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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
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74/106

74 真実を覆すもの

 セディアルはずっと退屈していた。


 決してTCGに興味がないわけではない。そこはジェローナたち他のFFと同様だった。経験こそないが関心はある。

 もともと勝負事と縁が深いのだ。出身のメンブレンでは、軍を率いたことさえあった。

 ゆえに本当は、とても手を出したいと思っている。

 しかし一度だって、その思いを口にしたことはなかった。


 彼女は自身の持ち主が嫌いだった。

 手も口も出さない理由はただ、その一点に尽きる。

 いまや逆嶋とは、一言だって口を効く気がない。そこまで意固地になっていた。





「ああん?」

 そんな中で飛び出た、ジェローナからの言葉は。

 セディアルの関心を引くのに、十分すぎるものであった。


「面白いこと訊くじゃないの。そうだな、アタシにとっちゃ」

 とまで言いかけると、思い出したような顔を見せる。

「いやまってその前に頭が高いんじゃないの?」


「うわあ」

 セディアルの返事を聞くなり、ジェローナは目を丸くして。

 さらに続けて、ゲラゲラ笑いだした。

「なんで私に訊くのよ! 知らないわよ!」


 するとセディアルは一瞬、顔を強張(こわば)らせる。

(これは怒るか……?)

 そう尭史が不安がったのも束の間のこと。


「は、それもそうか!」

 一緒になって笑いはじめた。青年は目が点である。


「あなた本当に、王としては偽物なのね」ジェローナは涙さえ見せる。

「おうそうとも」セディアルはなぜか誇らしげに、胸を張ってみせる。自信に満ちている。



「セディアル! やかましい!」

 そこを制したのは、やはり逆嶋謙造であった。

 ジェローナとセディアルはそれを一瞥(いちべつ)すると、同じように肩を(すく)める。

 中途半端な顔で見ていた尭史の方が、なぜかびびっていた。


狭量(きょうりょう)な男め」

 セディアルがぼそりと呟く。

(まったくその通りね)

 アンネシーラに対してするように、ジェローナは念じた。


(ん……? なんだい今の。幻聴かい)

(私よ、ジェローナよ。あなたの心に直接語りかけています)

(なんだいそりゃあ。こういうことかい)

 上手よ、とジェローナは微笑(ほほえ)んで。

(それで、お金ってなんだと思う?)





 拡張パック23・24弾のメンブレンは、地殻が絶えず動く地球が舞台である。

 水源や鉱山が絶えず生まれては消え、一所(ひとところ)に留まらないために、各国の領土――とりわけ資源地――争いが止まない。

 生産性が不安定であるがゆえに、物価が極度に流動的となる。ある日急騰(きゅうとう)した(きん)の価値が、半年と経たずに(すず)以下に落ちる、といったことさえある。


 名声ある王侯貴族は、他国との駆け引きに追われ。

 定住する弱き者は、賊や遊牧民の襲来に日々脅え。

 流浪の遊牧民は、突然の地形の変化で身を滅ぼし。

 都市の商人も、価格変動による破産に命を賭ける。

 だれであれ、確かなモノにすがることが出来ない。


 何もかもが変動し、安定からはほど遠い。

 ひとたび覇を唱えた征服者も、ほんの数ヶ月で食糧難に(あえ)ぐことが少なくない。


 形あるモノに頼らずこなされる仕事が美しいとされ、それゆえに、徒手の武術家や、道具や素材を選ばない芸術家が、他のメンブレンと比べてもはるかに高く評価される。

 セディアルが生まれたのは、そういった世界だった。



 彼女は、弱小領主が抱える酒造職人の家の、末っ子であった。

 十五のときにその領主が()たれ、一帯は強大な隣国に吸収される。その際、若き皇女・ジェンナー五世と容姿が(うり)二つだということで、宮殿へと連行される。

 そしてセディアル自身の意志とは関係なく、皇女の影武者に選ばれる。それからは、表面的には女王として振る舞えるよう、厳しい教育を受けさせられた。


 数年たって皇帝は死に、ジェンナー五世が女王として即位する。

 この人物が、ひどい暴君であった。

 気分次第で負け戦に兵を投入し、反対した臣下は平気で左遷(させん)するような体たらくである。

 即位から間もなくして国力は(おとろ)えだし、目に見えて領地は奪われていった。


 そんなある日、セディアルは影武者として、緊迫した関係にあった国と、女王として直接に外交交渉をしていた。

 その最中。

 身を潜めていた本物のジェンナー五世が暗殺されてしまう。


 こうした場合、次の指導者を巡って内乱が起きるのが常である。

 しかし一部の貴族たちは、こう考えた。

 『ここで一触即発の敵国に、主導者不在の状況を(さら)すわけにはいかない』

 『そうすれば、間違いなく国が滅びる』

 『ならば、既得権益を約束させた上で、セディアルに成り代わらせる方が、得策ではないか』

 ……と。

 

 そして、セディアルは有力な貴族たちに、そのまま女王として擁立(ようりつ)されることになってしまう。

 運命に翻弄(ほんろう)された偽物の女王は、しかしその瞬間から、大改革を成し()げる名君の才を遺憾(いかん)なく発揮(はっき)する――。


 これが23弾のストーリーの冒頭である。





 アンネシーラの淀みない語りに、ジェローナは心から()かれた。

 それはやはり、元の世界で強者に立ち向かい続けてきたジェローナが、舌を巻くほどの名君――すなわちセディアル――に、強い感銘(かんめい)を受けたことが大きい。


(あなたの話は聞いてるわ、セディアル)

 ゆえにその声色には、少なからず尊敬の念が含まれていた。

(衰えかけの国を建て直して、民に幸福をもたらしたって)


(ちょいと。なんでそんなこと知ってるんだい)

(あら、創世導師から聞いてない? このメンブレンは……)


 そうして二人は、治世について話しだす。

 むろんその間も、サイドボーティングが進んでいるのだが。しばしそのことは、二人の間から抜けていた。

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