人界に残った魔族 「エルフ」 後編
「それは…君達が望んだからだよ!」
ベルはそう答えると話を始めた。
「君達の先祖は魔界から人界に移住する事を希望したんだ。理由は魔族の覇権争いに嫌気がさしたからって聞いたよ」
「それでノワール様に君達の先祖が相談したんだ。そしたらノワール様は僕達にどこかいい場所はないかと聞いてきたから、たまたまこの場所を知っていた僕が手伝う事になった」
「だから手を貸したなんて大袈裟な話じゃないよ!」
ベルがそう答えると族長は言った。
「それでも手を貸してくれた恩は忘れていません。本当にありがとうございました」
族長の言葉に頷くと、別のエルフがベルに声を掛けた。
「少しよろしいですか?ご相談したい事があるのですが…」
そう言って向かいに膝をつくと、笑顔で頷くベルに相談を始めた。
「実は…両親を早くに亡くした幼子がいるのですが、集落の者に心を開きません。家に篭って外に出ようともしないのです。何か良い案があれば教えてくれませんか?」
相談を聞いたベルは少し考えると言った。
「その子を別の環境に置くのはダメかな?新しい環境で生活すると気分転換にもなるよ?」
ベルの提案に族長が言った。
「提案はありがたいのですが、私達は森にしか居場所を作っていません。環境を変えようにも…」
その言葉にベルは閃くと言った。
「そうだ!魔王の1人がエルフだから、彼に預けよう。奥さんもエルフだから心配いらないよ!」
すると相談してきたエルフが言った。
「確かにエルフなら信頼できますが…うまくいくでしょうか?」
「きっと大丈夫だと思うけど…まずはその子と話してみようか?嫌なら無理強いはできないしね!」
その提案にエルフは頷くとさっそく向かった。
家に着くと、部屋の隅で膝を抱える子がいたので、ベルは近づいてしゃがむと優しく声を掛けた。
「やぁ!僕はベルだよ。君の名前を教えてくれるかな?」
その子、少女は顔を上げると首を振ったが、ベルはその顔を見て驚いた。
するとベルに相談したエルフが言った。
「実はまだ名前が無いのです。5歳になれば両親が名をつけるのですが、その直前に不慮の事故で亡くなってしまいました…」
エルフの話を聞いたベルは少女に聞いた。
「君はここにいるのが辛いのかな?」
ベルの問いかけに少女が答えた。
「みんなパパとママがいるのに…わちだけいないのがさみしい…」
わち?自分の事だろうか?答えてくれた少女にベルは聞いた。
「なら、君のパパとママになってくれるエルフに会いに行かないか?」
ベルの提案に少女は立ち上がると言った。
「ほんとう?」
「あぁ。君をきっと幸せにしてくれるよ!」
その言葉を聞いた少女がベルに飛びつくと、相談したエルフが聞いた。
「本当に大丈夫でしょうか?」
心配そうにするエルフにベルは笑顔で言った。
「間違いなく大丈夫!「魔王ベルシュタイン」の名において保証するよ!」
ベルには確証があったので力強く答えた。
するとエルフの「よろしくお願いします」との言葉に笑顔で頷くと、彼等がいる部屋に転移した。
…
俺が椅子に座って読書を続けていると、転移の光が目についた。
誰か来たのかな?
様子を見ているとそこにはベルと…抱っこされた少女が立っていた。
少女はベルから降ろされると、周りをキョロキョロしていた。そして俺に顔を向けると……
…驚いた。
少女はセリナに似た雰囲気の顔をしていた。そして俺の傍に駆け寄ると、小さな手でズボンの裾を握って聞いてきた。
「わちのパパになってくれるの?」
目を輝かせながらそう聞く少女に俺は即答した。
「なるよ!」
詳しい話は全く分からないが…断る理由が皆無だったので即答するとベルが事情を説明してくれた。
「その子…親を亡くして寂しそうにしてたんだ。トーヤとセリナさえ良かっ……」
「把握した。俺に任せろ!」
俺はベルの話を遮って返事をすると、少女を抱きかかえた。
すると少女は俺の服を掴むと笑顔を見せてくれたので、心のシャッターを連打していたらタイミングよくセリナが部屋に戻ってきた。
セリナは俺が抱きかかえている少女に気がつくと、駆け寄ってきた。
そして顔を覗きこんで驚くと言った。
「旦那様!この子…私とそっくりです!」
するとセリナを見た少女は照れくさそうに聞いた。
「わちのママになってくれるの?」
顔を赤らめながら聞く少女にセリナは即答した。
「もちろんです!」
そう言って少女の頭を撫でるセリナに、ベルが改めて事情を説明してくれた。
「その子…早くに親を亡くして寂しそうにしてたんだ…トーヤとセリナさえ良かっ……」
「分かりました!私達が立派に育てます!」
セリナもベルの話を遮ると即答した。
ベルは「じゃあ任せたよ…」と言って寂しそうに転移すると、さっそく3人で会話を始めた。
俺は抱っこしていた少女を、椅子に座るセリナの要求でセリナの膝におろした。
そして向かいの椅子に座ると聞いた。
「お名前を教えてくれる?」
すると少女は首を横に振ると言った。
「わちは…まだなまえがないの…」
悲しそうにする少女の顔を見た俺は言った。
「じゃあ君の名前をつけるのが、俺とママの最初の仕事だね!」
すると少女は嬉しそうに頷いたので、さっそくセリナと名前を考え始めた。
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