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019 世界樹の精霊と双子の樹魔(1)

 一章 十一話(1)


 次の日は、日の出と共に行動を開始した。千年樹(せんねんじゅ)の森は大樹の森、5層の北側入り口近くにあるが、森自体は6層に向かって広がっている。


「わたしも、6層の千年樹の森には行ったことがないの。何があるか分からないから、慎重に向かいましょう」


 サクラさんは、そう言って顔を引き締める。ペンテは、ギンギツネ号の荷台で丸くなっている。1人で歩かせるのは危険だからとサクラさんが判断したからだ。


「もうそろそろ、6層に入るはずよ」


 大樹の森の魔素は、10層に近づくほど濃くなる。


 魔素が濃いと魔物も強くなるので、もしかするとつくも(猫)の力に怯えない樹魔(じゅま)がいるかも知れない。


 もしいれば、サクラさんが探している『強い樹魔』と出会えるかもしれないのだ。




 6層に入ると、確かに魔素が濃くなっている感じがする。


 樹魔達も、何となくだが一回り大きい気がする。そして、ブルブル震えている樹魔の方が少なくなってきた。


 いい感じだ。さらに奥に進むと、震える樹魔はいなくなった。


「みんな震えてはいないね……」


「そうね、でも、みんな同じだから、どの子が強い子かも分からないわ……」


 そう、みんな、直立不動のまま、びくともしない。まるで木みたいだ。っていうか、たぶん木なんだけど。


 これではらちが明かない。




「なあ、つくも(猫)。なんか手っ取り早く探す方法ないの」


 横をテトテト走っているので聞いてみた。


 ちなみに、あれだけ丸かった体がいつもの体のサイズに戻っていた。


「俺様の力を薄く拡散してみるか」


 何となく、この事態になっていることを申し訳なく思っているのか、いつもよりも積極的だ。


「サクラさん、つくも(猫)が力使ってもいいかって言ってるけどどうしますか」


 少し前を歩いているサクラさんに話しかけると、サクラさんはくるりと振り返って、


「仕方ないですね。このままじゃみんなただの木ですものね」


と、周りを見回しながら言った。


「つくも(猫)、やっちゃえ。おまえの力を解放するんだ」


 私は、ちょっと、場を和ませようかと芝居がかって言ってみた。


 つくも(猫)は両足を畳んだまま立ち上がり、招き猫のように右手をうにゃと動かし、一声


「ニャッ」

 

と鳴いた。すると、その鳴き声がつくも(猫)を真ん中にして水紋が広がるように森の中に空気を震わしながら広がっていった。




 その時、時が止まった。




 真っ白な世界だ。この景色には見覚えがある。


「気をつけろ。俺様より力が強いやつが来るぞ」


「えっどうして分かるの」


「時間停止の規模だ。俺様よりも遙かに強く広く正確だ」


 パチパチと光る発光体が瞬時にやってきて私たちの目の前でピタリと停止した。


「色はあるか」


「ない」


「ちっ 敵か味方か決めかねているってところか」


 つくも(猫)が背中を丸め「フー」と体中の毛を逆立てる。


 すると、体から火花が飛んだ。すると、相手もパチパチと光り反応をする。




 あれ、これ、あの時の光の会話と同じじゃない。私は、高次元世界で神様とあった時のことを思い出していた。




「おい、あの光にイメージを送れ。多分実体化する」


「えっ、どんなイメージ」


「あの時と同じだ、神様のイメージでいい」


「分かった……神様かー…………」


 どんな神様かなーと考えていた時にサクラさんをチラリと見る。サクラさんは色を失い止まったままだ。


「サクラさんなら、女神だなー」


とぼんやり考えていたらいきなり発光体が実体化した。サクラさんに何となく似ている美しい女神の姿になった。


 やってしまった。




「うわー。声出るわ。体もある。あっあなた、私が見える? 声聞こえる?」


 立て続けに質問されてしまった。ウンウンと縦に首を振っていたら、


「この体便利ねー。ねこちゃんの言う通りね。これなら会話ができるわ」


 つくも(猫)を抱き上げてお手柄お手柄と頭をなでていた。


「ねこちゃんに聞いたわ。私の子ども達をいじめに来たんじゃないのね」


 ん、子ども達……。


「あ、私は……そうね-。世界樹の意志って感じかな。まあ、面倒だから『世界樹の精霊』とかにしておいて」


と言って、パチンとウインクをした。お茶目な精霊らしい。


「分かりました。それで、子ども達って、あの樹魔のことですか」


「あなたたちは『樹魔(じゅま)』って呼んでいるのね。まあ、呼び方は自由でいいわ。そうよ、樹魔は私の子ども達よ」


「それじゃぁこの森の木は、みんなあなたの子どもなんですか」


「違うわよ。樹魔は他の木とは違う種族よ」


「……詳しく」




「うーん。そうねえ。えっとね、私というお母さんがいるの。そして、この子達は私のかわいい子ども達なんだけど、ときどき、やんちゃって言うか好奇心が強い子達が出てくるのよ。そして、そういう子は、私の言うことを聞かなくなってくるの。反抗期ってやつね」


「…………」


「そしてね、私から離れたーいていう気持ちが強くなると、私の根から離れて1人で行動できるようになってしまうのよ。まあ、早い話が家出ね」


 樹魔は反抗期の家出息子と娘でした。


「それじゃー森にいる木魔(もくま)達もみんな家出息子と娘なんですか」


「木魔に意志はないわ。ただの魔素の塊よ。見た目が似ているから勘違いしているのよね。人族は……」


「あのー。今の話私にしちゃってよかったんですか」


 しっかりとつくもを抱いたまま頬ずりをしている女神様を見ながら恐る恐る聞いてみた。


「別に秘密じゃないからいいわよ。みんなに教えてもかまわないわ。あなたの自由にして」


「慎重に検討させて貰います」




「ところで、あの子……。サクラちゃんだっけ、あの子、エルフで風使いの子ね……」


 女神様は、動かないサクラさんに近づきまじまじと見てから


「しかも……エルフの『資格持ち』ね。会うのは久しぶりだわ……」


と、つぶやいた。


本日11話12話を3回に分けて投稿する予定です。

次の投稿時間は、12時と17時を予定しています。


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