61 抵抗の精神
(ワタシの勘が正しければ)
伊豆浜床兵衛は、自らの直感を振り返る。
(この『サンドレ』は、初手からずっと手札に温存されてた一枚なのよね。タイミングを図らないといけない、『大いなる拒絶』やピッチスペルだとタカを括っていたけど)
しかし、まるで違った。
ふたを開ければ、数少ない伊豆浜の勝ち筋である、『マーメイド』を潰すための手段だったのだ。
(生物が並ばないフリをして、最初から『マーメイド』の吊り出しを狙ってた、とか? だとしたら舌を巻くプランニングね。こわーい)
悔しさを押し止め、さらに深く考える。
(ワタシのデッキの弱点のひとつが、手札をため込めない状況。だから直接手札を破壊するカードは怖いんだけど、そこはこれまで『グレディスの信仰』を差すことで軽減してきた。けど今回の尭史ちゃんはちょっと違った)
すでに使われ、ゲームから追放されたカードを見やる。
(『ヴァイス』に始まって『ブリキ兵』『にせ薬』と無視できないカードを連打して、そこに『ふるい』を絡めてきてる。それらに対抗しているせいで、結果的に手札が貯まらない。そして手が尽きたところで出てきた『骨肉の祭礼』! これに釣られて『マーメイド』を出したら、焼かれちゃうんだもの)
思わず上唇をなめる。男の闘志はますます燃えていた。
(まるでワタシが手のひらの上で踊らされてるみたい。でもそれをひっくり返してこそ、伊豆浜床兵衛よ)
「ターン貰ってステディフェイズ、『生けるもの』の解放1を使用。『病めるもの』へ変身」
『サンドレ』の攻撃で増えた魔力が一つ減り、水晶が回転する。
その手をひとつ払ってから、デッキトップへと伸ばした。
ゆっくりと引き寄せられる一枚。
頼みの綱が露わになったとき、観客はまたも沸き上がった。
(二枚目の『虚空漂着』!)
願ってもなかったカードである。内心、伊豆浜は血湧き肉踊るようだった。
それでも一歩立ち止まる。一時の気持ちに流されるとよりよい手を見失う。伊豆浜はそのことを経験的に知っていた。
(スプレーは相手のターンに使うのがセオリー。だし、『サンドレ』の攻撃を待って、魔力が欲しくもあるわん。でも『マーメイド』を復活させるために手札を使うと『ふるい』にかけられる。その方がずっと、都合が悪いわね)
あとはもう、考え直すまでもなかった。
「『サンドレ』を追放。さらに『絹包み』をコストに『マーメイド』を復活。もう一体を墓地に送って、どうぞ」
それを見た尭史の動きは速かった。
「ドロプラ、から『とこしえのシューレイ』を召喚。そのまま攻撃してエンドまで」
伊豆浜は思わず右の肩を落とした。
(種類が変わっただけで状況が全然変わってない!)
『サンドレ』を放置していたら、復活した「マーメイド』が再びやられていたという違いはある。しかし、大勢は似たようなものだった。
「こ、コンバット前に『老いるもの』の解放4!」
咄嗟に弱体化を仕掛けるが、戦場を掌握されていることについてはまるで違いがなかった。
(ボードを取らないとやられる! これで次のターン『ヴィシャス』を使われでもしたら、それだけで終わりだし)
最悪の事態だけは避けるため、FFを再び『生けるもの』に戻す。
そして汗のにじむ手が引き寄せてきたカードは、しかし戦場にはなんら関与しないものだった。
『袋小路』(青)(1)
エポック
このカードは第二メインフェイズに顕現できない。
このカードを顕現したとき、それがあなたのターンであれば、残りのメイン及びコンバットステップを飛ばす。
プレイヤー一人がコストを払って召喚・顕現を行ったとき、このカードを生け贄に捧げる。そうした場合、そのプレイヤーの対戦相手はそれぞれ、カードを三枚引く。
使うアテのないカウンターを抱えるだけとなった伊豆浜には、それを顕現するほかにできることはなかった。
あとはただ、次のターンに止めを刺されないように祈る。
「おれのターン。ドロー。うん、『御陵の番人』を召喚。出てくるトークンのも併せて、『骨肉の祭礼』で二枚ドロー。そのままコンバットへ」
「『袋小路』で三枚ドロー。コンバット前に『生けるもの』の解放8を」
「『シューレイ』で攻撃、そのダメージ無効ですね。そしたら、エンドまで」
(なんとか生き延びた!)
