74 真実を覆すもの
セディアルはずっと退屈していた。
決してTCGに興味がないわけではない。そこはジェローナたち他のFFと同様だった。経験こそないが関心はある。
もともと勝負事と縁が深いのだ。出身のメンブレンでは、軍を率いたことさえあった。
ゆえに本当は、とても手を出したいと思っている。
しかし一度だって、その思いを口にしたことはなかった。
彼女は自身の持ち主が嫌いだった。
手も口も出さない理由はただ、その一点に尽きる。
いまや逆嶋とは、一言だって口を効く気がない。そこまで意固地になっていた。
◆
「ああん?」
そんな中で飛び出た、ジェローナからの言葉は。
セディアルの関心を引くのに、十分すぎるものであった。
「面白いこと訊くじゃないの。そうだな、アタシにとっちゃ」
とまで言いかけると、思い出したような顔を見せる。
「いやまってその前に頭が高いんじゃないの?」
「うわあ」
セディアルの返事を聞くなり、ジェローナは目を丸くして。
さらに続けて、ゲラゲラ笑いだした。
「なんで私に訊くのよ! 知らないわよ!」
するとセディアルは一瞬、顔を強張らせる。
(これは怒るか……?)
そう尭史が不安がったのも束の間のこと。
「は、それもそうか!」
一緒になって笑いはじめた。青年は目が点である。
「あなた本当に、王としては偽物なのね」ジェローナは涙さえ見せる。
「おうそうとも」セディアルはなぜか誇らしげに、胸を張ってみせる。自信に満ちている。
「セディアル! やかましい!」
そこを制したのは、やはり逆嶋謙造であった。
ジェローナとセディアルはそれを一瞥すると、同じように肩を竦める。
中途半端な顔で見ていた尭史の方が、なぜかびびっていた。
「狭量な男め」
セディアルがぼそりと呟く。
(まったくその通りね)
アンネシーラに対してするように、ジェローナは念じた。
(ん……? なんだい今の。幻聴かい)
(私よ、ジェローナよ。あなたの心に直接語りかけています)
(なんだいそりゃあ。こういうことかい)
上手よ、とジェローナは微笑んで。
(それで、お金ってなんだと思う?)
◆
拡張パック23・24弾のメンブレンは、地殻が絶えず動く地球が舞台である。
水源や鉱山が絶えず生まれては消え、一所に留まらないために、各国の領土――とりわけ資源地――争いが止まない。
生産性が不安定であるがゆえに、物価が極度に流動的となる。ある日急騰した金の価値が、半年と経たずに錫以下に落ちる、といったことさえある。
名声ある王侯貴族は、他国との駆け引きに追われ。
定住する弱き者は、賊や遊牧民の襲来に日々脅え。
流浪の遊牧民は、突然の地形の変化で身を滅ぼし。
都市の商人も、価格変動による破産に命を賭ける。
だれであれ、確かなモノにすがることが出来ない。
何もかもが変動し、安定からはほど遠い。
ひとたび覇を唱えた征服者も、ほんの数ヶ月で食糧難に喘ぐことが少なくない。
形あるモノに頼らずこなされる仕事が美しいとされ、それゆえに、徒手の武術家や、道具や素材を選ばない芸術家が、他のメンブレンと比べてもはるかに高く評価される。
セディアルが生まれたのは、そういった世界だった。
彼女は、弱小領主が抱える酒造職人の家の、末っ子であった。
十五のときにその領主が討たれ、一帯は強大な隣国に吸収される。その際、若き皇女・ジェンナー五世と容姿が瓜二つだということで、宮殿へと連行される。
そしてセディアル自身の意志とは関係なく、皇女の影武者に選ばれる。それからは、表面的には女王として振る舞えるよう、厳しい教育を受けさせられた。
数年たって皇帝は死に、ジェンナー五世が女王として即位する。
この人物が、ひどい暴君であった。
気分次第で負け戦に兵を投入し、反対した臣下は平気で左遷するような体たらくである。
即位から間もなくして国力は衰えだし、目に見えて領地は奪われていった。
そんなある日、セディアルは影武者として、緊迫した関係にあった国と、女王として直接に外交交渉をしていた。
その最中。
身を潜めていた本物のジェンナー五世が暗殺されてしまう。
こうした場合、次の指導者を巡って内乱が起きるのが常である。
しかし一部の貴族たちは、こう考えた。
『ここで一触即発の敵国に、主導者不在の状況を晒すわけにはいかない』
『そうすれば、間違いなく国が滅びる』
『ならば、既得権益を約束させた上で、セディアルに成り代わらせる方が、得策ではないか』
……と。
そして、セディアルは有力な貴族たちに、そのまま女王として擁立されることになってしまう。
運命に翻弄された偽物の女王は、しかしその瞬間から、大改革を成し遂げる名君の才を遺憾なく発揮する――。
これが23弾のストーリーの冒頭である。
◆
アンネシーラの淀みない語りに、ジェローナは心から惹かれた。
それはやはり、元の世界で強者に立ち向かい続けてきたジェローナが、舌を巻くほどの名君――すなわちセディアル――に、強い感銘を受けたことが大きい。
(あなたの話は聞いてるわ、セディアル)
ゆえにその声色には、少なからず尊敬の念が含まれていた。
(衰えかけの国を建て直して、民に幸福をもたらしたって)
(ちょいと。なんでそんなこと知ってるんだい)
(あら、創世導師から聞いてない? このメンブレンは……)
そうして二人は、治世について話しだす。
むろんその間も、サイドボーティングが進んでいるのだが。しばしそのことは、二人の間から抜けていた。




