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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準々決勝
61/106

61 抵抗の精神

(ワタシの勘が正しければ)

 伊豆浜床兵衛は、自らの直感を振り返る。

(この『サンドレ』は、初手からずっと手札に温存されてた一枚なのよね。タイミングを図らないといけない、『大いなる拒絶』やピッチスペルだとタカを括っていたけど)

 しかし、まるで違った。

 ふたを開ければ、数少ない伊豆浜の勝ち筋である、『マーメイド』を潰すための手段だったのだ。


生物が(ボードが)並ばない(取れない)フリをして、最初から『マーメイド』の吊り出しを狙ってた、とか? だとしたら舌を巻くプランニングね。こわーい)

 悔しさを押し止め、さらに深く考える。


(ワタシのデッキの弱点のひとつが、手札をため込めない状況。だから直接手札を破壊するカードは怖いんだけど、そこはこれまで『グレディスの信仰』を差すことで軽減してきた。けど今回の尭史ちゃんはちょっと違った)

 すでに使われ、ゲームから追放されたカードを見やる。

(『ヴァイス』に始まって『ブリキ兵』『にせ薬』と無視できないカードを連打して、そこに『ふるい』を絡めてきてる。それらに対抗しているせいで、結果的に手札が貯まらない。そして手が尽きたところで出てきた『骨肉の祭礼』! これに釣られて『マーメイド』を出したら、焼かれちゃうんだもの)

 思わず上唇をなめる。男の闘志はますます燃えていた。


(まるでワタシが手のひらの上で踊らされてるみたい。でもそれをひっくり返してこそ、伊豆浜床兵衛よ)

「ターン貰ってステディフェイズ、『生けるもの』の解放1を使用。『病めるもの』へ変身」

 『サンドレ』の攻撃で増えた魔力が一つ減り、水晶が回転する。

 その手をひとつ払ってから、デッキトップへと伸ばした。


 ゆっくりと引き寄せられる一枚。

 頼みの綱が(あら)わになったとき、観客はまたも沸き上がった。

(二枚目の『虚空漂着』!)


 願ってもなかったカードである。内心、伊豆浜は血湧き肉踊るようだった。

 それでも一歩立ち止まる。一時の気持ちに流されるとよりよい手を見失う。伊豆浜はそのことを経験的に知っていた。


(スプレーは相手のターンに使うのがセオリー。だし、『サンドレ』の攻撃を待って、魔力が欲しくもあるわん。でも『マーメイド』を復活させるために手札を使うと『ふるい』にかけられる。その方がずっと、都合が悪いわね)

 あとはもう、考え直すまでもなかった。

「『サンドレ』を追放。さらに『絹包み』をコストに『マーメイド』を復活。もう一体を墓地に送って、どうぞ」


 それを見た尭史の動きは速かった。

「ドロプラ、から『とこしえのシューレイ』を召喚。そのまま攻撃してエンドまで」


 伊豆浜は思わず右の肩を落とした。

(種類が変わっただけで状況が全然変わってない!)

 『サンドレ』を放置していたら、復活した「マーメイド』が再びやられていたという違いはある。しかし、大勢は似たようなものだった。

「こ、コンバット前に『老いるもの』の解放4!」

 咄嗟(とっさ)に弱体化を仕掛けるが、戦場を掌握されていることについてはまるで違いがなかった。


(ボードを取らないとやられる! これで次のターン『ヴィシャス』を使われでもしたら、それだけで終わりだし)

 最悪の事態だけは避けるため、FFを再び『生けるもの』に戻す。

 そして汗のにじむ手が引き寄せてきたカードは、しかし戦場にはなんら関与しないものだった。



『袋小路』(青)(1)

エポック

 このカードは第二メインフェイズに顕現できない。

 このカードを顕現したとき、それがあなたのターンであれば、残りのメイン及びコンバットステップを飛ばす。

  プレイヤー一人がコストを払って召喚・顕現を行ったとき、このカードを生け贄に捧げる。そうした場合、そのプレイヤーの対戦相手はそれぞれ、カードを三枚引く。



 使うアテのないカウンターを抱えるだけとなった伊豆浜には、それを顕現するほかにできることはなかった。

 あとはただ、次のターンに止めを刺されないように祈る。


「おれのターン。ドロー。うん、『御陵(みささぎ)の番人』を召喚。出てくるトークンのも併せて、『骨肉の祭礼』で二枚ドロー。そのままコンバットへ」

「『袋小路』で三枚ドロー。コンバット前に『生けるもの』の解放8を」

「『シューレイ』で攻撃、そのダメージ無効ですね。そしたら、エンドまで」


(なんとか生き延びた!)

