73 無理強いた成果
「Fm置いて手札から『命削りの火薬庫』を使用!」
逆嶋が唾を飛ばすので、セディアルが露骨に嫌な顔をする。
「破壊してコスト軽うしてもう一枚顕現や」
当然のように12点のダメージが叩き出される。敵のライフは残り10。自分は18。
「『首狩り』を横向きにして『ビザンティン』焼いたる。続けて『無頼の黄泉路』。サイの目は6。ほんでコンバット、ええな?」
我が物顔の逆嶋。
もう右手が伸びて、プログレを横倒そうとする。
だがそこに、尭史の手が伸びる。
「まだですよ。コンバットには入っていない」
そして左手に握る二枚を、そのまま表にした。
「そんなものが、通るはずはないでしょう」
『阻害のための集合』 (X)(青)(青)
スプレー
あなたは、このカードのコストを支払うのではなく、あなたの手札にある、点数で見たコストがXである青のカードを1枚、追放することを選んでもよい。
顕現一つを対象とする。その点数で見たコストがXである場合、それを打ち消す。
「コストに『氷雪嵐中の霹靂』を選択。顕現時以外ではX=0ですから、『黄泉路』を打ち消します」
「ッッ!!」
瞬間。
逆嶋は――自分の誤りに気づいた。
ジェローナが操作したのはきっと、『ビザンティン』ではなかったのだ。
(最初に直感しとったやないか! こんなんこのマッチで使てゆきたいカードやない。ましてトップを好きに選べて! こっちが『首狩り』を出してるっちゅうなかで! わざわざあんな低パワーのもんを出すんはオカシイ!)
攻めきらねばならない、というこちらの焦りを逆手にとって、尭史はわざと隙を見せたのだろう。そこを、ジェローナが引っ張った『阻害のための集合』で返す。
『偶機待ち』を通したことからしても、これでなければ筋が通らない。『ビザンティン』は初手から持ち続けていたのだ。
(大概にせえよ、このガキ……!)
逆嶋の理性を離れ、少しずつ激情が表れ始めた。
血が昇るのを感じながらも、逆嶋は必死に考えていた。
このまま全力で攻めたらどうなるか。まだ攻めきれるのか?
(ああ、くそが。この手番では勝たれへん。回復されて、3点は余ってまう)
ゆえに、どうしてもターンを跨ぐ。
そして尭史は間違いなくドローを操作するだろう。
そうなったらもう、どうなるか判らない。
(くそが! 今すぐどつきたいわ)
「コンバット。『掘削者』『勘違い者』で攻撃。第2メインに解放8」
一時的とはいえ、尭史のライフを1まで削ったにも関わらず。
そう言う逆嶋の声は苦々しげだった。
間髪入れずに、ジェローナの目が光る。
それに注視していたせいで、尭史の変化にはまるで気づいていなかった。
彼の様子もまた、決して芳しくはなかったのだが。
「おれのターン。『天駆ける大狼』を召喚。効果で『渇仰』を場に出します」
『天駆ける大狼』(青)(青)(4)
プログレ――獣 / 武士 / 騎士
このプログレが場に出たとき、自分の山札を見る。その中から点数で見たコストが4以下のカードを1枚選び、山札をシャッフルしてからコストを支払わずに顕現する(召喚はできない)。
BP5000 / HR3 / RV(同種族)
【一枚制限】
『渇仰』(白)(3)
エポック
プログレを一体でもコントロールしているプレイヤーへの、ライフの総量を1点未満に減少させるダメージは、代わりにライフの総量が1点になるまで減少させる。
逆嶋は文字通り唸った。
(さっさと『大狼』を殺さんと、勝ち筋全部潰されるっちゅーことか!)
X=4で回復します、と言う尭史の言葉を聞くかどうかのうちに、逆嶋はもうドローしていた。
その手に収まったのは、『首狩り陣形』。
血色の良かった顔が、みるみる青ざめていく。
逆嶋は絶句した。
ここでこれが引けると、前から判っていたら。
(それまでは全部、ぜんぶ上手く行っとったんや)
前のターン、無理に『黄泉路』は使わなかった。
五枚目のFmなど置かなければ、まだ戦えていた!
次ターンに『大狼』を焼ける『陣形』を敷きつつ、機を窺えたはずである――つまり。
(それが、それがあの一手で!)
『阻害のための集合』一枚のせいで、900万がにわかに遠のいた!
結論づいた瞬間、拳がテーブルを強く叩いていた。
屈辱をどこにぶつけていいか判らない。それが一層、逆嶋の怒りを滾らせていた。
「ワイの、負けや」
拳はまだ解かれず。
声はどこまでも、憎々しげだった。
思うがままの感情をむき出しにして、そのまま尭史を睨む。
恐る恐る目を合わせたオタクは、その眼光に飛び上がった。
「デウス・エクス・マキナ……」
「えっ……? な、なんですか」
「キサマ、その力で負けた人間がどう思うか、わかるか」
尭史にとって人生で初めて聞くような、重くドスの聞いた声である。
SNoWに関わるものとはまったく別種の恐怖に、身が竦んだ。
震え、どもりながらも。しかしなんとか、こう答えた。
「わ、わかってる、つもりです。ゲームではない気にさせられる、と、いうのは」
「そんでも続けとんねやから、覚悟は出来とるやろな」
言葉で答えるような度胸は、まだ尭史にはなかった。
激しくまばたきをしながら。
しかし辛うじて、頷き返すことはできた。
「ふん」
軽蔑するような目で尭史の答えを確認すると、熱のこもった息を吐き出す。
それで気持ちを切り替えたかのように、カードの整理を始めた。
「セディアル!」
と、そのとき。
敗北のストレスを逆撫でるような大声が、間に入ってきた。
逆嶋は鬼のような形相で、声の主を睨む。
尭史ではない。その手元に立つ、女騎士である。
「おどれは――」
脅し文句の一つも出ようというところ、ジェローナはさらに叫んだ。
それは逆嶋への言葉ではなかっただが、彼を怯ませるものでもあった。
「あなたにとって、お金って何?」