ほくそ笑みながら、伊豆浜は大きく息を吸い込む。
(でも戦場はまだ尭史ちゃんに握られてるし、お互いに手札もある状態。こっちはライフが半分で、魔力もない。となると)
ゆっくり吐き出しつつ、腹を括った。
(たぶんこれが最後のチャンスね。ここでテンポが取れなければ、あとは負けるだけ)
いまの手札を矯めつ眇めつ、伊豆浜はこれから取る手段を反芻する。
(場を空にして、次のターンを迎えるしかない!)
そして意を決した。
「ドロー。『乾荒原の拡大』を顕現。コンバットに『マーメイド』で攻撃したら、どうぞ」
「オレのターン。ドロー、追加コストなしで『打ち壊し』を顕現。対象は『乾荒原』」
「『記憶の閉じ込み』」
「……コンバットへ」
「『乾荒原』を発動よん」
「第二メイン、『リズ・ギルエンサ』を」
「『大いなる拒絶』!」
「ターン、渡します」
(来た!)
このときの歓声は、伊豆浜の耳にも初めて届くほど大きかった。
掌握されていたはずの戦場が、 今度は更地に変わったのだ。興奮を隠せる者の方が少なかった。
「ワタシのターン、……! 『マーメイド』を追加で召喚、『木漏れ日の学者』をコストに一体を復活!」
(これでまた、ボードはワタシのもの。だけど)
これも、コントロール全般の短所。
相手に合わせることに重点を置くあまり、チャンスが来ても攻め手に欠けるのである。
(『燃え尽きぬ炎』がなければ、『死せるもの』で大きく出ることもできたでしょうに。今の手札だって、たったコレだけ)
左の指に挟まれた、頼りなさげな一枚。
最後の悪あがきに、見せつけるようにかざしてみる。
「おれのターン。『生き霊の招き手』を顕現します」
伊豆浜はそれを、少し悲しげな目で見下ろした。
『生き霊の招き手』(青)(緑)(3)
プログレーーソウル / ゴースト
Fmになるとき、アンステディされる。
このカードが場に出たとき、場の他のプログレを一体選ぶ。あなたは、BP1000 / HR1 であることを除いて、選ばれたプログレのコピーであるトークンを一体場に出す。
BP4000 / HR4 / RV(同種族)
そしてその目を、自分の左手へと戻す。
結局手を伸ばせないまま 、またも一枚だけになってしまった手札。
ーー二枚目の、『グレディスの信仰』。
(これが個別の対策を敷くことの弊害、よね)
伊豆浜は尭史にも見えるように、首を横に大きく振った。
「ではこのトークンを生け贄に、ろ……『ジェローナ・メイル』の解放3を使用。すべての魚人を追放します。『ケルネルの弔い人』をコストに『御陵の番人』を復活。ついでにプラグして、どうぞ」
「ワタシのターン」
三枚目の『乾荒原』を引けば、まだわからない。
震え続ける手で彼は、カードを引き寄せて。
「負けたわ」
最後の一枚は、『大いなる拒絶』。
受け手の広い打ち消しも、すでに場にある生物にはなんの意味もなかった。
(まあ、これが普通のドローってものよね)
これまでの尭史の動きを意識しすぎず、『グレディスの信仰』など抜いていれば、こうはならなかっただろうか。
相手の動きを封じながらじわじわと命を削る、自分の戦略に忠実になっていれば?
策士策に溺れるような負け方は、避けられただろうか。
――なんとなく振り返るものの、そんなものは結果論にすぎない。
「ベスト4入りを決めたのは、鮎川尭史イィィィーーーッ!」
選手にも聞こえる大音量の実況に、尭史は立ち上がる。
観客たちの拍手喝采に、伊豆浜もまた加わった。
悔しさを押し殺して敵を賞賛する。それは大人としての、伊豆浜のとても小さな抵抗だった。
次回から準決勝編です。




