9 機知の戦い
「とまあ、なんだかよくわからないうちに一戦終わってたんだけど」
腰に手を当てながら、ジェローナが言う。
「正直、なんだかよくわからなかったわ。どこが勝負どころだったのやら」
(そういえば、まだゲームの流れを話してなかったっけか。そりゃ、判らないよな)
「いや、そうじゃなくて――流れ知らないってのも、確かにそうなんだけど。それはさほど問題じゃないわ」
(あ、そう?)
「要するに、相手より大きく・たくさんのプログレを並べるのが大事なんでしょ? スプレーやフロントの能力は、基本的に補助。一週間も見てれば気付くわよ」
尭史は素直に感心した。
TCGを知って数日でたどり着くは思えない真理だったからである。
「私が気になったのは、一体何が勝敗を分けたのか、ってトコロ。前半は相手が色々な瞬間魔法使って、激しく動いてるように見えたわ。でもいつの間にか尭史が勝ってたでしょ。趨勢がピンとこないのよ」
(流石だな、『流星映す剣聖』)尭史はニヤリとした。(センスあるじゃん)
「でしょー? やっぱり私すごい!」
手では月居のデッキをカットする。
(ニブい人だったら、今の試合を見てても疑問さえ抱けない。その点、そういう風に考えられるっていうのはさ。かなり見る目がある」
「もっと褒めてよね!」
(調子乗りすぎだタコ)
ハードローダーの上から、デコピンをかます。
「鮎川くん? なーにカードつついたりしてんの」
訛りきった口調で、月居が言う。
「ニヤついてるし、なんか不気味だよ」
憮然とした風で、尭史を見ていた。
「あ、いや。なんでもない。そっち先攻?」
「そぉれはさっき確認したべ。見てのとおりFmもセットしたもん。そっちの番だよ」
「おおう。んじゃ、『若葉風を運ぶもの』をセットしてターンエンド」
「何度聞いても、すごい方言ね。相手の人」
(月居は茨城県一位。実家は県西で、特に訛りが強いんだとさ)
「インパクトあるって意味じゃ、目を見張るけどね」
代表選手64人のうち、女性は二人しかいない。月居妙は、それだけでも十分に目を引く。
そのうえ服装は、切りっぱなしのシャツとオーバーオール。
あまりに場に似つかわない、カントリーな出で立ち。
口振りも合わさって、異常なまでの個性が表れていた。
「ていうか、知り合いなの?」
(土浦のカードショップに行くと、よく顔を合わせるんだよ。月居も、たまに千葉に来るし)
「ふうん」
(だからこそ、戦う前から相手の出方が判ったし。勝利も確信できた)
ジェローナは顎に人差し指を当てた。
「それで、さっきの話が途中だったんだけど」
(ああ、勝負どころの話だったっけ)
三つ目のFmを設置しながら、尭史は考える。
(それを説明するには、まずアーキタイプについて知ってもらう必要があるかな)
「なにそれ?」
その間に月居は、『予期されたひらめき』の瞬間魔法を使用した。
(アーキタイプってのは、英語で原型って意味なんだけど。TCGにおいては、転じて『構成的に見たデッキの分類』みたいな感じで使われてる)
「い、いきなり抽象的なことを言うわね」
(言い換えるなら、『戦い方によるデッキの仕分け』かな。最も大雑把な定義によれば、ほとんどのデッキは三つに分類できる)
「なんかすごい難しそうなんだけど」
(なら、アーキタイプって言葉の意味は忘れてもいい。けどこれから言う三つの違いは重要だ。覚えてくれ)
「努力するわ」
(一つ目は、ビートダウン。名前通り、能動的な攻撃によって相手を殴り倒す。相手にダメージを蓄積させることでライフを削りきり、勝利を目指すタイプだ)
「ってことは、それ以外の戦い方があるの」
(その通りだ。TCGに触れたばかりで、一切研究したことのない小学生なんかは、殴り倒す以外の戦い方を知らなかったりするんだけどさ)
「なら聞かせてもらいましょう」
(二つ目は、コントロール。相手の動きを妨害して、ゆっくりとペースを掴んでいく。相手が何も出来なくなったところで攻勢に移って、勝利を目指すタイプ)
「守りを固めるってこと?」
(いい視点だ。ただしその答えは合っていて、間違っている。確かに、相手が攻めきれないほどの守りを固めることでコントロールすることもある。けれど妨害の方法は、それだけじゃない)
「なにその芝居がかったセリフ」
(言葉を選んでんだよ。TCGにおける妨害ってのは一口じゃ言い切れないんだ。手札を破壊する方法。出てきたプログレをことごとく除去する方法。デッキから強力なプログレを抜き去る方法。Fmを取っ払う方法。とかさ」
「相手のやりたいことを出来なくさせる、って点で共通してるみたいね」
(三つ目は、コンボ。準備を整えて、あるタイミングで一気に攻める。特定のカードによる強力な組み合わせを発揮することで、カタをつけるタイプだ)
「もっと具体的に言えない?」
(じゃあこんな例えはどうだ。自分の場に五体のプログレを並べて、一体あたり六点のライフを削れるようになる瞬間魔法と、自分のプログレが防御されなくなる瞬間魔法を同時に使用する。そうすれば合計で30のライフダメージを与えられるだろ? 相手は死ぬ)
「そりゃまた、無慈悲ね」
(まあでも、なんとなく判ったろ。今の例を言い換えれば、五体のプログレを場に・特定のスプレーを手札に用意すれば勝ちってわけだ)
「なんとなくは、ね」
(さて。これら三つのアーキタイプは、それぞれジャンケンの関係にあるんだ。ビートダウンは相手が妨害するよりも早く攻められるため、コントロールに強い。コントロールは相手の準備や決定打のパーツを狙って妨害できるため、コンボに強い。コンボは決定打を邪魔されないため、ビートダウンに強い)
「小難しい話がジャンケンに行き着くの!?」
(大雑把な定義だって言ったろ。実際はここまで単純じゃない。コントロール寄りのビートダウンとかもあるし。コンボデッキ同士でも優劣があったりするし。今回は便宜上三つに分けたけど、最近は六つや九つに分ける方が一般的だし)
「あ、そゆこと」
(ここまでの前提があってようやく、この対戦について解説ができる)
「長かったわねホント」
(さっきの定義に準ずると、オレのデッキはコントロール。月居のデッキはビートダウンに近いコンボに分類されるんだ。となれば、相性はどうなるか。わかるだろ」
「相手の決定打を妨害すれば、こっちがペースを握れるわけね」
(そういうことだ。『予期されたひらめき』も、『甘美なる真夏の夜』も、コンボを揃えるための準備の手段。オレはそれらを使って加えられたパーツを狙い撃てば、勝てる)
まだ前半戦にも関わらず、尭史は余裕の表情を浮かべていた。
一方の月居は、尭史の心の声など知る由もない。
「『亡霊呼びの男爵、スルール』を召還。続けて『巧緻なる魔皇子、レクトル』を召喚!」
(来たぜ。あれが月居の切り札だ)
「レクトルのトリガー効果により、名称を変更。スルールとリンゲージします!」
「カットイン。瞬間魔法、『玉虫色の発頸』をキャスト。リンゲージ前のレクトルへ4000火力」
「あー」
為す術なく裏返されたレクトルを、ジェローナは見届けた。
(これも一つのコントロールだ。わかったか?)
月居の苦々しい顔が、目に入った。




