039 泣けた王子と冒険者の顔(1)
一章 二十三話(1)
「ジェイド、冒険者ギルドの素材処理室からまちぼうけの素材をどうするか聞いてきてくれって言われているんだけど、どうする」
「どうすればいいの」
「全部売るか、ほしい素材をもらって後は売るか……かな」
「うーん、どうしよう。お金にしても、素材にしても、国に持ち帰ったら全部大人達がもっていっちゃうよ」
「だよなー。ナツメさん何か盗られない方法ありますか」
ナツメさんがクターとした状態でソファーにうつぶしている。これには理由がある。サクラさんが暴走したのだ。
ベニザクラ「白銀」は、今、ギルド機密のベールを脱ぎ捨てて完全宿泊型での姿になっている。
「今日はお祝いよ。ベニザクラ『白銀』完全宿泊型よ」
「待て、サクラ、それは機密、まだしてはいけない……うわー」
ということがあった。
「ああ、まあ、そうだな。一番確実なのは、この町でジェイドの口座を作り、そこに貯金してしまうことだな」
少し立ち直ったナツメさんがアドバイスをくれた。なるほど、その手があったか。
「ジェイド、どうする。口座作るか」
私がジェイド様にそう言うと、
「別の国で、子どもで、冒険者でもないのに口座が作れるの」
すごく一般的な当然の質問が帰ってきました。
「うっ……わかりません」
「冒険者になっちゃえばいいのよ」
夕食の準備をしていたサクラさんが、エプロン姿で現れてそう言った。
「ぼく、冒険者になれるの」
ジェイド様の目が輝いた。
「ああ、大丈夫だ。9歳までは見習いだが、10歳からはこの入り口の町の冒険者ギルドでならそれこそ誰ででもなれる。たとえ、それが他国の王族でもだ」
ああ、そう言えば、新大陸の王太子と公女様が冒険者と案内人していましたね。
「なら、明日の朝、ギルドでぱっぱと登録して冒険者になっちゃいましょう」
サクラさんはそう言うと、いつまでも不抜けている兄を見て「フン」とそっぽを向いてから、「夕食よー。ごちそうよー」と言って、豪華な食堂へジェイド様を案内した。
「スゥー」
1つ息を吸い込み
「なんだろう。この感じ、この洗練された装飾の周りから、暖かい、いや、楽しいという感情が感じられる」
ジェイド様は、とても気持ちよさそうに深呼吸をしてからそうつぶやいた。
「そうか、ジェイドは『分かる方』なんだな」
ナツメさんが「やっぱりか」と、うなずく。
「分かる方って何ですか」
ジェイド様が不思議そうにちょっと首をかしげて聞いた。
「パルトの装飾は、その周りから何かを感じる者と感じない者に分かれるんだよ。ちなみに、ここにいる3人は「分かる方」だよ」
「同じなんですね。うれしいです」
この現象にも多分訳がある。精霊が関係しているのではないかと私は考えている。
ナツメさんも復活し、かなり贅沢なお祝いが始まった。
十分に食事を楽しんで、この4日間の思い出を共有して、ジェイド様が心からコロコロと笑い、和やかで優しい時間が過ぎた。
食事の後片付けも終わり、みんなでお茶を飲んでいる時、周りを見渡していたジェイド様が言った。
「このベニザクラ『白銀』。きっとすごい新技術が詰め込まれているんですね」
ジェイド様は、魔法や魔道具にも興味があるようだ。そして、「どんな新技術なんですかー」というような、何も考えていない子どもがするような質問もしない。
「はあー ジェイド、今この部屋が、ギルド機密の中心だよ」
サクラさんの暴走を阻止できなかった自身の未熟さを悔いるようにナツメさんさんが言葉を吐き出す。
「兄様しつこいです。ジェイド様が言いふらすはずないじゃないですか。ねえ、カナデさん」
うっ、ここで私に振りますか。サクラさん。
「えーとですね。こうしていかがでしょうか。ジェイドにも、国家機密を1つ話してもらいましょう。そうすれば、公平です」
「……?」
「カナデ、ぼくが知っている国家機密なんてないよ」
