。
「なあ、つくも(猫)、本当にねこでいいのか」
「おう、この姿はいいぞ。気に入った。体は液体のように柔らかい、狭い場所にもすっぽりだ。それに、臭いにも音にも敏感だ。おまけに夜目まで利く。さらにだ、この鋭い爪は木の上にも登れるし攻撃もできる。すごいぞこの生物は、神が作った最高傑作だ」
「うん、ねこは偉大だ。相手にこびないし我が道を行く。でも、誰からも恨まれない。私なんて、率先して下僕になりたいほどだ。うん、ねこはいい。私もねこの姿にしてもらえばよかったよ」
「……そっそうか。うん、ねこはすごいんだな」
このようなお話を新しく挿入したり、カナデの心情を詳しく表現したりして編集し直した物を『大樹の森編』として新たに投稿していく予定です。今その作業と続編となる『魔術学院編』の執筆を同時進行で進めているところです。今年中にはなんとかしたいと考えていますが……頑張ります。




