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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
72/106

72 不正利得

 自他ともに認める守銭奴である。

 逆嶋謙造といえば、すなわち金の亡者であった。


 いったい何が、彼をそう歪ませたのか。明確なきっかけは特にない。

 あえて言えば、金より豊かな経験というものが、彼の人生には不足していた。


 恐喝など当たり前だった。いつそうなったかも判らないほど、荒れた生活が染み着いていた。

 オヤジ狩りもオタク狩りもしてきた。下手を打って警察に補導されたこともあった。

 面倒そうな顔をぶら下げて警察署へ迎えに来た母と、結局現れなかった父のことが、今も色濃く記憶に残る。



 その後、補導されてからだったろうか。彼は金を奪うための新たな方法を探しだした。身近で、警察に嗅ぎつけられないようなもの。

 そして中学生のころ、たまたま行き着いたのがカードゲームだった。



 まず、元手が少なくて済んだ。

 中高生のわずかな小遣いを種銭に、レア抜き(サーチ)を通して金を数倍に膨らませることができた。


 不正に入手したレアカードを中心にデッキを組み、巧妙にイカサマをすれば、大会で勝つことも簡単だった。

 これは正確に言えば、逆嶋にとっては難しくなかった、ということである。同じくらいレアリティのあるデッキを持ちこんだ悪友は、なかなか成果を出せないでいた。

 これによって、彼は自分にプレイスキルがあるのだと悟った。


 大会での優勝を重ねるうち、強豪だとの評価も生まれてきた。

 気がつけば、ただ名乗るだけで、初対面のプレイヤーの注意を引けた。そういったプレイヤーはたいてい共通して、ゲーム内では警戒心を強める。しかしゲームが終われば、不思議なほど警戒心を解いた。

 オタク特有の仲間意識を受け流しながら、逆嶋は無防備なプレイヤーからレアカードを盗み続けた。


 不誠実な大会運営もまた、その強さゆえに成立するものだった。参加費が割高でも、関西屈指の強豪が主催となれば、参加者は絶えなかった。

 こうして当時の彼は、十代とは思えないほどの稼ぎを上げていった。



 ただ、今は彼自身も成人してしまった。何かの間違いで捕まれば、もう洒落にならない。

 しかもインターネットでの告発も容易になった。もう、こっそり悪事を働くのは難しい。

 ゆえにそういった行為は辞めている。

 リスクと手間に対して、得られる利益が釣り合わない。単にそう思っただけである。



 にも関わらず。

(儲らへんのにな。なんでか、このゲームを辞める気はせえへんのや)

 (なげう)つには惜しいまでに、カードを買い続けていたからか。

 不正な手段とはいえ、長くこれで稼がせてもらったからか。

 時間の許す限り、彼は今日まで、馴染みのカードショップで試合を重ねている。


(バカタレどもが、稼げへんと判っとるのにパチ打つようなもんか? ワシも同じバカタレっちゅーことか)

 時々気になるが、深く考えたことはない。

 いつか飽きる日が来れば、そのとき辞めるだけだ。逆嶋はそんなふうに割り切っていた。



 ただし彼の執着心は、900万円という富には勝ち得ないらしい。

 先月焔村から、同じ『持ち主』としてIDを持ちかけられた際、逆嶋は即時にこれを受け入れた。

 業突く張りな二つ返事には、焔村も本心から苦笑いしたものだった。


(ま……焔村の言い分ちゅーのも、どうせ建前なんやろけど)

 荒唐無稽(こうとうむけい)な執着心を鵜呑みにするほど、逆嶋は世間知らずではない。

 しかし本人に言う気がないなら、どうだっていいのである。

(ワシは金の亡者。900万が貪れらァ娑婆など関ぜんわ)





 復活したプログレは横向き(アンステディ)で場に出る。『勘違い者』も『掘削者』も、このターンは攻撃できない。

「渡すで」パチンとひとつ、わざと手札を鳴らした。


 その次の瞬間。

 ローナの眼が光を宿したのを、逆嶋はハッキリ眼にした。

「……!」

 次に眼を目を()らしたときにはもう元に戻っていたが、澄んだ青色はもう眼に焼き付いていた。

(間違いあらへんな。今、なにかを手札に入れた!)



 二回戦の『連鎖する変異(第17話参照)』がきっかけで、逆嶋にはローナの能力にはアタリがついている。

 ドローの操作。

 そうでもなければ、二回戦以降の勝利はほとんど説明がつかない。



(ちぃとばかし気になっとったんは、操作時の指定範囲と条件やった。コストくらいしか指定できひんかったり、初手では使えへんかったりするかと思うたが。準々の二本目見て、その期待も無うなった)

 狙ったカードをピンポイントで引け、初手からの操作も可能。

 焔村と話した末、その結論で一致している。

 でなければあの、一義的には『清涼で甘美な日々』すら凌駕する奇跡は叶わない。


 ただし――この能力に気づいても。

 逆嶋に今出来ることは何ひとつ無い。

 ただ黙って、尭史の召喚を看過(かんか)する他なかった。



『精霊竜、ビザンティン』(白)(青)(黒)(赤)(緑)

プログレ(レジェンダリー)――ドラゴン、ソウル

 Fmとなったこのカードでコストを支払うとき、払うべき値は(1)増える。

 制空

 このカードが召喚されたとき、どちらかを選ぶ。

 ・カードを三枚引く。

 ・デッキの上から二枚をFmにする。

BP3500 / HR3 / RVなし



(こいつを引っ張ってきたんか……?)

 五色デッキでは超定番のドラゴン。

 長年見慣れたそれを、逆嶋は無意識にしげしげ眺める。

 継戦能力を高めるならトップクラスの性能だが、戦闘力はあまりに低い。

 三手前に出した『首狩り陣形』だけで焼くことができてしまうほどに。


「Fmを伸ばします」

 逆嶋は尭史の手元よりもむしろ、ジェローナの眼を(にら)む。

(ここは使わへんのか)


 そして場に出たカードは、どちらも多色。

 七枚ものFmがありながら、すべてが横向きだった。


(ちゅーと、ここが最後の攻め時やな)

 尭史側のライフは22、手札は二枚。タップアウト。

 逆嶋の手札は三枚――うち二枚が、『命削りの火薬庫』。


(初手から腐らせてそうな手札が二枚に、Fmも無し! 鮎川が何かするとは思えへん。ここでアレを引きゃ、勝ちや)

 怒り肩で一気に、逆嶋はドローした!



『無頼の黄泉路』(黒)(赤)

エポック

 顕現を宣言したとき、ダイスを一度降る。顕現の追加コストとして、出た目の数だけ、自分の墓地からカードを除外する。これが払えないとき、このカードは打ち消される。

 追加コストに等しい数だけ、BP2000 / HR2 で種族; ゴースト、かつ颯爽を持つ、魍魎(もうりょう)トークンを場に出す。

 コンバットフェイズの終了時、またはこのカードが場を離れたとき、すべての魍魎トークンを破壊する。



 軒昂(けんこう)たる気分が爆発するかのようだった。

 これぞ! と鼻息が荒ぶる。

(ハ、ちょろい! これで勝ちはもろたわ!)

 窃盗は犯罪です。

 また、パックのサーチ行為は禁止されることが多く、現在では対策も進んでいます。

 あとたぶん逆嶋は所得税の申告もすっぽかしてると思いますが、脱税も犯罪です。

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