59 渦まく知識
「……さあ、ここでもう一度! 準決勝進出一番乗り! スクロールカップ初の二連覇へ、更なる一歩を踏み出したッ北田気選手へもう一度、盛大な拍手をお送り下さい~ッ!」
そのころ。
北田気源は観衆の喝采に包まれながら、実況の同列に腰をおろした。
白い歯もちらりと覗く。緊張や興奮を見せない、堂々たる様子だった。
「さて。他の三卓では、いずれも決着がついていないようですね。北田気さんの注目はどの戦いですか?」
「やはり鮎川対伊豆浜ですね」
実況の問いにも、惑うことなく即答する。
「六人みないい選手ですが、鮎川だけは真の意味でなにをするか判らない。本当に! 見るたびに驚かされてきましたし、この試合もそうだろうと思いますからね」
「随分楽しそうですね」
同席する招待プレイヤーが漏らすと、北田気はまたも歯を見せた。
「ええ。彼は間違いなく。とても強い。けれどそれは、今までSNoWにはなかったプレイをできているたけで、理論上突破できないというわけではないはずなんです。それを試したい」
解説者が続きを促す。
「カードゲームを、『手の制限された将棋』と例えましょう。ドローできたカード、できなかったカードによって、ある試合ではできた動きが次の試合では出来ないということがよくある。矢倉囲いをしようにも、銀将にあたるカードを引けるときと引けないときがあるということで」
「するとその不確定性を、鮎川選手は排除できているという見方でしょうか」
「はい。一見するとそれはとてつもない強みのようですが、しかし実は、それ以上でも以下でもありません」
「というと?」
「あくまで、ターンごとにできることは限られているんです。一度に二手打てるとか、二歩しても負けないとか、ルールを逸脱した行為まではできない。変な言い方ですが、理論上1ターンでは覆せない有利を作ってしまえば、彼はそれを1ターンで覆すことができないんです。たとえ彼が、常に好きなカードをドローできるとしても」
「まあ……そうですね」
「それを念頭に置き、テンポよく戦ってみたい。いまではそう考えているんですよ」
「なるほど」
「その点、一度に二手打ってきかねないのが逆嶋さんで……」
「さあ。ここで、北田気選手も注目の、鮎川対伊豆浜の3セット目の準備が整ったようですね」
北田気の言葉を、実況が遮った。
「先攻は伊豆浜選手。お互いマリガンは済んでいるようですね。手札を見てみましょう。伊豆浜選手は『相対性の看破』二枚に『虚空漂着』「幻惑のマーメイド』『グレディスの信仰』『抹消』ですね。鮎川選手は『燃え尽きぬ炎』『降霊の祭礼』『傲慢のふるい』『圧壊のサンドレ』『乱舞の中心』|『酒場守りの暴れ者、ラオービン』《19話参照》。解説の桂木さん、これはどう見ますか?」
「伊豆浜選手は、鮎川選手のこれまでの出方をかなり強く牽制できるかたちですね。鮎川選手は序盤に『慨嘆』などの手札破壊を仕掛けることが多いので、その対抗策としての『グレディスの信仰』など」
「コントロール相手の『相対性の看破』二枚には、ややもたれを感じますが」
「メインモニターには映っていませんでしたが、さきほど鮎川選手にワンショットを決められていますからね。それに対する保険として、持っておきたかったのでしょう」
「パーミッション相手にワンショットですか!?」
北田気が思わず声をあげた。
「鮎川選手は本当に何をするか判りませんね」
「その鮎川選手のハンドは」
解説者の桂木がマイクを奪う。
「かなり尖ったパワーカードやメタカードが詰め込まれており、一貫したプランがまるで見えません。『傲慢のふるい』が面白い動きをしそうですが、1ターン目に出すには黒いFmが捻出できない。さらに運の悪いことには、伊豆浜選手の手札の『信仰』が強烈な対策となりかねません。一般的な見方をすれば、手札事故と見るのが妥当でしょう」
多くの観客が解説者の言葉に頷く中、実況は努めて明るく話す。
「しかし、こと鮎川選手において事故という言葉が正鵠を射るかどうかは誰にもわかりません! 思えば二年前から、多くのプレイヤーの度肝を抜いてきた『滝登りの鮎川』。意外性に磨きをかけた18歳は、準決勝へと駒を進めることができるのか。あるいはアラサーの意地に屈してしまうのか!? 注目の一戦がいま――始まりました!」
それぞれのFFが表になると同時に、実況は身を乗り出した。
「まずは伊豆浜選手、『看破』プラグのみで終了です。続けて鮎川選手、黒を引けず。『酒場守りのラオービン』プラグから、墓地対策エポック『燃え尽きぬ炎』を顕現しましたね。同じ赤Fmなら、6コストの『サンドレ』を選ぶのがセオリーかと思いますが、桂木さんいかがでしょう」
「『ラオービン』は『虚空漂着』に対して無力なため敬遠。『マーメイド』を除去するため『サンドレ』をひとまず温存というところでしょうか。いま2コストの『流れ者、ヴァイス』を引いたことも大きいでしょう」
一息吐いて、実況はしゃべり続ける。
「続いて伊豆浜選手、『時代性の破棄』プラグから、早くも『マーメイド』を召喚です。これが通るとかなり楽になりそうですね」
「逆に除去されると、次のターンの動きが怪しくなりますが……ああっと!」
解説者と同じように声をあげた者は、観客席にも少なくなかった。
「ここで『闇を飲み干した者、今川』! これ 前のターンに欲しかったカードですね。いまは除去札が欲しかった! 『乱舞の中心』プラグから『ヴァイス』を召喚しましたが、苦し紛れといったところでしょうか」
「サイズだけはありますからね。戦闘となれば強いですが、あいにく伊豆浜選手の手には『虚空漂着』があります」
「伊豆浜選手三度目のターン。やはり『ヴァイス』を追放し、続けて『マーメイド』で攻撃です。ハンド三枚にFmも二枚ステディですから、鮎川選手は動きづらい!」
実況の言葉の通り、尭史は悩むような素振りを見せた。
「厳しい顔になった鮎川選手、ここで引いたのは……うーん、『苔むしたブリキ兵』。これも前のターンに出せていれば、ドローできる分『ヴァイス』より好ましかったですね」
「デッキが微妙に言うことを聞きませんね。事故とは言いませんが、気勢を削がれる展開です」
「ひとまず『ブリキ兵』を出しましたが、打ち消されました」
「『降霊の祭礼』を優先したいところ、堪えてカウンターを釣りだしたのは良いですね」
「お、おっとぉ? 余りのFmで『傲慢のふるい』を顕現しましたね。桂木さん注目の一枚」
「はい。複数出しが問題になり、制限されて以後めっきり見なくなったカードですよね。これがどう働くか、非常に楽しみです」
「伊豆浜選手、首をひねりましたが『相対性の看破』を使ってまでは止めませんね。これにより、次のターンからお互いが手札にロックをかけられます」
『傲慢のふるい』(黒)
エポック
コンバットフェイズの開始時、ターンプレイヤーは、手札が偶数の場合、手札を一枚選んで捨てる。
(黒)(2)手札を一枚捨てる: 相手は手札を一枚選んで捨てる。この効果は相手も使用できる。
【一枚制限】
多数の観客もまた、『傲慢のふるい』を見過ごした。それは時代遅れのカードだという意見が、すでに定着していたからだった。
だからそれが『割に合う価値』を生み出すと予感できたのは、解説者くらいのものだった。
もちろん、尭史とジェローナを除いて。




