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97 栄光をもたらすもの

(なにを言い出すかと思ったぜ)

 尭史は80枚のメインデッキに、15枚のサイドボードを混ぜ込んでシャッフルする。

 そこから15枚を抜くことで、実際には何枚を入れ替えたのかを相手に悟らせない小技ゆえである。

(結果的に収穫があったとはいえ、そもそもの目的はなんだったんだ?)


(言った通りよ。『清涼で(ハッピー・)甘美な(アイス・)日々(クリーム)』の真実を知りたかったわ。尭史の名誉を傷つけるなんて、私は許せないもの)


(ほんと、お前はすごいよなあ)

(それ褒めてる?)

(褒めてるよ)

(ならいいけれど)



(ともかく、おかげでいくつか条件をアップデートできそうだ)

 デッキから一枚を抜く。



(七つあった『狩衣』の秘密のうち、①②はおおよそ裏付けがとれたと言っていいだろう。『先陣の白翼』『騙る天使、カファミール』のような、場に出た時(CIP)効果持ちは、ルール上のエラーを出さないために歪ませてこない。手札にある状態から別物に扮することも不可能だな)

 二枚目、三枚目を抜く。


(CIPがない『へべれけ赤熊亭の常連』には、出てから『狩衣』を撃ってきた。相変わらず二人して騙されたし、三分おきに報告してくれるアンネの発言の内容も正しく受け取れなかった。

 手札戻し(バウンス)されたらアンネの言葉ともども元に戻ったのは、能力を解除したからか、それとも、手札にあるカードは内容が知れていても効果範囲から外れるのか。まあ前者と考えておいた方がいいだろうな。

 あとは少なくとも、アンネは歪みを受けないと断定できるかな。なんにせよ、⑥はおおよそ正しそうだ)

 四枚、五枚、六枚。


(あとは、さっきの発言だ。『清涼で(ハッピー・)甘美な(アイス・)日々(クリーム)』の印象を変えるというのは盲点だった。さすがジェローナだぜ。これによって、一級(マスト)危険物(カウンター)の存在はそのまま、さも無害なカードだと誤認させることに使われる可能性も出てくるな。となると⑤の修正が要ることになる。かなり厄介そうだ)

 七、八、九、十。


(それ以外の発言も嘘じゃないなら、④も正しいことになる。かつ、③に検証の余地が出てくるな。実は効果時間は、ゲームのターンとかに関わらず、十分だったりするのか? 今すぐ逆手に取るには不確かすぎる情報だけど、もしかしたら使えるかもしれない)

 十一、十二、十三まで来て、尭史の手が止まった。


(想定の範囲も対応力も、私じゃ及びもつかないようね)

(卑屈になんなよ。考えてゲームするオタクならではってだけだ)

(あら。この私に卑屈だなんて言ったの、あなたが初めてよ!)

(それもそうだ。いらん心配だな)

 悩みながら十四枚目を抜く。


(それで、勝算は?)

(出方は決まったよ。①②、あと⑥が正しいと判ったからこそできるプランが立った)

(やったじゃない)


(ただ)

 最後の一枚の候補たちを、尭史は何度も(にら)みつける。

(こっちの先攻だからこそできる動きなんだよな。二本目はそれでいいとしても、後攻にさせられるだろう三本目を、どうするか)


(きっと何かいい方法があるわよ)

(そうかな)


 ジェローナは束の間、尻込みした。

 得体のしれない、『源三位の狩衣』。

 それに論と証拠で立ち向かっていく、尭史。

 自分よりずっと速く、深く分析を進める彼に、なおこんなことを言っていいのか? と。


(必ずあなたを優勝させるから)


 それでも。

 気が付けば、彼女はそう告げていた。


(なんでだろうな。ローナにそう言われると、すごく安心できるんだ)

 ぴっと最後の一枚を抜き取って、伏せる。


 十五枚の束は脇に追いやって、80枚の山札を手慰(てなぐさ)み程度にシャッフルする。焔村はまだ終わっていないようだった。

(ありがとう、な。いつも。今となっちゃ、オレはオレのためにゲームしてるってのに)

(どういう事?)


(ほら、初めて会った時(第3話参照)さ。ローナ、誰かのために優勝したいのかって訊いただろ)

(ええ、そうね)

(もしあのときの答えがノーだったら、(はな)から協力してくれなかったんだろうなと思ってたんだ。セディアルと同じように)


(……かもしれない。いいえ、きっとそうなったわね)


 ジェローナと尭史。セディアルと逆嶋。

 考えれば共通点はあったのだ、とジェローナは思う。

 立場は違えど、それぞれの誇りと信念を持った、二人のFF。

 大金を欲する、二人のオタク。


 もしかするとその違いは、金の使い道だけだったのかもしれない。

 逆嶋が他者のために稼ごうとしていたら、セディアルは協力したかもしれないし。

 あるいは尭史が己のために動いていたら、ジェローナも反抗を試みていただろう。


(王のセディアル、騎士のローナ。二人の誇りって、日本人に生まれたオレには判りっこないのかもしれないけどさ。なんだかんだでオレ、その誇りのおかげでここまで来れたんだよな)


(やめなさいよ、こんな時に)照れくさそうなジェローナ。

(そうだな。じゃ最後にもっかい。感謝してるよ)

(片や騎士、片や決闘者であっても、今では誇りに共鳴した者同士よ。当然のことをしただけだわ)

 赤ら顔をしながら、ウインクを飛ばす。


(それじゃ、二本目の作戦を伝える。ローナ、そしてアンネにも徹底してもらいたい)

(アンネにも? 判った。伝えましょう)



「そろそろ始めましょうか。――イエぇん。始めましょん」

 焔村がそう言ったのは、尭史の説明が終わった直後だった。


「待ちくたびれたぜ。先攻は貰う」

 今度は丁寧に、シャッフルを始めた。


(でも確かに、生きるFF(わたしたち)が持ち主に従うのに、義務も責任もないのよね)

 二人がデッキを混ぜるところを見ながら、ジェローナはふと思う。

(それじゃあスオウは、焔村光秀がやってることを了解した上で、協力してるっていうの?)

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