52 完全なる終わり
『大いなる拒絶』を打ったことで、伊豆浜の手札はわずかに一枚。
他のTCGであれば、その事実はコントロールデッキにとってかなりの危機にあるということになるだろう。
手札の多さが、そのまま敵の動作への対抗手段の多さと直結するからだ。
しかし、SNoWはそうとも限らない。
少なくともいまの彼については、むしろ真逆だった。
『木漏れ日の学舎』『塩漬け』『グレディスの信仰』『ケルドミウム粒子の散布』と時代カードが場に並び、戦場には『幻惑のマーメイド』。さらにはFmも十分。
これは、むしろ。
盤石な体制といって、差し支えないほどだった。
「『マーメイド』で殴って『学舎』でドロー、エンドです」
「ドロー、『骨抜かせのくのいち』召喚で」
「『魂の囲い込み』。無効にするわ」
「『マーメイド』で殴って『学舎』でドロー、エンドです」
「ドロー、『虚空漂着』で『マーメイド』を除外』
「『霧状化』。場のすべてのプログレは、このターン対象に取れない」
尭史が取ろうとするアクションは、ことごとく無効にさせられる。
そして少しずつ、ダメージを積み重ねていく。
「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」
それが果たして何回続いたか。
30あったはずのライフが、たった2ずつだが確実に減らされていく。
「『ジェローナ』の解放効果を」
「場の『粒子散布』でカットイン。一時的にわたしのFF、『病めるもの』と魔力の数を同じにするわ」
「通ります」
「では私のターン、『マーメイド』でアタック」
「はい」
何も出来ないまま、20になり、10になり。
「無効にして『マーメイド』でアタック」「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」「無効にして『マーメイド』でアタック」
「無効にして『マーメイド』でアタック」「無効にして『マーメイド』でアタック」
そしてついに、0となった。
「ふぅ。ふふふっ」
一息入れた伊豆浜と、呆気にとられる尭史。
その様子を見ていた観客たちも含め、誰もが同じ感想を抱いていた。
ーー完封勝利。
◆
「『清涼で甘美な日々』。あれがやっぱり勝負を分けたじゃん」
尭史と三回戦で戦った相手、馬渡大地も、そのうちの一人だった。
いま彼は、観客席で友人たちと共に各試合を眺めている。
「やっぱそうだよなあ」
その友人といえば、中村武。
もう一人、尭史とは面識のない鈴木という男の三人で、スナック菓子をつまんでいた。
「今回はどうも伊豆浜の引きが相当良かったっつーのは否定の余地がないじゃん。毎ターンしっかりとFmを使い切って、展開し続けてた。鮎川の『眼窩の狙い撃ち』で後退すると思いきや、しっかりと『グレディスの信仰』を合わせても来た」
「あれだけでも相当痛手だよな。ただでさえ先行・後攻の関係で展開面でのテンポ不利があったのに、それを助長しちまった。それと同時にハンド面でも優位を取り損ねた」
「それでも、鮎川側にはそれをひっくり返すほどのコンボを成立させる可能性が残ってた。実際、『無限弾倉の機関銃』が通った時は、それを期待したんだけど……その後が良くなかったじゃん」
馬渡の言葉に、二人は黙ってうなずく。
「かなり怪しい局面での『清涼で甘美な日々』。通っても特殊勝利条件を満たせるかわからない上に、5コストもかかるゴミカードじゃん。それを2コスの『拒絶』で返されて、さらに伊豆浜のターンで隙を見せちまった。結果、『学舎』でドローさせることにもなっちまったし、以後『機関銃』を活用する機会を見失うことにもなっちまったじゃん」
「するとあの『清涼で甘美な日々』は」
あまりプレイが上手くない鈴木が問う。
「完全なプレイミスだった?」
「完全とまでは言えないんじゃん? でも功を焦ったのは違いないし、結果だけ見ればミスだった」
「その通りだな」
と中村。
「『清涼で甘美な日々』を撃った五回裏の地点では、これが通る可能性は必ずしも低くなかった。四回裏に、通常マスト・カウンターとされる無生物の『機関銃』が通ってるからな。無生物ならなんでも無効にする『反駁』なんかが手札に無いだろうっつー判断は、至極当然だ」
『反駁』(白)(白)
スプレー
顕現を一つ対象とする。それを無効にする。
「だからこそ、そのあとの『拒絶』が深く刺さったわけじゃん」
馬渡の言葉は滑らかだ。
「『機関銃』をも無効にできるワイルドカードを、『日々』のためだけに温存する。普通のタマならビビッて『機関銃』に使っちまうところを、伊豆浜さんは豪快にもコラえたわけ。結果として、2コストで5コストを無駄にさせたわけで。それが伊豆浜のテンポ的有利を決定的にした」
「逆に言えば、その温存は本来ならありえない。もし鮎川が五回裏に軽コストのカード二枚を使っていたら、テンポ的に逆転されかねなかったわけだし。それだけリスクを孕む、いわば鮎川にしか効かない判断だったってこと」
なるほど、と鈴木。
「タケシ、ちょっといいですか」
ちょうどその時、アンネシーラが控えめに声を上げた。
(おお、どうしたアンネ。すっかり寝てると思ったのに)
中村がテレパシーを送る。
「ええ、その通りだったんですけど。ちょっとそれどころじゃなくなりました」
(おーおー、なんだってんだ?)
その後に続いた声は、実に悲痛なものだった。
「ローナからのSOSです!」
(不穏なサブタイですが、これで完結じゃ)ないです。




