55 二人戦術
「ーー以上が、私の考える最適のサイドボーディングよ。尭史、この通りに入れ替えてくれるわね」
二本目の開始まで残り二分余り。
ジェローナは自らのプランを、中村と尭史へと訴え終えた。
中村は黙っている。尭史を動かすのは自分の仕事ではないと思っていたし、そもそもジェローナを介してでもなければ言葉は届かない。
更に言えば。
今しがた聞いたプランに、舌を巻いていたでもある。
(ノウミソまで背景ストーリー通りっつーことか。まったく、とんだ策士ってかよ)
剣豪オルギンの娘、剣聖ジェローナ。
彼女は剣術よりもむしろ、知略における活躍が目覚ましかったーーそれこそ、包囲を完成させた神膳騎士団を出し抜くほどに。
(感服だね。ジェローナには逆らわねえ方が良さそうだ。それで鮎川。お前はどうする?)
尭史はやはり、黙っている。
手がわずかに震え、顔は完全に固まっている。
(否が応に徴兵された農民が、こんな様子になってたっけ)
生まれ故郷を頭に浮かべるジェローナ。
(でもあなたなら、乗り越えられるって信じてるわ。だから今だけ、ご免なさい)
心で謝りながら、一度握った拳を、大きく開く。
「! ……」
突発的に尭史の手が跳ね、目の焦点が合った。
「手が少し痺れたくらいかしら。あなたの望みを具象化する者として、ちょっとくらいは末梢神経を乱せるのよ。もう少し強くしたっていいわ。その前に、言うとおりにしなさい」
下唇を噛むジェローナ。
心の痛みはともかくして、迫る時間に焦りだす。
残り、百秒。
(バカ言うなよ)
そのとき、尭史の思いがジェローナに伝わってきた。
視点が落ちている。ジェローナの側にあるだけで、目は合わせなかったが。
(おれに出来なくて、なんでローナに出来るんだよ。そんな上手く行くか)
ジェローナはもう、形振り構っていられなくなった。
「自惚れんじゃないわよ! あなたが一人で出来ることなんてタカが知れてるわ。半端なプライドなんて見たくない! そんなモノより私を頼りなさい。騎士の誓いは何よりも強い!」
(何を誓ったって)
「あなたを必ず優勝させると!」
どこまでもひたむきなジェローナ。
少し遅れて、尭史に笑みがこぼれた。
(おまえは、本気でそれを?)
「『流星映す剣聖、ジェローナ・メイル』とは私のことよ。当然じゃない」
そう言う側から、また神経を乱す。尭史の意に反して、その手が少し持ち上がる。
「さあ早く。時間がないわ」
(わかったよ)
尭史の腕はもう、彼のものになった。
80枚のうちの4枚を、サイドボードの4枚と入れ替える。
ジェローナに確認をとる間もなく、インターバルの終了が告げられた。
(これでいいんだな、ローナ)
尭史のデッキはすでに、一本目とはまた別のスタッフがシャッフルを始めている。
「ええ。大丈夫よ。私を信じて」
(判った。信じるよ、騎士の誓いってのを)
スタッフがデッキから七枚のカードをテーブルに置く。
それと同時に、主審が尋ねてきた。
「鮎川さん、先にプレイされますか?」
「「はい、先攻で」」
尭史とジェローナの声が重なる。
ゲームはこのとき、二人のものとなった。




