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044 指名依頼と1層の魔物たち(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十五話(2)



 大樹の森の中では、C級案内人から、速度制限も高度制限も存在しない。案内人の能力と樹魔(じゅま)車両の性能が試される純粋な実力の世界なのだ。 




「ここからは、風の道で目的地まで行きますね」


 ()木戸(きど)を抜けて、1キロメートルほど進んだ場所でサクラんが搭乗者にそう伝えた。


 風の道は、入り口の町から最低1キロメートル離れてから使うことになっている。そして、今回の搭乗者は、7人と一匹になる。


 私とサクラさん、そしてツバキさん。風の森パーティーが、イグニス、マーレ、クエバ、リーウスの4人だ。全員B級冒険者の実力派だ。


 私がC級スター冒険者昇格試験の結果発表を見に行ったときに、護衛をしてくれたパーティーでもある。


「サクラ嬢ちゃんの風の道は、俺たち初めてなんだよな」


 イグニスが、ベニザクラ号に乗れたのは俺のおかげだぞ。とでも言いたげにメンバーにどや顔だ。


「ええ、噂では、すでにA級の実力があるって聞いたわ」


 うん、その認識で間違いないよ、マーレさん。


「S級のナツメが負けたって落ち込んでた。噂だけど」


 いや、落ち込んでいたのはきっと別の理由だと思うよ。クエバさん。


「ぼく楽しみです。みんなに自慢します」


 いや、契約しただろ。口外しちゃ駄目なんだよ。リーウス。




「発進します」


 私が、1人1人のつぶやきについツッコミを入れている間に、高速移動型に変形し浮かび上がったベニザクラ号は、無反動で外の景色を後ろに吹っ飛ばした。

   

「うおっ マジか」


 イグニスがうなった。


 ベテランB級冒険者だ。それなりにいろいろな案内人の樹魔車両で移動する機会があるだろう。


 そのイグニスが、うなるほど、サクラさんの風の道は特別だということだ。


 他のメンバーは、声も出ない。目を点にして、外の景色を眺めている。


「普通型からの変形が約5秒ね。車内の揺れもない。発進にぶれもない。ペンテとのタイミングも申し分ないわ。百点よサクラ」


 ツバキさんだけが、研究者の顔になって冷静に分析しています。


「ありがと、姉様。兄様にも褒められたわ」


 サクラさんが満面の笑顔だ。


 車内の和やかな雰囲気と違い、風の道の中のベニザクラ号は、高度20メートル、速度は時速100㎞程で、1層の草原を飛んでいる。




 風の道の中のベニザクラ号は、減速無しで止まれる。ピタッと止まるのだ。車内で体が持っていかれる衝撃もない。なぜ、それが必要なのか……。


 突然、外の景色が止まった。


「すみません。『ビヨン』がいました」


 『ビヨン』は、1層に多く生息しているワーム型魔物だ。


 つまり、ミミズの仲間だ。そして、体長が5メートルになる個体がうじゃうじゃいる。大きい個体は10メートルになるやつもいる。


 普段は、地面の中にいて、めったに顔を出さないのだが、ときどき、空を飛ぶ虫(50センチ位のがいる)や鳥を狙ってビヨンと顔を出し刺激臭のする粘液を飛ばしてくる。


「ビヨンか。何メートルだ」


 イグニスが剣を握る。


「大丈夫です。『(べに)』が触手で吹っ飛ばしました」


 『紅』は、前車軸の樹魔の愛称だ。ちなみに後ろ車軸が「(はく)」だ。


「……」


 イグニスがあきれる。




 このように、大樹の森では、突然魔物に襲われたり、ぶつかりそうになったりの危険がある。ピタッと止まれると実に安全なのだ。


「あー、うん、リーウス、ビヨンの2匹目はどうだ」


 イグニスが、直ぐに状況確認をする。さすが、実力派の冒険者だ。


「出てくる気配はないです」


 気配察知ができるリーウスが感覚を研ぎ澄まし確認する。


「ちゃんとお仕置きはできたということだな」


 イグニスは、ホッとしたようにそう言うと、


「ビヨンは調子に乗せるとホント面倒よね。次から次にと出てくるから……」


 マーレが顔をしかめている。


「一匹いたら百匹いる系の魔物、すべて撲滅」


 クエバが酷い。でも、この子はこういうキャラだった。


「ビヨンは大樹の森の耕運機よ。絶滅したら森が痩せるわよ」


 ツバキさんの正論が乱入してきた。


 まずい、つくも(猫)!


