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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
73/106

73 無理強いた成果

「Fm置いて手札から『命削りの火薬庫』を使用!」

 逆嶋が(つば)を飛ばすので、セディアルが露骨に嫌な顔をする。

「破壊してコスト軽うしてもう一枚顕現や」

 当然のように12点のダメージが叩き出される。敵のライフは残り10。自分は18。


「『首狩り』を横向きにして『ビザンティン』焼いたる。続けて『無頼の黄泉路』。サイの目は6。ほんでコンバット、ええな?」

 我が物顔の逆嶋。

 もう右手が伸びて、プログレを横倒そうとする。


 だがそこに、尭史の手が伸びる。

「まだですよ。コンバットには入っていない」

 そして左手に握る二枚を、そのまま表にした。

「そんなものが、通るはずはないでしょう」



『阻害のための集合』 (X)(青)(青)

スプレー

 あなたは、このカードのコストを支払うのではなく、あなたの手札にある、点数で見たコストがXである青のカードを1枚、追放することを選んでもよい。

 顕現一つを対象とする。その点数で見たコストがXである場合、それを打ち消す。



「コストに『氷雪嵐中の霹靂』を選択。顕現時以外ではX=0ですから、『黄泉路』を打ち消します」



「ッッ!!」

 瞬間。

 逆嶋は――自分の誤りに気づいた。

 ジェローナが操作したのはきっと、『ビザンティン』ではなかったのだ。


(最初に直感しとったやないか! こんなんこのマッチで使てゆきたいカードやない。ましてトップを好きに選べて! こっちが『首狩り』を出してるっちゅうなかで! わざわざあんな低パワーのもんを出すんはオカシイ!)


 攻めきらねばならない、というこちらの焦りを逆手にとって、尭史はわざと隙を見せたのだろう。そこを、ジェローナが引っ張った『阻害のための集合』で返す。

 『偶機待ち』を通したことからしても、これでなければ筋が通らない。『ビザンティン』は初手から持ち続けていたのだ。


(大概にせえよ、このガキ……!)

 逆嶋の理性を離れ、少しずつ激情が表れ始めた。

 血が昇るのを感じながらも、逆嶋は必死に考えていた。

 このまま全力で攻めたらどうなるか。まだ攻めきれるのか?


(ああ、くそが。この手番では勝たれへん。回復されて、3点は余ってまう)

 ゆえに、どうしてもターンを(また)ぐ。

 そして尭史は間違いなくドローを操作するだろう。

 そうなったらもう、どうなるか判らない。

(くそが! 今すぐどつきたいわ)

 

「コンバット。『掘削者』『勘違い者』で攻撃。第2メインに解放8」

 一時的とはいえ、尭史のライフを1まで削ったにも関わらず。

 そう言う逆嶋の声は苦々しげだった。


 間髪入れずに、ジェローナの目が光る。

 それに注視していたせいで、尭史の変化にはまるで気づいていなかった。

 彼の様子もまた、決して芳しくはなかったのだが。


「おれのターン。『天駆ける大狼』を召喚。効果で『渇仰(かつごう)』を場に出します」



『天駆ける大狼』(青)(青)(4)

プログレ――獣 / 武士 / 騎士

 このプログレが場に出たとき、自分の山札を見る。その中から点数で見たコストが4以下のカードを1枚選び、山札をシャッフルしてからコストを支払わずに顕現する(召喚はできない)。

BP5000 / HR3 / RV(同種族)

【一枚制限】



『渇仰』(白)(3)

エポック

プログレを一体でもコントロールしているプレイヤーへの、ライフの総量を1点未満に減少させるダメージは、代わりにライフの総量が1点になるまで減少させる。



 逆嶋は文字通り(うな)った。

(さっさと『大狼』を殺さんと、勝ち筋全部潰されるっちゅーことか!)

 X=4で回復します、と言う尭史の言葉を聞くかどうかのうちに、逆嶋はもうドローしていた。


 その手に収まったのは、『首狩り陣形』。


 血色の良かった顔が、みるみる青ざめていく。

 逆嶋は絶句した。

 ここでこれが引けると、前から判っていたら。


(それまでは全部、ぜんぶ上手く行っとったんや)

 前のターン、無理に『黄泉路』は使わなかった。

 ()()()()Fm()()()()()()()()()()()()()()()()

 次ターンに『大狼』を焼ける『陣形』を敷きつつ、機を(うかが)えたはずである――つまり。

(それが、それがあの一手で!)



 『阻害のための集合』一枚のせいで、900万がにわかに遠のいた!

 


 結論づいた瞬間、拳がテーブルを強く叩いていた。

 屈辱(くつじょく)をどこにぶつけていいか判らない。それが一層、逆嶋の怒りを(たぎ)らせていた。



「ワイの、負けや」

 拳はまだ解かれず。

 声はどこまでも、憎々しげだった。



 思うがままの感情をむき出しにして、そのまま尭史を睨む。

 恐る恐る目を合わせたオタクは、その眼光に飛び上がった。


「デウス・エクス・マキナ……」

「えっ……? な、なんですか」

「キサマ、その力で負けた人間がどう思うか、わかるか」


 尭史にとって人生で初めて聞くような、重くドスの聞いた声である。

 SNoWに関わるものとはまったく別種の恐怖に、身が(すく)んだ。

 震え、どもりながらも。しかしなんとか、こう答えた。

「わ、わかってる、つもりです。ゲームではない気にさせられる、と、いうのは」


「そんでも続けとんねやから、覚悟は出来とるやろな」

 

 言葉で答えるような度胸は、まだ尭史にはなかった。

 激しくまばたきをしながら。

 しかし辛うじて、頷き返すことはできた。


「ふん」

 軽蔑するような目で尭史の答えを確認すると、熱のこもった息を吐き出す。

 それで気持ちを切り替えたかのように、カードの整理を始めた。



「セディアル!」



 と、そのとき。

 敗北のストレスを逆撫でるような大声が、間に入ってきた。

 逆嶋は鬼のような形相で、声の主を睨む。


 尭史ではない。その手元に立つ、女騎士である。


「おどれは――」

 脅し文句の一つも出ようというところ、ジェローナはさらに叫んだ。

 それは逆嶋への言葉ではなかっただが、彼を怯ませるものでもあった。


「あなたにとって、お金って何?」

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