72 不正利得
自他ともに認める守銭奴である。
逆嶋謙造といえば、すなわち金の亡者であった。
いったい何が、彼をそう歪ませたのか。明確なきっかけは特にない。
あえて言えば、金より豊かな経験というものが、彼の人生には不足していた。
恐喝など当たり前だった。いつそうなったかも判らないほど、荒れた生活が染み着いていた。
オヤジ狩りもオタク狩りもしてきた。下手を打って警察に補導されたこともあった。
面倒そうな顔をぶら下げて警察署へ迎えに来た母と、結局現れなかった父のことが、今も色濃く記憶に残る。
その後、補導されてからだったろうか。彼は金を奪うための新たな方法を探しだした。身近で、警察に嗅ぎつけられないようなもの。
そして中学生のころ、たまたま行き着いたのがカードゲームだった。
まず、元手が少なくて済んだ。
中高生のわずかな小遣いを種銭に、レア抜きを通して金を数倍に膨らませることができた。
不正に入手したレアカードを中心にデッキを組み、巧妙にイカサマをすれば、大会で勝つことも簡単だった。
これは正確に言えば、逆嶋にとっては難しくなかった、ということである。同じくらいレアリティのあるデッキを持ちこんだ悪友は、なかなか成果を出せないでいた。
これによって、彼は自分にプレイスキルがあるのだと悟った。
大会での優勝を重ねるうち、強豪だとの評価も生まれてきた。
気がつけば、ただ名乗るだけで、初対面のプレイヤーの注意を引けた。そういったプレイヤーはたいてい共通して、ゲーム内では警戒心を強める。しかしゲームが終われば、不思議なほど警戒心を解いた。
オタク特有の仲間意識を受け流しながら、逆嶋は無防備なプレイヤーからレアカードを盗み続けた。
不誠実な大会運営もまた、その強さゆえに成立するものだった。参加費が割高でも、関西屈指の強豪が主催となれば、参加者は絶えなかった。
こうして当時の彼は、十代とは思えないほどの稼ぎを上げていった。
ただ、今は彼自身も成人してしまった。何かの間違いで捕まれば、もう洒落にならない。
しかもインターネットでの告発も容易になった。もう、こっそり悪事を働くのは難しい。
ゆえにそういった行為は辞めている。
リスクと手間に対して、得られる利益が釣り合わない。単にそう思っただけである。
にも関わらず。
(儲らへんのにな。なんでか、このゲームを辞める気はせえへんのや)
擲つには惜しいまでに、カードを買い続けていたからか。
不正な手段とはいえ、長くこれで稼がせてもらったからか。
時間の許す限り、彼は今日まで、馴染みのカードショップで試合を重ねている。
(バカタレどもが、稼げへんと判っとるのにパチ打つようなもんか? ワシも同じバカタレっちゅーことか)
時々気になるが、深く考えたことはない。
いつか飽きる日が来れば、そのとき辞めるだけだ。逆嶋はそんなふうに割り切っていた。
ただし彼の執着心は、900万円という富には勝ち得ないらしい。
先月焔村から、同じ『持ち主』としてIDを持ちかけられた際、逆嶋は即時にこれを受け入れた。
業突く張りな二つ返事には、焔村も本心から苦笑いしたものだった。
(ま……焔村の言い分ちゅーのも、どうせ建前なんやろけど)
荒唐無稽な執着心を鵜呑みにするほど、逆嶋は世間知らずではない。
しかし本人に言う気がないなら、どうだっていいのである。
(ワシは金の亡者。900万が貪れらァ娑婆など関ぜんわ)
◆
復活したプログレは横向きで場に出る。『勘違い者』も『掘削者』も、このターンは攻撃できない。
「渡すで」パチンとひとつ、わざと手札を鳴らした。
その次の瞬間。
ローナの眼が光を宿したのを、逆嶋はハッキリ眼にした。
「……!」
次に眼を目を凝らしたときにはもう元に戻っていたが、澄んだ青色はもう眼に焼き付いていた。
(間違いあらへんな。今、なにかを手札に入れた!)
二回戦の『連鎖する変異』がきっかけで、逆嶋にはローナの能力にはアタリがついている。
ドローの操作。
そうでもなければ、二回戦以降の勝利はほとんど説明がつかない。
(ちぃとばかし気になっとったんは、操作時の指定範囲と条件やった。コストくらいしか指定できひんかったり、初手では使えへんかったりするかと思うたが。準々の二本目見て、その期待も無うなった)
狙ったカードをピンポイントで引け、初手からの操作も可能。
焔村と話した末、その結論で一致している。
でなければあの、一義的には『清涼で甘美な日々』すら凌駕する奇跡は叶わない。
ただし――この能力に気づいても。
逆嶋に今出来ることは何ひとつ無い。
ただ黙って、尭史の召喚を看過する他なかった。
『精霊竜、ビザンティン』(白)(青)(黒)(赤)(緑)
プログレ(レジェンダリー)――ドラゴン、ソウル
Fmとなったこのカードでコストを支払うとき、払うべき値は(1)増える。
制空
このカードが召喚されたとき、どちらかを選ぶ。
・カードを三枚引く。
・デッキの上から二枚をFmにする。
BP3500 / HR3 / RVなし
(こいつを引っ張ってきたんか……?)
五色デッキでは超定番のドラゴン。
長年見慣れたそれを、逆嶋は無意識にしげしげ眺める。
継戦能力を高めるならトップクラスの性能だが、戦闘力はあまりに低い。
三手前に出した『首狩り陣形』だけで焼くことができてしまうほどに。
「Fmを伸ばします」
逆嶋は尭史の手元よりもむしろ、ジェローナの眼を睨む。
(ここは使わへんのか)
そして場に出たカードは、どちらも多色。
七枚ものFmがありながら、すべてが横向きだった。
(ちゅーと、ここが最後の攻め時やな)
尭史側のライフは22、手札は二枚。タップアウト。
逆嶋の手札は三枚――うち二枚が、『命削りの火薬庫』。
(初手から腐らせてそうな手札が二枚に、Fmも無し! 鮎川が何かするとは思えへん。ここでアレを引きゃ、勝ちや)
怒り肩で一気に、逆嶋はドローした!
『無頼の黄泉路』(黒)(赤)
エポック
顕現を宣言したとき、ダイスを一度降る。顕現の追加コストとして、出た目の数だけ、自分の墓地からカードを除外する。これが払えないとき、このカードは打ち消される。
追加コストに等しい数だけ、BP2000 / HR2 で種族; ゴースト、かつ颯爽を持つ、魍魎トークンを場に出す。
コンバットフェイズの終了時、またはこのカードが場を離れたとき、すべての魍魎トークンを破壊する。
軒昂たる気分が爆発するかのようだった。
これぞ! と鼻息が荒ぶる。
(ハ、ちょろい! これで勝ちはもろたわ!)
窃盗は犯罪です。
また、パックのサーチ行為は禁止されることが多く、現在では対策も進んでいます。
あとたぶん逆嶋は所得税の申告もすっぽかしてると思いますが、脱税も犯罪です。




