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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準々決勝
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60/106

60 偏った幸運

(危惧していたよりだいぶマシだ)

 6ターン目の終わり 『傲慢のふるい』をプレイしたところで、尭史はジェローナにそうこぼした。


「三回戦の一本目を知ってると、そうね」

(とりあえず毎ターンFmを使い切れてる。それだけで十分誤魔化しが効く)

 ジェローナは黙って頷く。それが、なにも最善ではないということを判った上で。


「ドロー、コンバットへ」

 間もなく7ターン目、伊豆浜が言った。

「防御者ありません」

「通ったら終わりよン」


 ジェローナの上の魔力は四つになった。

「なにも出して来ないのね」

(ここで下手にFmを使っちゃうと、おれが『マーメイド』を除去しようとしたときにそれを捌けなくなるからーーこう来たら、そうだな)

 少し考え出すかとジェローナはたかを括ったが、思いの外すぐにリクエストが飛んだ。

(『謀略の号令』貰おうかな。逆にこっちがスプレーでテンポを崩そう)


 ジェローナは何も言わず、そのカードをデッキトップに持ち出した。

 とはいえ尭史は、それをすぐには使わない。手札に加えたあとは、『降霊の祭礼』をFmにするだけでターンを渡す。


「これで、なるほどね。相手は三つ分、コストを支払えず仕舞いになっちゃうのか」

(そういうこと。まあ、相手だけが生物を展開してる以上、そればっかりだと負けるけどさ。あ、そうだ)

「なに?」


(たぶん次、『にせ薬の流布』。その次『骨肉の祭礼』を持ってきてもらうことになりそうだ)

 不意を突かれ、ジェローナは思わず訊き返した。

「もしかしなくても、次の手を読んでるの?」

(次、かどうかはわかんないけど)

 少し照れたようにする。

(伊豆浜さん、ゲーム開始からずっと握り続けてる一枚がある。それが恐らく、ね)

 相手を見続けている尭史、そのあごの辺りをジェローナは見ていた。


 そして9ターン目。『謀略の号令』が表になったのは、伊豆浜がメインフェイズを終えるときだった。



『謀略の号令』(青)(黒)(2)

スプレー

 以下から二つを選ぶ。

 ・相手は手札を一枚選んで捨てる。

 ・プログレを一体選ぶ。それをオーナーの手札に戻す。

 ・点数で見たコストが2以下のプログレをあなたの墓地から一体選ぶ。それを場に出す。

 ・カードを一枚引く。



「モードは……一番目と四番目にします」

 『サンドレ』のみになった手札に、少し力が入った。

「通すわよん」

 伊豆浜はそう言うと、手札の『グレディスの信仰』をテーブルに踊らせた。

「でもまた置換させてもらっちゃーう」


「どうぞ」

 二枚になった手札で、尭史は口元を隠す。

「でも『ふるい』にかけられるので、もう一枚捨ててください」

「判ってるわよん。じゃ、『マーメイド』で攻撃してターンどうぞ~』



 会場の目は、急速に伊豆浜の方へと傾いた。

 尭史は一本目と同じ手札破壊対策にかかった。それで形勢が固まった、と思われたのである。



 だが、まだ勝負はついていない。

 観衆はすぐに、そう気づかされた。



「おれのターン。ドロー、メイン。『にせ薬の流布』続いて『骨肉の祭礼』を顕現します」

「ーーッ!」

「『グレディスの信仰』の効果はお互いに及ぶ。両方のコストが軽減されます」



『にせ薬の流布』(赤)(3)

エポック

 すべての青いFmは、ステディフェイズにステディしない。



『骨肉の祭礼』(緑)(2)

エポック

 プログレが場に出たとき、そのオーナーはカードを一枚引く。

 (緑)(緑)(2); あなたの場のプログレは、BP+1000*X / HR+X される。Xはあなたの場のプログレの数である。この効果を使用したターン終了時以後、あなたはこのカードの効果を受けない。なお、この効果は相手も使用できる。



「通るわ」

 声は苦々しげだった。

 『ふるい』にかけられていたことによって、伊豆浜の手札はすでに一枚。

 その一枚では、どちらも無効にすることはできなかった――それだけでなく!

