46 運命の日
「おはようアンネ! さあ起きて!」
「もう。なんですか……、ひええ、ホントに夜明けじゃないですか!」
翌、04:50。
ジェローナは宣言通り、アンネシーラを叩き起こした。
身にまとう鎧をガチャガチャと打ち鳴らして。
「無茶ですよぅ。もう少し寝させてくださいー」
「仕方ないわね。30秒だけ待ってあげる」
「そんな慈悲もない!」
「ならどれだけ寝たいのよ」「太陽が南の空に昇るまで」
「それって真昼間じゃないの」「森の音楽隊は夜動くんですよう」
「ゴウに入りてはゴウに従えよ」「ローナのゴウは強情のゴウでしょう?」
「お願いよアンネ。あなた以外に頼れる人がいないの」
「うーん。そう言われると弱いんですよ。わたくしはいい子なので」
仕方なく上体を起こすアンネ。大きなあくびが自然と漏れる。
「それで、私はどうすればいいのかしら」
「どうって。恋を実らせたいんですよね」
「なによそれ」
「タカシにもローナを好きになって欲しいでしょう?」
瞬間的にジェローナの顔が真っ赤に染まる。
「え、いや、ええ? そんなことって」
「図星ですよね。ならそれでいいんです」
「それでそれで? 実らせるにはどうすればいいの?」
「聞いて驚いてください」
「うんうん」
「私も知りません」
「ええー!」
カードの中でずっこける。
「いやなんか確かに驚いたけど! そういうの要らないわよ!?」
「そう言われましても。恥ずかしながら、わたくしも恋に生きたことがないんです」
「じゃあこれまでの知識はなんなのよ」
「聞いた話です。楽士の仕事柄、色んなお話を伺う機会に恵まれましたので」
「それはなにかしら。恋が物語として成立するって?」
「そういうことです」
「じゃあそれを聞かせて!」
「仕方ありませんね。一つだけですよ?」
そこでもまた、ジェローナが次から次へとせがみこみ。
なんだかんだで気をよくしたアンネシーラは、五本も六本も言って聞かせることになった。
「くぁ、ああ。よく寝た。起きてるか、ローナ?」
いつの間にやら時刻は08:00。
単調なアラームで尭史は起きだした。
「あら、もうこんな時間。ありがとうアンネ。参考になったわ」
「……はッ! わたくしとしたことが、してやられました!」
今日もいい子すぎましたー! などと悔やむのを、ジェローナは聞きもしない。
「ご機嫌うるわしゅう、尭史」
「え、なにそれローナ。体調悪いの?}
咄嗟に物語の中の令嬢の真似をしてみたが、だだすべりだった。
◆
十五分後、尭史はホテル内のレストランにいた。朝食のためである。
(そういえば早崎は、なんでわざわざオレに頼んできたんだろうな)
バタースプーン片手に、ジェローナに念じる。
(焔村と準々決勝で当たる小倉さんとか、それこそ昨年チャンプの北田気に頼んでもよかったのに)
「た、尭史がかっこいいから、とか?」
それを聞いて、右手のトーストをぼとりと落した。
(なに言ってんだ……? まさか早崎もホモなのか?)
そういうのは伊豆浜さんだけでいいよ、とパンを拾う。
「お早う鮎川。ここ空いてるかい?」
急に声をかけられて、またもトーストを落としはぐる。
「おう、北田気じゃん! おはよう!」
気楽に声をかけたのは、尭史に次ぐ話題の男。
昨年大会優勝者、北田気源であった。
「昨日の生、見てたぜ。調子良さそうだな」
「鮎川には及ばないよ。龍そのものみたいな神ドローしちゃってさ」
「『三重の極み』に褒められるとは光栄だね」
「よく言うよ」
「この人がキング?」とジェローナ。
(ああ、そうだ)
「どんな陰険野郎が来るかと思ったら、随分爽やかね」
(偏見だと言いたいが、否定できないんだよなあ)
ターコイズブルーのカーディガンに、クロップドパンツ。シャツにボウタイ、ハットも被っている。
そのまま湘南に放り込んでもよいであろう、涼しげな雰囲気。
ファッションに疎い尭史からしたって、北田気はずば抜けて洒落ていた。
「準備は万全かい?」
「当然だ。誰と当たっても負ける気がしねえ」
「奇遇だね、ぼくもさ!」
顔で笑いながら、腹で探りを入れるような二人。
それを聞き流しながら、ジェローナはまたも。
「アンネ! ねえアンネ!」
「ん……なんですか。わたくしは二度寝で忙しいのですが」
「そんなことより相談があるんだけど!」
「ローナは『そんなこと』って言葉の意味を間違えてませんか?」
「さっきから私、恋を実らせた登場人物の真似をしてみてるんだけど」
「ええ。……ええっ?」
「なんか全然意味がないみたいで」
「そりゃそうですよ」
「なんでよ? そうすれば上手くいくんじゃないの?」
「もう。色々違いますよ、ローナ」
仕方ないですねと語るアンネシーラは、やはり満更でもなさげである。
「まず、あの話は全部創作ですよ。作り話なんです。参考にならないとは言いませんが、すべてが真実とも言えないんです」
「む~」
「それと。こっちの方が大事ですよ! 尭史には、ジェローナそのものを好きになってもらわなきゃいけないんです。変に繕っても、目的とはズレてしまいますよ」
ありのままを見せるというのでは、また違っちゃいますけどね。最後にそう付け加えた。
「判ったわ。色々知ってるのねアンネ。またお願いするわ」
「よい子なので聞いた知識は覚えてるんです。お昼以降なら頼ってください」
「つまり耳年増よね」
「それは言わない約束です」




