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045 ベニザクラ号の実力と新兵器(1)

 一章 二十六話(1)


「3層深部まで風の道で向かいます。距離は150キロメートルほどです。そこから、6層砂上地帯までが150キロメートル位ですが、目指すのは手前のワルト湖です。そこまでできるだけ歩行型で突っ切ります」


 サクラさんがそう説明をすると、風の森パーティーのメンバーもうなずく。




 今回は、ベニザクラ号の歩行型や戦闘型がどこまで戦えるのかを確かめることも予定に入っている。


 ツバキさんがいるので、見極めてもらうためだ。


「歩行型の時は、俺たちは後方支援だな」


 イグニスが確認する。


「歩行型の速度にもよりますね。ベニザクラ号は、(べに)(はく)の双子の樹魔(じゅま)車軸です。今までの倍の速さで進めるはずです」


 私が補足説明をする。


「倍って言うと、普通のは時速10㎞位だから、20㎞は出せるって事か。なるほど、身体強化をした俺ならついていけれるが、他のメンバーにはちょっときついな」


 時速20㎞は、ほぼマラソン選手並の速さになる。


「どうする、一緒に走るか」


 イグニスがメンバーに尋ねると


「勘弁してください」


 全員が、首をブンブンと横に振った。




 結果、私とイグニスが外を走ってついて行く。他のメンバーは、ベニザクラ号の中で待機するということになった。


 ただし、これは、移動の時だけのことだ、戦闘になったら、風の森パーティーに主導権を渡す。


 今日目指すのは、砂上地帯の50キロメートルほど手前のにあるワルト湖だ。


 そこに、正五角形に囲まれた待機場所がある。そこまで行ければ、ゆっくり休めるはずだ。 




 2層3層にいる魔木(まぼく)は、ほぼ全てが木魔(もくま)だ。木魔は魔素の塊だ。


 そして、魔木でない樹木も数多く茂っている。野生の動植物と、ED級の魔物も共存している。


 日本の里山のような場所と言っていい。


 風の道は、その樹木の上に転開している。その中をベニザクラ号が進んでいる。


「サクラ嬢ちゃん。『音なし』に狙われることは無いのかい」


 イグニスが、少し心配そうに聞いた。


「この層にはほとんどいません。それに、この層の『音なし』なら、狙われても問題ないです」


 サクラさんがにっこり微笑んで安心してと言う。


「音なしって、ぶつかった後に「ヒューン」て聞こえるっていう虫型魔物よね」


 マーレさんが確認するように聞いてきた。


「音より早いって言う魔物ですよね。どういう意味なんですかね」


 リーウスが頭を振る。


「空飛ぶ車両は、穴だらけ」


 クエバさんがぶるっと震えた。


 音速は確か、秒速340m位だったはず。異世界なので条件が違うかもしれないけど……。そんなことを考えていると、


「とにかく、速いって事だよ」


 イグニスが乱暴にまとめた。 


ツバキさんが何か言いたそうにしていたが、一応戦闘待機中なので必死に我慢していた。




 特にトラブルはなく、3層深部まで進むことができた。ここまでは順調だ。




「ベニザクラ『白銀(はくぎん)』ここからは、歩行型です」


 サクラさんがそう言って、制御木琴を奏でると、樹魔車軸の車輪が、12本の触手に変化した。


 それが車輪4つ分なので全部で48本だ。


 その48本の触手が集まりねじれ、最後は8本にまでまとまった。


「歩いてみて」


 サクラさんがお願いすると、8本の触手が規則正しく動き出した。動きは蜘蛛に似ている。


「どう姉様」


 外でその様子をじっと見ていたツバキさんが、


「歩行できるまでの変形時間が約10秒ね。戦闘型だと問題だけど、歩行型としては合格点よ」


 合格点が出た。一安心だ。 




「ペンテお疲れ様。どうする、走る、乗る?」


 サクラさんがペンテに確認する。ペンテのお仕事はここまでだ。


 ここからは、自分で走ってついてきてもいいし、疲れたならベニザクラ号に居場所ができている。


「ぴよ」


 ベニザクラ号に乗る様子はない。どうやら走る気満々のようだ。




「出発します」


 サクラさんがそう宣言すると、ベニザクラ号は、蜘蛛の動きに似た足さばきで走り出した。


 私とイグニスは、全身に身体強化を掛けて、一緒に走り出す。後ろからペンテがついてくる。


 シャカシャカシャカ……


 擬音にするとそんな感じか。


 ベニザクラ号は、4層の森をシャカシャカと進んでいく。