ジェイド様が、不思議そうに首をかしげる。
「あるじゃないですか。今、ジェイドがいる王宮内で、陰湿な人権侵害が起きているじゃないですか。他国の暇な貴族達が噂話にしたくてウズウズするような国家機密が」
私がしれっとそう言うと、
「そうね。ジェイド様。このベニザクラ『白銀』の最重要機密を知ってしまったのだから、ジェイド様も知っていることを包み隠さず話してもらいますよ」
よし、サクラさんが食いついた。
「えっ、でも、こんな話聞いたって、なんにもおもしろくないですよ」
ジェイド様が、そわそわしている。「聞いてもらいたい」でも、王族の話なんて迷惑だろうかと悩んでいるのだろう。
「ジェイド、話してごらん。ここにいるのはジェイドの味方だ。そして、仲間だ」
ナツメさんが、最後の王族の鎖を断ち切ってくれた。
「にゃっ」
つくも(猫)も、香箱座りでしっぽをあげた。
ぽろっ
ぽろぽろっ
「うわーん」
ジェイド様が泣いた。
かなりの長い時間。ジェイド様は泣いた。顔をくしゃくしゃにして、流れる涙を拭きもせず、ただ、一心に泣いた。
その姿は「やっと泣けた」そんな風に見えた。
私達は、そっと、その姿を受け入れた。
流れる涙がなくなった頃、ヒックヒックとしゃくり上げながら、サクラさんが差し出したタオルで涙を拭きながら、語り出した。
全てを話し終えると、ジェイド様は深い眠りについた。その目には、まだ涙の名残が残っていた。
ジェイド様を抱き上げ、ベッドに運びそっと寝かせてから、3人で話し合う。
「愚かだとは聞いていましたが、ここまでアホだとは……」
私がつい本当のことを言うと、
「いや、アホというよりただの駄々っ子だろ」
ナツメさんが更なる核心に触れる。
「やっぱり、我が儘娘にはしつけが必要ですね」
サクラさんは静かに怒っている。
ジェイド様の話をまとめると、次のようになる。
正妃は何もやることがないから暇なので、何かおもしろいことはないかと考えた。そして、優秀で美しいジェイドが泣く姿を見れば楽しいのではと思いついた。
しかし、いくら意地悪をしてもジェイドがなかなか泣かないので、だんだん意地になって泣かそうとした。
取り巻き達は、ジェイド様をかまえば、正妃が喜ぶので段々とやることがエスカレートしていった。
正妃の子ども達は、優秀で端麗な姿のジェイド様に嫉妬をした。正妃が止めないのでどんどん嫌がらせが酷くなっていった。
王族の慣例に「王族間の問題には本人が立ち向かわなくてはならない」というのがあり、国王は手をこまねいている。兄も同じだ。
肝心な母親は、公務が忙しく話も聞けないし助けてもあげられない。
なんだこれ、ふざけるな。何か慣例だ。今回の魔石の確保だって、ただの貴族の暇つぶしじゃないか。
慣例があるから、大人が、だれも、助けてあげられないだと。子どもが1人でたくさんの大人達とどう戦えというんだ。
1人で耐えてきたジェイド様がかわいそうだ。
「ナツメさん。ジェイド様の敵はなんだと思いますか」
「王妃……ではないな。あれはただの駄々っ子だ。ジェイドが嘘泣きした姿を見せれば、それで満足する。まあ、お仕置きは必要だがね」
「私もそう思います」
「じゃあ、だれが本当の悪い人なの」
サクラさんが不思議そうに聞いてきた。
「慣例ですよ」
私がそう言うと、ナツメさんもうなずいた。
「慣例って、今回の魔石のこと」
「それもそうですが、今回は慣例があるから誰も助けてあげられないというところです」
「ああ、王族間の問題には1人で立ち向かえってやつね。アホよね。子どもが大人にどう立ち向かえるのよ」
「そうです。そして、慣例の裏でうごめいているのが、王妃の実家です」
「ああ、つまり有力貴族ね」
「ええ、有力貴族が、慣例を理由にして自分たちに都合がいいようにゆがめています。やりたい放題です」
敵は決まった。
次の投稿は12時を予定しています。




