020 世界樹の精霊と双子の樹魔(2)
本日2回目の投稿です。
一章 十一話(2)
女神様は、動かないサクラさんに近づきまじまじと見てから
「しかも……エルフの『資格持ち』ね。会うのは久しぶりだわ……」
と、つぶやいた。
ん、『資格持ち』加護のことかな。確か、他の人の十数倍だったよね。やっぱりサクラさんは特別だったんだ。
女神様はサクラさんから視線を外し、くるりとこちらに振り向いた。
「うん、サクラちゃんかわいい。気に入ったわ。たしか、強い子を探しに来たのよね。それも同じ性格の子を……」
と言ってから、手招きをしながらこう続けた
「私のとっておきの秘蔵っ子をあげるわ。しかも、双子よ」
しばらくすると、白い世界にボワーとした樹木の影が浮かび上がった。
その影がゆっくりとこちらに向かってくる。やがて、輪郭がはっきりとしてくると、もう一つ同じ形が続いているのに気がついた。
樹木が2本、歩いてこちらに向かってきた。そう、木が根を使って歩いて来たのだ。
「この子達も、好奇心があって冒険に出たいと思っている子よ。でも、責任感も強いからなかなか家出する決心がつかないでいたのよね。この子達連れて行っていいわよ。本人達もやる気満々だから、きっと役に立つわ。それに、とっても強いわよ」
女神様はちょっといけない顔でにこりと笑った。
「ありがとうございます。サクラさんもきっと喜ぶと思います」
「そうね、サクラちゃんとはまた会うことになると思うわ。楽しみにしてるって伝えて置いてね」
「わかりました」
女神様はつくも(猫)をなごり惜しそうに地面に置いて、耳元で何かをささやいてから、
「じゃ、その子達のことよろしくね」
そう言ってフッと消えた。その瞬間、周りの景色に色が戻った。時が動き出したのだ。
サクラさんにも色が戻った。きっと、何が起こったのか全く分からないだろう。突然目の前に双子の樹魔が現れたのだ、
「うっひゃぁー」
サクラさんが悲鳴を上げた。
サクラさんには、今あったことを大まかに伝えた。詳しいことはもう少し落ち着いてから話そうと思う。なぜなら、オロオロしながら、
「よろしくお願いします」
と、全く違う木に頭を下げているからだ。
ギンギツネ号には、意思疎通ができた樹魔を連れ帰るための異次元収納箱が積まれている。今回は、2本の予定だったので2つある。
異次元収納箱は、入り口の大きさの物しか収納できない。また、生物も入らない。樹魔達も、生物として認識されるらしく体の一部を外に出した状態での収納になる。
さすがに枝を張ったままでは2本の収納はできないので、何とか枝を丸めて貰うようにサクラさんがお願いをすると、すんなりと枝を丸めてくれた。
意思疎通には問題なさそうだ。どうやら、優等生らしい。
時間は11時頃だ。このまま5層の千年樹の森の入り口まで戻ることにしたのだが、母に何か言われたのだろうか、どの子もみんな直立不動で敬礼をして見送ってくれた。
今日は、千年樹の森入り口での野営になる。入り口の町を出発して3日目だ。
今回の樹魔捜索は往復5日捜索に5日の10日間の予定で計画されていたが、3日で成果を上げてしまった。後は帰るだけだ。
野営の夜、サクラさんに今日あったことを詳しく説明した。
世界樹の精霊の事、風使いと呼ばれた事、資格持ちのこと、次にあうのを楽しみにしている事、双子の樹魔の事、木魔と樹魔は別の種族であることの全てだ。
サクラさんは、何の疑いもなく全てを受け入れた。
こんなサクラさんだから、隠し事はできるだけしたくない。
そして、カルミア様とラウネンさんにどう報告するかも話し合ったが、結局全てを正確に話した方がよいだろうという結論になった。
次の日は、朝早くから石碑探しをしてみることにした。