 ほくそ笑みながら、伊豆浜は大きく息を吸い込む。

(でも戦場はまだ尭史ちゃんに握られてるし、お互いに手札もある状態。こっちはライフが半分で、魔力もない。となると)

 ゆっくり吐き出しつつ、腹を括った。

(たぶんこれが最後のチャンスね。ここでテンポが取れなければ、あとは負けるだけ)


 いまの手札を()めつ(すが)めつ、伊豆浜はこれから取る手段を反芻(はんすう)する。

(場を空にして、次のターンを迎えるしかない!)

 そして意を決した。

「ドロー。『乾荒原の拡大』を顕現。コンバットに『マーメイド』で攻撃したら、どうぞ」


「オレのターン。ドロー、追加コストなしで『打ち壊し』を顕現。対象は『乾荒原』」

「『記憶の閉じ込み』」

「……コンバットへ」

「『乾荒原』を発動よん」

「第二メイン、『リズ・ギルエンサ』を」

「『大いなる拒絶』!」

「ターン、渡します」


(来た!)

 このときの歓声は、伊豆浜の耳にも初めて届くほど大きかった。

 掌握(しょうあく)されていたはずの戦場が、 今度は更地に変わったのだ。興奮を隠せる者の方が少なかった。


「ワタシのターン、……! 『マーメイド』を追加で召喚、『木漏れ日の学者』をコストに一体を復活!」

(これでまた、ボードはワタシのもの。だけど)

 これも、コントロール全般の短所。

 相手に合わせることに重点を置くあまり、チャンスが来ても攻め手に欠けるのである。


(『燃え尽きぬ炎』がなければ、『死せるもの』で大きく出ることもできたでしょうに。今の手札だって、たった()()だけ)

 左の指に挟まれた、頼りなさげな一枚。

 最後の悪あがきに、見せつけるようにかざしてみる。


「おれのターン。『生き霊の招き手』を顕現します」

 伊豆浜はそれを、少し悲しげな目で見下ろした。



『生き霊の招き手』(青)(緑)(3)

プログレーーソウル / ゴースト

 Fmになるとき、アンステディされる。

 このカードが場に出たとき、場の他のプログレを一体選ぶ。あなたは、BP1000 / HR1 であることを除いて、選ばれたプログレのコピーであるトークンを一体場に出す。

BP4000 / HR4 / RV(同種族)



 そしてその目を、自分の左手へと戻す。

 結局手を伸ばせないまま 、またも一枚だけになってしまった手札。

 ーー二枚目の、『グレディスの信仰』。

(これが個別の対策を敷くことの弊害(へいがい)、よね)

 伊豆浜は尭史にも見えるように、首を横に大きく振った。


「ではこのトークンを生け贄に、ろ……『ジェローナ・メイル』の解放3を使用。すべての魚人を追放します。『ケルネルの弔い人』をコストに『御陵の番人』を復活。ついでにプラグして、どうぞ」

「ワタシのターン」


 三枚目の『乾荒原』を引けば、まだわからない。

 震え続ける手で彼は、カードを引き寄せて。



「負けたわ」



 最後の一枚は、『大いなる拒絶』。

 受け手の広い打ち消しも、すでに場にある生物にはなんの意味もなかった。

(まあ、これが普通のドローってものよね)


 これまでの尭史の動きを意識しすぎず、『グレディスの信仰』など抜いていれば、こうはならなかっただろうか。

 相手の動きを封じながらじわじわと命を削る、自分の戦略に忠実になっていれば?

 策士策に溺れるような負け方は、避けられただろうか。

 ――なんとなく振り返るものの、そんなものは結果論にすぎない。


「ベスト4入りを決めたのは、鮎川尭史イィィィーーーッ!」

 選手にも聞こえる大音量の実況に、尭史は立ち上がる。

 観客たちの拍手喝采(かっさい)に、伊豆浜もまた加わった。

 悔しさを押し殺して敵を賞賛する。それは大人としての、伊豆浜のとても小さな抵抗だった。

次回から準決勝編です。

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