60 偏った幸運
(危惧していたよりだいぶマシだ)
6ターン目の終わり 『傲慢のふるい』をプレイしたところで、尭史はジェローナにそうこぼした。
「三回戦の一本目を知ってると、そうね」
(とりあえず毎ターンFmを使い切れてる。それだけで十分誤魔化しが効く)
ジェローナは黙って頷く。それが、なにも最善ではないということを判った上で。
「ドロー、コンバットへ」
間もなく7ターン目、伊豆浜が言った。
「防御者ありません」
「通ったら終わりよン」
ジェローナの上の魔力は四つになった。
「なにも出して来ないのね」
(ここで下手にFmを使っちゃうと、おれが『マーメイド』を除去しようとしたときにそれを捌けなくなるからーーこう来たら、そうだな)
少し考え出すかとジェローナはたかを括ったが、思いの外すぐにリクエストが飛んだ。
(『謀略の号令』貰おうかな。逆にこっちがスプレーでテンポを崩そう)
ジェローナは何も言わず、そのカードをデッキトップに持ち出した。
とはいえ尭史は、それをすぐには使わない。手札に加えたあとは、『降霊の祭礼』をFmにするだけでターンを渡す。
「これで、なるほどね。相手は三つ分、コストを支払えず仕舞いになっちゃうのか」
(そういうこと。まあ、相手だけが生物を展開してる以上、そればっかりだと負けるけどさ。あ、そうだ)
「なに?」
(たぶん次、『にせ薬の流布』。その次『骨肉の祭礼』を持ってきてもらうことになりそうだ)
不意を突かれ、ジェローナは思わず訊き返した。
「もしかしなくても、次の手を読んでるの?」
(次、かどうかはわかんないけど)
少し照れたようにする。
(伊豆浜さん、ゲーム開始からずっと握り続けてる一枚がある。それが恐らく、ね)
相手を見続けている尭史、そのあごの辺りをジェローナは見ていた。
そして9ターン目。『謀略の号令』が表になったのは、伊豆浜がメインフェイズを終えるときだった。
『謀略の号令』(青)(黒)(2)
スプレー
以下から二つを選ぶ。
・相手は手札を一枚選んで捨てる。
・プログレを一体選ぶ。それをオーナーの手札に戻す。
・点数で見たコストが2以下のプログレをあなたの墓地から一体選ぶ。それを場に出す。
・カードを一枚引く。
「モードは……一番目と四番目にします」
『サンドレ』のみになった手札に、少し力が入った。
「通すわよん」
伊豆浜はそう言うと、手札の『グレディスの信仰』をテーブルに踊らせた。
「でもまた置換させてもらっちゃーう」
「どうぞ」
二枚になった手札で、尭史は口元を隠す。
「でも『ふるい』にかけられるので、もう一枚捨ててください」
「判ってるわよん。じゃ、『マーメイド』で攻撃してターンどうぞ~』
会場の目は、急速に伊豆浜の方へと傾いた。
尭史は一本目と同じ手札破壊対策にかかった。それで形勢が固まった、と思われたのである。
だが、まだ勝負はついていない。
観衆はすぐに、そう気づかされた。
「おれのターン。ドロー、メイン。『にせ薬の流布』続いて『骨肉の祭礼』を顕現します」
「ーーッ!」
「『グレディスの信仰』の効果はお互いに及ぶ。両方のコストが軽減されます」
『にせ薬の流布』(赤)(3)
エポック
すべての青いFmは、ステディフェイズにステディしない。
『骨肉の祭礼』(緑)(2)
エポック
プログレが場に出たとき、そのオーナーはカードを一枚引く。
(緑)(緑)(2); あなたの場のプログレは、BP+1000*X / HR+X される。Xはあなたの場のプログレの数である。この効果を使用したターン終了時以後、あなたはこのカードの効果を受けない。なお、この効果は相手も使用できる。
「通るわ」
声は苦々しげだった。
『ふるい』にかけられていたことによって、伊豆浜の手札はすでに一枚。
その一枚では、どちらも無効にすることはできなかった――それだけでなく!
自分の一手を逆に利用されたのである。その悔しさをも含んだ反応だった。
「ん、なんだ?」
そのときだった。
ざああっと。
くぐもった海鳴りのような音が、尭史の耳に届いた。
「歓声よ。なんだか遠いけど」
疑問を投げるよりも先に、ジェローナが尭史に言った。
「たくさんの人がいまの手を面白がったのね」
なんだか現金なものだけど、と苦笑する。
(そうだな、まったく)
尭史も似たようなものだった。呆れたような、満更でもないような顔をしていた。
「エンド時、『博愛か欺瞞か』使わせてもらうわよん」
一方の伊豆浜には、その音は聞こえていないようだった。なんら変わらない様子でゲームを続ける。
『博愛か欺瞞か』(青)(3)
スプレー
あなたのデッキのカードを上から5枚公開する。あなたは、それらのカードを2つの束に分け、対戦相手一人にどちらかを選ばせる。選ばれたの束のカードをあなたの手札に加え、残りを墓地に置く。
(方や『内部腐敗』『大いなる拒絶』で、方や『幻惑のマーメイド』『塩漬け』『記憶の閉じこみ』か)
手順通りに分けられた束を見て、尭史は考える、
(『にせ薬』を破壊できる『内部腐敗』、ついでに『拒絶』を握らせるのは悪手だろうな。もし『にせ薬』が2ターンも残れば、それだけで勝てるんだ。ここは三枚の方を選ぶしかないか)
「あれ、でも『マーメイド』を出されると」
(『骨肉の祭礼』を使ってさらにドローされるけどね。まあ、気にしなくていい)
「……?」
「ドロー。『閉じこみ』をプラグ、『マーメイド』を出して『骨肉の祭礼』で一枚ドロー」
そこでまた、遠い海鳴りが耳に入ってきた。
「続けて『内部腐敗』よン!」
「二枚目を引いてきたの!?」
観客の反応は、ジェローナとよく似たものだった。
これまでの尭史と同じような、デッキトップによる困難の解決。
そんな中にあって。
「対象は『にせ薬の流布』で?」
尭史はいまだ、驚くほどに落ち着いていた。
「え、ええ。特になければ、一体目の『マーメイド』で攻撃」
「通ります」
「じゃあ、うん。ターンどうぞ」
伊豆浜は一瞬虚を突かれて、また試合開始前のような微笑みを浮かべた。
(楽しませてくれるじゃないのよン! 寄せては返すタ・タ・カ・イ)
少しずつテンポを取られていることを悟りながらも、彼はこの試合が楽しくて仕方がなかった。
「こんどはリクエストある? 尭史」
(いや、大丈夫だ。もうやることは決まってる)
言うが早いか、尭史は引いてきたカードをFmにし、最後に残った手札をテーブルに叩きつけた。
「『圧壊のサンドレ』召喚です」
『圧壊のサンドレ』(赤)(5)
プログレ――巨人
鋭敏(場に出たターンから攻撃できる)
このカードが場に出たとき、または攻撃したとき、場のプログレを一体選ぶ。それに3000のダメージを与える。
BP6000 / HR7 / RV(同種族)
そこでまた、遠い海鳴りが聞こえてきた。
「Fmは全部横倒しだ。カットインはありませんね? 登場時に一体、攻撃時にもう一体の『マーメイド』を潰します」
伊豆浜は小刻みに頷きながら二枚を墓地に送り、七つのライフを魔力に変えた。
「尭史、なんかちょっと変わったわね」
(ん。そうかな)
「ちょっとカッコよくなった」
(そりゃ良かったよ)
「そういうトコとか」