石碑とは、万年樹の森の入り口にあった音階が刻まれた石のことだ。
万年樹の森では、入り口にある4層の石に穴が掘られていたので、もしあるとしたらやはり4層だろう。
一日かけて探してみたが、それらしき場所は見つからなかった。残念だがあきらめよう。
その日は、3層で野営をして次の日の朝早く入り口の町へ帰ることにした。
ラウネンさんは、あまりに早く帰ってきた私たちを見てボーとしている。
今がチャンスとばかりに、千年樹の森であったことを口頭で報告したが、話の途中で覚醒したラウネンさんに、報告書にして明日提出しろと怒鳴られた。
理不尽極まりない。プンプン。
頭にきたので、徹夜で報告書を書き上げ提出した。日本の貧乏研究者を舐めるなよ。
報告書を見たラウネンさんがまた、頭を抱えていたが、知ったこっちゃない。さっさと退室させてもらった。
サクラさんはどうなったのかが気になったので、案内人ギルドに行ってみた。
食堂には毎日来て食事を食べているが、ギルドの中に入るのは久しぶりだ。
案内人ギルドの中には、案内人達がちらほらといて、冒険者と打合せをしたり掲示板を見ながら次の仕事を探したりしていた。
私は、受付に行きサクラさんのことを尋ねてみることにした。
「すみません。カナデですがサクラさんが今どこにいるか知っていますか」
受付嬢は、書類に印を押している手を止めてから顔を上げると、いつものことだというような雰囲気で、
「ああ、サクラさんなら、連れてきた樹魔と散歩に行ってますよ」
と、にっこりと笑って教えてくれた。
「……それってここでは普通なんですか」
「ええ、時々見かけますよ。ただ、双子の樹魔はかなりめずらしいですけど……」
「気にするところがそこなんですね……。分かりました。それで、どこへ散歩に行ったか分かりますか」
「ええ、賢魔鳥のギルド牧場だと思いますよ」
「ああ、なるほど、分かりました。行ってみます」
賢魔鳥は、鳥型の魔物だが、とても大人しくて賢いので案内人達にとっては貴重な存在だ。
そして、足腰も強く持久力もあるので樹魔車両や魔鳥車を軽々と牽引してくれる。
なので、賢魔鳥は案内人からも冒険者からも頼りにされ大事にもされている。
そんな、賢魔鳥達が仕事がない時に安心して過ごせるために広い牧場がいくつか用意されている。
私が向かうのはカルミア様の屋敷の裏にあるギルド牧場だ。広さは野球場が3つぐらい入る大きさだ。
その中を、のんびりと賢魔鳥達が過ごしている。
双子の樹魔は、直ぐに見つかった。遠くからでも、背丈が3メートルあればやはり目立つ。
樹魔の側には、ペンテもいる。サクラさんは……と探すと、少し離れたところで誰かと話をしていた。
サクラさんは、私が近づいてくることに気がついたらしく、手を振ってこちらに向かって走ってきた。
「カナデさん、どうしたんですか」
「サクラさんを探していたんです。森でいろいろあったから、大丈夫かなと思いまして」
「心配してくれたんですね。ありがとう。一晩寝たら全て吹っ切れました。それに、こんなにいい子達が私の所に来てくれたんです。ワクワクしています」
はい、サクラさんはこういう性格でした。心配はいらなかったです。
「ところでさっき話していた人は誰ですか」
「ああ、スハイト湖牧場の管理をしているアナトレさんよ。こんど私専用の樹魔車両ができるでしょう。ペンテみたいな賢魔鳥がいないか相談してみたの」
「で、どうだったの」
「だめね、ここにはいないわ。だから、いつか1層か2層に見つけに行くことになるわね」
「なるほど、その時は一緒に行きますよ」
「もちろんよ。頼りにしているんだから」
サクラさんはコロコロと笑った。
本日は11話12話を3回に分けて投稿しています。
3回目の投稿は、17時を予定しています。




