94 秘密を掘り下げる者
(定義……? どういうこと、それは)
三回裏、焔村。プラグから『渡柄杓』を召喚。
(『源三位の狩衣』が、本当はどういうものなのか。オレたちが自力で掘り下げる必要がある。焔村はすべてを明かしたわけがない!)
(でも、『認知を歪ませる』という解釈に矛盾はないわ)
(論理破綻がないってだけだ。ミステリ風に言うなら、状況証拠しかないんだよ。それに『認知を歪ませる』っていうのが正しいと仮定しても、謎が残る。オレたちが『狩衣』のすべてを知ったことにはならない)
(『狩衣』のすべて、ね。能力の反動なんかのことかしら)
(それもある。残りの回数も知れればいい。でもそれだけじゃ済まないんだ。そういう意味での、定義)
四回表、尭史。プラグのみ、復活もせずにドローゴー。
(昨夜、アンネと会った時のことを覚えてるか? オレと中村が、同じ反応をしたときがあったはずだ)
(それは、覚えているけれど。同じっていうと、アンネが能力を明かしたときかしら)
小首をかしげる。
(あの時は確か、二人とも首を傾げてたわよね。私のときはすぐ驚いてたのに――)
ジェローナはハッとする。
(『このカードのオーナーは、非公開領域のカードをサーチすることができる』という言葉が不明瞭だったから、強さが判らなかった。逆に言えば、あの言葉だけならとても強い能力である可能性があった!)
(ああ。『非公開領域』『サーチ』という言葉の定義――よりカードゲームらしく言えば、生産者の裁定――次第で、アレは別物になりえた)
(判るわ。いちプレイヤーにとっては、自他のデッキも相手の手札の中も非公開! それらを見る、調べるという風にも捉えられた。そうであったら、バトルでも大いに役に立ったわね)
(『サーチ』が『探し求め、手に入れる』という意味まで含んでいたら、オレたちの能力より強かったくらいだ。もちろん、実際には不可能だったわけだけど)
「『スオウのオーナーは、指定したカードに対する、任意の相手の認知を歪ませることができる』」
ぶつぶつと言うジェローナ。
(そう考えると、『狩衣』はひどく曖昧ね。カードの指定に制限はあるか、任意の相手とは誰でもいいのか、歪みはどれくらいまで大きくできるのか、とか。まだ私たちは知らないわ)
(書かれてないこととして、能力の有効時間や、同時に発動できる回数っていうのもある。それを知ろうってわけさ)
四回裏、焔村。こちらもプラグのみでドローゴー。
「なにか企んでますのん、鮎川サン? こうまで不利になったら、早急にサレンダーするものだと思ってましたがねん」
「真の決闘者は諦めないんだよ」適当にあしらう。
(と、ここまでが着眼点の話だ。それと、これまでの事実を踏まえて推理すると、仮説が立つ)
五回表、尭史。またもやプラグのみ。ターン終了時に焔村が『氏康の会合』を使い、手札を整える。
(……いよいよカードゲームらしくない言葉が増えたわね。てんこ盛りじゃない)
(ほっとけ。でその内容だけど:
①指定できるカードは焔村が正体を知っているカードに限る。見てもいない、オレたちや北田気の手札の中身まですり替えることはできない。
②同時に二枚以上のカードを、歪ませる対象に選ぶことはできない。
③能力の有効時間に制限はない。
④焔村かスオウ、もしくは両方の任意のタイミングで、歪みを解除することができる。対象の歪みが消えることで、新しい対象を選ぶことができる。
⑤歪みは、SNoWのカードの種類を惑わす、というものに限定される。存在の有無を歪ませて、枚数を操ることはできない。一枚のカードを、一目見たら逃げ出したくなるようなバケモノへと歪ませて、試合放棄させたりもできない。
⑥少なくとも二人以上に対して、一枚のカードへ共通の歪みを与えることができる。人数上限は不明だが、ジャッジ全員を抱き込めるほどとは考えにくい。
⑦能力の使用可能数は100回であると思われる。ただし残弾を知る手立てはないため、現状これに関する考慮は控える。
……と、こんなところかな)
(あなた、この短時間でそこまで考えてたの!?)