「にゃー」


 つくも(猫)がごろんとへそ天だ。


「ねこちゃん遊んでほしいの。いいわよー」


 ツバキさんがお腹を撫でる。


 つくも(猫)よくやった。意識をそらせた。ここで講義スイッチが入ったら大変なことになる。


 風の森パーティーのメンバーもそれぞれ視線をそらし、話を止めた。




 ベニザクラ号は、再び景色を後ろに吹っ飛ばして、飛んで行く。




 1回目の休憩をフーニス湖ですることにした。入り口の町から300キロメートルの距離なので、丁度3時間の移動時間だ。


 これ、高速のサービスエリアに似ているな。日本にいた頃を思い出す。




 休憩中に、鼠型魔物『穴叩き』の巣をいくつも見つけたので、モグラ叩きならぬ鼠叩きをして暇つぶしをする。


「穴叩き、一匹いたら百匹系、撲滅希望」


 クエバさんが、顔をしかめている。


「以前、何か嫌なことあったんですか」


 私が尋ねると、


「……」


 しばらく考えてから、


「『うじゃうじゃ』の巣を仲間がうっかり壊した……」


 ブルブル震えながら声を絞り出した。よほど怖かったのだろう。思い出すのも嫌みたいだ。


「……聞いてしまってごめんなさい」


 私は素直に謝った。




 『うじゃうじゃ』は、蟻型魔物だ。1匹が10センチぐらいの大きさだ。それが、数千匹……。トラウマにもなる。


 休憩も終わり、目的地のエーランド湖を目指す。ここから大体直線で300キロメートルだ。


 大樹の森の1層は、日本列島がすっぽり入ってしまうぐらい広大なのだ。




 D級の風の道を3本。B級と思われる風の道を1本軽々と追い越し、ベニザクラ号は、今日の宿泊地であるエーランド湖に到着した。


「ベニザクラ『白銀(はくぎん)』簡易宿泊型よ」


 サクラさんが、指示を出し、制御木琴を奏でる。


 樹魔車軸の紅と白は阿吽の呼吸で車軸部分を伸ばしていく。それに伴い、装甲板も広がっていく。


 約15秒ほどの変形時間を必要とする。


 その様子をじっと車両の外で見ているツバキさん。


 変形が終わると、樹魔車両の周りを一回りして、「問題ないわ」とつぶやいていた。自分の仕事の結果に満足したようだ。




 ベニザクラ号の車内で変形する様子をみていた風の森のメンバーは、


「すげえ、床が動いている」


「いや、床が沈んだんじゃないか」


「壁がどんどん伸びていったわよ」


「床と一緒にベットが出てきたように見えましたが……」


 いろいろうるさい。




 サクラさんは、それらの声を全て無視をして、ペンテのところに向かう。


 長旅をねぎらい、ペンテの食事を準備するためだ。


 その後、サクラさんには休んでもらう。長距離バスの運転手のような仕事だ。重労働のはずだ。




 ただ、本人が言うには、速度制約があったD級の時よりも、樹魔車両の制御が楽になったとのことだ。


 でも納得だ。F1のモンスターマシンを速度制限がある町中で運転していたような感じだ。そりゃ気疲れしますな。




 夕食は、案内人ギルドが提携している食品工場で作っている弁当だ。まあ、コンビニ弁当みたいなものだ。


 今回のような深い層に行くときは、外で野営など絶対にできない。樹魔車両の中で過ごすのが基本だ。


 なので、数日分の弁当を魔法で冷凍し、それを異次元収納箱に保存してある。


 魔法で冷凍されているので、魔法で解凍できる。魔法があると、日本でのような電気で動く器械は必要ない。




 夕食を食べ終わって、明日の予定を確認しているときに、それは起こった。


「なによ、私が悪いっていうの」


 クエバさんの声だ。相手は、……ツバキさんだ。


「そうは言っていないわ。ただ、穴叩きは、食物連鎖の下の方にいるの。彼らは、1層の肉食獣達の命を支えているのよ。だから、必要な魔物なの」


 どうやら、休憩時間の話を聞いていたようだ。その事で、意見をしたのだろう。


「だから何。餌ならまちぼうけだっている。いつの間にか増えて、うじゃうじゃいるのは気持ち悪い。がまんできない」


 そう言うと、そのまま寝室に行ってしまった。


 うん、これは、『正義は立場の数だけある』ってやつだ。クエバさんのつらい体験を考えれば、そう言いたくなる気持ちは分かる。


 ツバキさんの言っていることも正論だ。


 周りがとやかく言うことではない。ただ、これから深い層に潜るのだから、ギクシャクしているのは良くない。


 私はツバキさんに近づき、クエバさんのトラウマ体験の話を教えた。


 しばらく考えてから、ツバキさんは謝罪するために寝室に向かった。







 次の日の朝、クエバさんとツバキさんは、お互いに目は合わさないが、言い合いするということも無く、いつも通りに過ごしていた。


 クエバさんも高ランク冒険者なので、気持ちの切り替えは得意だ。


 さて、これからが本番だ。


 6層の魔物達は、1層のようにはいかない。一匹一匹の力が跳ね上がる。


 それに、6層に行くまでの間の層にも、強かったりやっかいな能力を持っている魔物がうじゃうじゃいる。


 油断はできない。


 B級冒険者『風の森パーテー』のメンバー達も、個人のカバン型異次元収納箱の中から、今回使うと思われる武器や装備を出して、確認している。




 さあ、出発だ。



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