「何か来ます。大型ですね。止まってください」


 気配察知の感覚を最大限にしていたリーウスがそう警告する。


「止まって」


 ベニザクラ号が止まる。


 やがて、ワンボックスカーぐらいの大きさの魔物がものすごい勢いで一直線にこちらに向かって走ってきた。体長3メートルほどの猪型魔物『まっすぐ』だ。


「またおまえかー」


 多分全員がそう思っただろう。


「どうします。戦闘しますか」


 副リーダーのマーレが確認してくる。なぜなら、ベニザクラ号の実力を計るいい機会だからだ。


「紅、排除よ」


 サクラさんが指示を出す。


「シュパッ」


 一番前の触手が動いた。


「ズバーン」


 まっすぐは、10メートル程手前の大木に叩きつけられていた。霧散(むさん)はしていない。手加減はしたようだ。


「一撃かよ」


 すっ飛んでいくまっすぐを眺めながらイグニスがつぶやく。 


「紅、おてがらね」


 サクラさんがニコッとする。


 私が魔物なら、絶対にサクラさんには逆らわない。そう思った。たぶん、風の森パーティーのメンバーもだ。


 懲りないの。そう思うほど、まっすぐが挑んできた。3回ほど吹っ飛ばされて、すごすごと逃げていった。




「紅の攻撃力は、多分A級ね。ということは、白も同じよね。ベニザクラ『白銀』は無敵ね」


 ツバキさんはいつも冷静だ。




 シャカシャカシャカ、ベニザクラ号が突き進む。


「来ます。中型多数。たぶん『一家(いっか)』です」


 リーウスが警戒を出す。


「止まって」


 ベニザクラ号が止まる。


 体長1メートルぐらいの中型魔物が複数体現れた。狼型魔物「一家」だ。リーダーが名持ちの魔物なら「○○一家」と呼ばれる。


「あれがリーダーですね。多分」


 リーウスがそう言って、2メートル位の個体を指さす。


「若そうですね。名持ちじゃないです」


 マーレがつぶやく。


「ベニザクラ号やうちのリーダーみても、逃げない」


 クエバさんがそれに続く。


 イグニスが、ベニザクラ号の前で軽く威圧を飛ばしている。


「まずいですね。やっぱりリーダーが若すぎて、経験不足の一家です」


 マーレのアドバイスがきた。


「お仕置きが必要ね」


 サクラさんがにっこり微笑んだ。


「紅、白、排除よ」 


シュパ、シュパ、シュパ、シュパパパパ、


 前と後ろの触手が一斉に動いた。


ズバーン ズバーン ズバーン


「キャン キャン キャン」


 1メートル位の個体が、次々と宙を舞った。


 吹っ飛ばされた魔物達はよろよろと起き上がると、全てがしっぽを丸めて伏せをした。


「紅、リーダーもう一回吹っ飛ばして」


 サクラさんが微笑んだまま指示を出す。


「キャイーン」


 経験不足の若いリーダーは、そのまま後方50メートルほどへふっ飛ばされた。


「クウーン」


 残された一家の魔物達は、しっぽを丸めたまま、走り去っていった。


「これで、人間の怖さを思い知ってくれるといいんだけど……」


 サクラさんが、遠くを見ながらつぶやいた。




 人間を襲うことを覚えた一家は、ギルドの特別駆除の対象になる。全ての冒険者に追われ、やがて討伐される。


 一家も、森の増えすぎた魔物を駆除してくれるバランサーなのだ。




 その後、襲ってくる魔物はいなかった。




 ベニザクラ号は、今日の目的地である、ワルト湖の待避場所にたどり着いた。


 待避場所は、正五角形で樹魔の壁で囲われている。広さは、野球場ぐらいだ。


 宿泊するための建物はない。ただ、緊急用の食料が倉庫の異次元収納箱の中に保存されている。


 本日の滞在者は、私達だけのようだ。


 異常がないか、ざっと周りを見て回る。







 ベニザクラ号に戻ると、風の森パーティーのメンバーが、ツバキさんにつかまっていた。


 講義ではないようだ。明日使う新兵器の使い方の説明だった。


「このM2っていうのが、平面なんですね」


 リーウスが食いついている。新兵器、それはどこの世界でも男のロマンなんだろうな。


「そうよ、平面に振動波が伝わるの。紙が広がっているというイメージよ」


「で、M3が立体なんですね」


「たて、横、高さのことよ。その大きさの箱を思い浮かべれば分かりやすいわ」


 他のメンバーにも分かるように、丁寧に説明している。ツバキさんが生き生きしている。


次の投稿は本日12時の予定です。

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