NEET 仲間の叫びに笑う
空中庭園
ジークとシアは、ノワールに結婚の報告をする為に訪れていた。
書類仕事をこなすノワールは2人に気がつくと紅茶を入れて席を勧めると、椅子に座ったジークが結婚の報告を始めた。
「ノワール様。シアと結婚しますのでご報告に伺いました。」
その言葉にノワールは溜息をついた。
ジークとシアが顔を見合わせていると、ノワールは2人に祝福ついでに話をした。
「おめでとう……2人で頑張るのよ。それはそうとせっかく来てくれたのだから先日の件……2人に先に話しておくわ」
ノワールはそう言うと静かに話を始めた。
「あの件は綺麗に片付いたのだけど……あなた達の戦いを見た眷族から見合いの話が殺到してるの」
ノワールはそう言うと見合い写真の山をテーブルに出した。そしてそれを見て驚く2人に話を続けた。
「あなた達は断る理由ができたけど……ゼルとベルの2人は断る理由がないから話を進めておくわ……」
そう言ってまた仕事を始めるノワールに一礼するとジークとシアは庭園を後にした。
「しかし見合いとはびっくりじゃの?」
シアの意見にジークも同意した。
「そうだな。しかも断れる雰囲気じゃなかった」
ジークはそう答えると、シアは笑顔で言った。
「まぁゼルはともかく、ベルはこんな事でもないと結婚などせぬじゃろうから……良いきっかけなのじゃ!」
そんな話をしながら2人は仲良く帰っていった。
それから3日後
先日の件について報告があると呼び出された俺達は庭園に集まっていた。
ジークとシアは仲睦まじく座っていて、俺はホッと胸を撫で下ろしているとノワールの報告が始まった。
「話の前にジークとシアが結婚した事を皆に伝えておくわ。2人とも幸せになるのよ」
その言葉に俺達が拍手するとジークとシアは幸せそうに微笑んでいた。
そして拍手が鳴り止むとノワールは早速報告を始めた。
「まず先の一件だけど全ての処理や手続きが終わったわ。だけど魔族達との話の中で提案があったの。未婚の男性魔王と魔族のお見合いの話なのだけど、断る理由が見当たらなかったから……ゼルとベル、あなた達2人の見合いの話が決まったわ」
その話を聞いたゼルはめんどくさそうに欠伸しながら「へ〜い」と返事をした。
ベルはというとワナワナ震えていたので俺が「大丈夫か?」と聞くと急に立ち上がって……
ぶちギレた!
「見合いだって!?なんでそんな話を本人の意思を確認しないで決めちゃうの!!」
それを涼しい顔で聞き流すノワールに、ベルは怒りを爆発させた。
「だいたいノワール様はいつもそうだ!僕を突然魔王に任命すると面倒な仕事を押し付けて……今度は見合いしろだって!?絶対に嫌だね!僕は見合いなんかしない!」
ベルがノワールにタメ口で切れてる様子を見た俺とゼルは口元を隠しながら笑っていると、ベルの怒りの矛先がゼルに向かった。
「だいたいゼルはいいの?結婚してないからってだけで突然僕たちに「見合いの話が決まったわ」の一言で済ますなんて許せないでしょ?」
怒り狂うベルの言葉にゼルは笑いながら言った。
「俺はどっちでも良いよ?もしかしたら良い女と出逢えるかもしれないし……まぁ童貞のベルには良い機会なんじゃねぇの?」
そう言ってまた欠伸をするゼルに、ベルは烈火の如く怒りをぶつけた。
「見合いの話と僕が童貞かどうかは全然関係ないだろ!!それにこれは僕の将来に大きく関わる話なんだよ!?みんなだっておかしいと思わないの!?」
ベルはそう言って俺達を見回すと一様に笑いを堪える姿が目に映りった。
その様子を見たベルは膝から崩れ落ち手をつくと「こんな理不尽な事あって良いの?」と呟いた。
そんなベルを無視してノワールは話を進めた。
「それで皆に頼みがあるの。見合いの話はおよそ300件来てるのだけど、全員と会っていたら時間が掛かって2人の負担が大きくなるわ」
するとベルは立ち上がって嫌味を口にした。
「そう思うなら最初から断れば良いじゃないか……僕らの負担を気にする前に考えなきゃいけない事があるんじゃないの?」
そんなベルの正論をノワールは無視して話を続けた。
「だから皆で簡単に見合い状をチェックしましょう」
そう言って見合いを希望する魔族から届いた書状を出すと、それぞれ適当に確認を始めた。
しばらくするとゼルがわざと見合い状の一枚をベルの足元に落とすと言った。
「ベル……拗ねてないで試しに一枚見てみろよ?凄く可愛い娘だ。プロフィールも申し分ない。ベルさえ良ければ譲るぞ!」
その言葉に少しだけ心を開いたベルは拾って中を確認するとその様子を見てゼルは……笑いを堪えていた。
何かしたのか?
俺はベルを見ると……ベルはワナワナ震えながらキレた。
「ゼル!!この娘のどこが良いって言うんだ!!」
そう言って見合い状をゼルに投げつけたので、俺はそれを拾って中を見ると絶句した。
未だ怒り狂うベルに笑いながらゼルが言った。
「ベルって動物好きだったよな?可愛らしい顔だし、プロフィールの趣味の欄にも「勉強」って書いてるし……お前にピッタリじゃないか!?」
そう言って爆笑するゼルにベルが言った。
「確かに僕は動物が好きだけど……顔が「馬」の女性をどうやって意識しろって言うんだよ!それともゼルは馬の顔に性的な魅力を感じるの!?違うでしょ!そもそも僕には写真の馬がオスかメスか判断出来なかったよ!?」
その言葉に全員が爆笑の渦に飲み込まれる中、ノワールは静かに口を開いた。
「ベル……私は彼女を推薦するわ……」
その言葉を聞いた俺達は笑うのを止めるとノワールはベルに一枚の見合い状を差し出した。
するとベルはそれを受け取り中を見ると、少し経って再び震え出すとノワールに聞いた。
「ノワール様?何故顔が切り取られているのですか?」
その問いにノワールは視線を上に向けると答えた。
「ベル。顔なんて評価の一部に過ぎないの……」
その答えにベルは激怒した。
「顔だけ切り抜かれたゴリラの写真だって事は見れば分かるよ!僕に動物と恋に落ちろって言ってるの?無理だよ!」
ベルの言葉に肩を震わせるノワールは空を見上げながら話を続けた。
「ベル。あなたは知ってるかしら?人とゴリラの間には……」
「大差ないって言いたいの?そんなの欺瞞だよ!ならなんで顔だけ切り抜いたんだよ!説明できるよね!?」
その言葉にノワールは笑顔を見せると沈黙した。
「やっぱり出来ないんじゃないか!もういいよ!みんな大っ嫌いだ!!僕は帰るっ!」
ベルはそう言うと転移した。
庭園に静けさが戻るとノワールが話を進めた。
「では見合いの書類選考を進めましょう。特にベルには最高の相手を見つけるのよ?」
ノワールの言葉に俺達は気合を入れて選考を進めた結果、ベルは4人と見合いする事が決定した。
そしてゼルは自分で3人を選ぶとその後は日程を決め、お開きとなった。
会議を終えた俺が部屋に戻るとセリナが駆け寄ってきて隅を指差した。
俺は恐る恐る確認すると、そこには膝を抱えて俯くベルの姿があった。