 自分の一手を逆に利用されたのである。その悔しさをも含んだ反応だった。


「ん、なんだ?」

 そのときだった。

 ざああっと。

 くぐもった海鳴りのような音が、尭史の耳に届いた。

「歓声よ。なんだか遠いけど」

 疑問を投げるよりも先に、ジェローナが尭史に言った。


「たくさんの人がいまの手を面白がったのね」

 なんだか現金なものだけど、と苦笑する。

(そうだな、まったく)

 尭史も似たようなものだった。呆れたような、満更でもないような顔をしていた。


「エンド時、『博愛か欺瞞か』使わせてもらうわよん」

 一方の伊豆浜には、その音は聞こえていないようだった。なんら変わらない様子でゲームを続ける。



『博愛か欺瞞か』(青)(3)

スプレー

 あなたのデッキのカードを上から5枚公開する。あなたは、それらのカードを2つの束に分け、対戦相手一人にどちらかを選ばせる。選ばれたの束のカードをあなたの手札に加え、残りを墓地に置く。



(方や『内部腐敗』『大いなる拒絶』で、方や『幻惑のマーメイド』『塩漬け』『記憶の閉じこみ』か)

 手順通りに分けられた束を見て、尭史は考える、

(『にせ薬』を破壊できる『内部腐敗』、ついでに『拒絶』を握らせるのは悪手だろうな。もし『にせ薬』が2ターンも残れば、それだけで勝てるんだ。ここは三枚の方を選ぶしかないか)

「あれ、でも『マーメイド』を出されると」

(『骨肉の祭礼』を使ってさらにドローされるけどね。まあ、気にしなくていい)

「……?」


「ドロー。『閉じこみ』をプラグ、『マーメイド』を出して『骨肉の祭礼』で一枚ドロー」

 そこでまた、遠い海鳴りが耳に入ってきた。

「続けて『内部腐敗』よン!」


「二枚目を引いてきたの!?」

 観客の反応は、ジェローナとよく似たものだった。

 これまでの尭史と同じような、デッキトップによる困難の解決。


 そんな中にあって。

「対象は『にせ薬の流布』で?」

 尭史はいまだ、驚くほどに落ち着いていた。


「え、ええ。特になければ、一体目の『マーメイド』で攻撃」

「通ります」

「じゃあ、うん。ターンどうぞ」

 伊豆浜は一瞬虚を突かれて、また試合開始前のような微笑みを浮かべた。

(楽しませてくれるじゃないのよン! 寄せては返すタ・タ・カ・イ)

 少しずつテンポを取られていることを悟りながらも、彼はこの試合が楽しくて仕方がなかった。


「こんどはリクエストある? 尭史」

(いや、大丈夫だ。もうやることは決まってる)

 言うが早いか、尭史は引いてきたカードをFmにし、最後に残った手札をテーブルに叩きつけた。

「『圧壊のサンドレ』召喚です」



『圧壊のサンドレ』(赤)(5)

プログレ――巨人

 鋭敏(場に出たターンから攻撃できる)

 このカードが場に出たとき、または攻撃したとき、場のプログレを一体選ぶ。それに3000のダメージを与える。

BP6000 / HR7 / RV(同種族)



 そこでまた、遠い海鳴りが聞こえてきた。

「Fmは全部横倒しだ。カットインはありませんね? 登場時に一体、攻撃時にもう一体の『マーメイド』を潰します」

 伊豆浜は小刻みに頷きながら二枚を墓地に送り、七つのライフを魔力に変えた。


「尭史、なんかちょっと変わったわね」

(ん。そうかな)

「ちょっとカッコよくなった」

(そりゃ良かったよ)

「そういうトコとか」

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