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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準々決勝
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54/106

54 難題の予見者

「ローナからのSOSです!」


 アンネシーラの言葉に、中村は目を丸くした。

 自然と口が開く。テレパシーのことなど頭から抜け落ちていた。


「なんだそりゃ、どういうーー」

「尭史、戦意喪失。救援求む。だそうです」


 だが混乱しているのはアンネシーラも同じだった。

 次々と流れてくる言葉を受け取るのに精一杯で、中村の反応など構っていられなかった。


 必死な様子で、ジェローナに復唱する。

「励ましてる時間も惜しそうだわ。だから私が闘おうと思うの。力を貸して。だそうーーって、えっ?」

「はあ?」


 二人は固まった。混乱をすっかり通り越し、思考が止まった。

「中村、なんか変じゃん。目ぇ白黒させて」

 突然挙動不審になった中村を見て、馬渡。

「あ、いや、ちょっとトイレ」

 言うが早いか席を立ち、小走りに館戦席を離れる。

「なんだ、下痢したんじゃん?」

 などと笑われたが、もちろん構いやしなかった。


(不可能だっての)

 歩きながら、中村は念じる。

(ローナ。お前さんはまだルールも覚えてないって、昨日聞いてる。ってローナに伝えてくれ)

 アンネシーラを通じて、ジェローナへと話が伝わる。

「もうとっくに覚えてるわよ。この一週間、どれだけのゲームを見せつけられたか。だそうで」

 そしてまたさらに中村へと返ってくる。その繰り返しになった。


(だとしたって、カードの種類まではそう覚えてないだろ。伊豆浜のデッキどころか、鮎川の今の形だって把握してない。違うか?)

「だからあなたに助けを求めてるのよ。他に頼れる人はいないの! ひとまずサイドボードをどうすればいい?」

(そんなの、鮎川が自分でやった方がマシに決まってる! 疲れてるんだかなんだか知らねえけど、俺なんかが下手にいじるより)


「タケシ」

 そこでアンネシーラが、声色を変えた。

「私からも、お願いします。助けてあげましょう」


(いやアンネ、でもよ)

「無謀を言っていることは、ローナもきっと判ってますよ。それでもやらなきゃいけないんだと思います。現に、ローナがこれだけ騒いでも、尭史さんが口を挟んでこない」

「ーーッ」


 胸にしまっていたアンネシーラを取り出し、姿を見る。

 いつもの、おっとりした風ではない。肝を据えた様子で、中村を見ていた。

「やりましょう、タケシ。一緒にお友達を助けましょう」


「しょーがねえなあ」

 アンネシーラから目を逸らす。

 あまりにも真っ直ぐな瞳が、中村には直視できなかったのだ。

(俺はいい子だなんて柄じゃねーんだけどな。たまにはそれもいいか)


 短く息を吐き、きびすを返す。

「タケシ! あなたもいい子ですよ!」

 アンネシーラは喜ばしげだった。


(期待はよせって。俺に出来るのは知識を貸すことだけだ。実際にプレイすることも、鮎川の手を動かすこともできない)

「それでも、ですよ。人のために自分が出来ることをする、それがいい子です。自分じゃできないことが出来たら、それは革命家や大嘘付きですよ」

(案外意思が強いもんだな、アンネって)

「それも含めたいい子です」


 それは後にして、と中村。

(じゃ、伝言頼むぜ。まず、サイドボーディングの残り時間は?)

 すると再び、アンネシーラを介してジェローナの言葉が返ってくる。

「残り七分よ。だそうです」


(オッケーだ。んでよ、サイドボーディングで考えるべきことってのは、大きく分けて三つだ。『自分の弱点をなくす』『相手の弱点を突く』『相手の意表を突く』基本的にこのどれかになる)

「ふむだそうです」

(一般的に、はじめの二つを目的にする方が圧倒的に多い。三つ目ってのは相手のプレイミスを誘えるというリターンが大きい分、自分のデッキパワーが落ちやすくなるためリスクも高い。昨日の月居が好例だな。アグレッシヴ・サイドボーディングって名指しされるほど珍しい)

「なるほどだそうです」

(相槌まで伝えなくていいよ、アンネ)

「あっはい」


(それを踏まえて鮎川の今のサイドボードを判断したいんだが、……ここが問題だ)

 中村はふいに足を止め、声のトーンを下げる。

(ぶっちゃけ、鮎川が何を目的にしてこの15枚を選んだのか、まったく判らない)


 えっ、とアンネ。素の反応が漏れた。

 中村はそれにちょっと傷ついた。

(いや、だからさ。鮎川が自分でやった方がいいってのは、そういうことだ。パーミッションに対する弱点を補うものもないし、強烈な対策になるものもない。アグレッシヴ・サイドボーディングにしては、用途があまりにバラバラだ)

 そしてようやく、中村は言葉を締めくくる。

(そんなカードを下手に入れるくらいなら、汎用的なカードを大量に入れた今のかたちを維持して臨んだ方がいい。俺はそんな風にも思うよ)



 アンネシーラの心配そうな目が、中村に突き刺さる。

 極力それを見ないように、中村はまたまくし立てた。

(まあ、相手は元々それなりの事故率を抱えたデッキだ。その辺の不運に賭けた方がーー)


「見えてきたわ」


 と。

 ジェローナの言葉が、遅れて中村に届いた。


「その概要と現役プレイヤーの意見。両方あってこそ、ね。理解したわ、次の勝利への道筋」


「ーーッ!?」

 中村は息巻いた。

 ほんの小さな一言が、彼の予想を上回ったのだ。


 本当に、勝ちかねない。

 瞬間的に、そう判断させるまでに。


「残り四分。その間に確認させて。伊豆浜さんの弱点を」

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