右手で側頭を抑えるジェローナ。
(すごい集中力ね)
(順を追って説明しようか。①②は、いま準決勝Bを思い返して気づいたことだ。結局負けたとはいえ、北田気はそれなりに脅威を展開できていた。『小隊』から『絡新婦』を特殊召喚できていたこととかを踏まえると、①は間違いないと思う。もし見えないカードの認知まで操れるなら、『絡新婦』は召喚させなかったはずだ。アレさえなければ、北田気の打点は一気に下がる)
(北田気さんのデッキは、『絡新婦』以外は割と小粒だったものね。質と量を兼ね備えたデッキではあったけど、質の柱が『絡新婦』のみだった、というところかしら。そこを折れば勝ちやすくもなるわよね)
(あとは、①②が正しくないと『狩衣』自体が強すぎる、って事情もある。創世導師がTCGをやったことがあるとは思えないけど、パワーバランスについては考えてあると信じたい。まあ理由はどうあれ、もう少し確信できるだけの材料が欲しいところだね)
ジェローナは黙ってうなずく。
ゲームは五回裏。焔村はプラグから、二枚目の『脱走した僧兵』を召喚した。
(③の証拠はないけど、少なくとも2ターンは続いたんだ。最悪のケースを想定した。
④はローナやセディアルの能力からの連想だ。いづれも100回使いきりなら、これが自然だと思う。もし解除せずに新たな対象を選べるなら、デッキが違っただろう。もっと頻繁に相手の手札を見て、相手の切り札をクズカードと誤解させることで、無力化を図る……なんて戦法も取れるからな)
(あなた、将来は探偵ができるんじゃないかしら)真顔のジェローナ。
(⑤は『無燈のシトー』がヒントになった。この事情があれば、『脱走した僧兵』を積んであのカードを採用しない理由たりえる。召喚時効果強制発動の『シトー』は、『破滅の扇動者』へと歪ませると、処理にエラーが出るからね)
(②と⑤の両方が正しいなら、対象とするカードが場に出ている場合、歪みによる虚像との色やコストが同じってことになりそうね。召喚するとき支払ったFmの向きは誤魔化せそうにないもの)
(ああ。それも、『僧兵』と『扇動者』を同時採用している理由なんだろう。2コストのカードより、1コスのを『扇動者』に化かした方が、理論上は戦術的に有効だからな。
⑥はまあ、ものの見事にオレもローナも引っかかってるから、だな。一両日で焔村の試合に関わったジャッジの話題が上がっていたわけでもないし、ジャッジにさえミスをさせるようなことはないと思いたい。幸か不幸か、オレの監視のために決勝卓はたくさんのジャッジがついてるし、この点は心配しなくていいだろう。⑦も説明はいらないな)
(理屈は判ったわ。全面的に異論ナシよ)
(ありがとう。じゃあここで、『先陣の白翼』を引っ張ってくれ)
『先陣の白翼』(白)(緑)(4)
プログレ――鳥 / 星導軍
あなたがこのカードを召喚するとき、このカードより点数で見たコストが低いプログレが出るまで、あなたのデッキを上から順に除外する。そのプログレを場に出してもよい。
BP5000 / HR5 / RV(星導軍)
うっかり開いた口を、ジェローナは慌てて抑える。
(うそ! この勝負は勝ちを譲るんでしょう? 残弾を減らすことないじゃない)
(なんとしても、仮説が正しいことを確かめておきたいんだ。だからローナ。アンネに、今から『先陣の白翼』を使って『へべれけ赤熊亭の常連』を特殊召喚すると報告してもらえるか)
それはかまわないけど、と不思議そうな顔をする。
(そして三分おきに、報告の通りになったかをアンネに教えてもらって欲しい。同じことを繰り返させて嫌だろうけどさ)
(どうしてその二枚なの?)
(『先陣の白翼』は打ち消されても効果は発動できるうえ、コイツ自身もそれなりのサイズがある。①が正しくなければ、召喚する前にコイツの認識を歪ませてくるはずだ。『へべれけ赤熊亭の常連』も、焔村は『大洪水』でしか対処できない。同時に二枚以上を歪ませられるなら、絶対こっちにもアクションを起こしてくる)
(要は出方を見るのに最適ってことね。判ったわ、アンネに頼みましょう)
(それから北田気の件を聞こう。あとは次のゲームに勝てばいい!)




