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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
一日目: 閉会後(夜)
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45/106

45 心盗み

「アンネ! アンネー!」


 尭史が電話をかけたころ。

 ジェローナは必死の形相で、アンネシーラを呼び出していた。

 なるほどFF同士は、いとも簡単に念話をすることが可能だった。


「聞こえてますよ、ローナ。わたくしはよい子なのでもう寝る時間なのですけれど」

「そんなことより聞いてよ! 尭史が!」

「そんなことって」

 なんだかんだで耳を傾けるアンネシーラ。

 調整中もずっとお話してたじゃないですか、とこぼしつつ。


「いま尭史がほかの女の子と喋ってるのよ」「ええ」

「ただそれだけなの」「はい」

「でもなんだか苦しいのよ!」「誰が」

「私が!」「そうですか」

「反応薄くない!?」「べつに驚く部分ないじゃないですか」

「原因不明の心臓の痛みなのよ!」「本気で言ってます?」

「こんな夜に冗談言わないわよ」「それなら驚きですね」


「判ってるなら教えてよ」

 焦らすようなアンネシーラが、ジェローナには歯がゆかった。

「簡単ですよ。ローナはタカシに恋をしてるんでしょう」

「恋ですって!」

 驚いてみた後で。

「何よそれ」

「そこからですか?」

 アンネシーラもやはりまた、驚かされた。


「要するに、異性として好きってことですよ。共に生きたい、独占したい。子を産み、育て、死んでいきたい。そういう気持ちです」

「そういうものなの?」

「心当たり、ありませんか」

「そう言われてもね……」


「じゃあローナはタカシのこと、どう思ってますか?」

「なんか色々」

「全部聞きますから、言ってみてください」



「初めはただの、というかすごくサエナイ男だと思ってたわよ。なんだかよく判らない、偏屈でみみっちい遊びしてる根暗だなって。でも会ったその日に、なんだか大きなものを背負い込んでるような気がしてた。実際その通りで、妹さんのために頑張ろうとしてるんだって知ってからは、もうサエナイ男だなんて思えなくなったわ。その時からか……もう少し前からか、そのために真剣に向き合ってる姿が、なんか。男らしく見えてきた。改めて言われてみればそうね。あの没頭して、一つのことをまじめに考えてる顔つきは、独占したいって考えたこともあったわ。というかこれまでの私は実質的に独占しているような立場にいたわけで、心のどこかでそれが当たり前だって感じていたのかもしれない。その上で心地よさを感じていたことにも偽りないわ。ん? あっそうか。そういうことね! 今日月居さんとの関わりを見て、その事実が揺らいだように思えて仕方ないから、そういう状態になったってことなら! なんだか理解できてきた気がする。っていや、でもね。そうは言っても独占欲しかないってわけじゃないのよ? もっとこう、尭史のことを支えてあげたいとか、力になりたいって思いもあるの。だってねえ、アンネ。気づいてる? いえあなたは会ったばかりだから、こんなことまで気が回らなくて当然なのだけど。いまの尭史はね、ただでさえ妹さんのために負けられない戦いに挑んでるのよ。それだけでも辛いでしょうに、勝つために能力を使えば使うほど、普段のゲームに支障をきたすことになる。それがゆくゆく何を引き起こすか、本人はもう気づいてるはずなのよ。明日優勝しようがしまいが、今後これまでと同じようにS.N.o.W.を楽しむことなんてできないって! たった半分以上能力を使うだけでも、まともなドローができなくなるはずだわ。それなのにもし百回、使い切りでもしたら? そのときはきっと、常に最悪のドローしかできないような、そんな体質になって然るべき。……具体的にどうなるのかまでは、私には想像できないけどね。なんにせよこの大会が終わったときから、尭史はこれまでの人生を捧げたような趣味を、S.N.o.W.をほとんど完全に失うことになる。それに気づいたとき、私どうしようもなく悲しくなったわ。哀れだとも思うし、悔しくもある。もし私の能力が他のタイプだったり、デメリットがなかったら、なんてことまで考えるほどよ。だからせめてこの大会の間は、他のことを犠牲にしてでも力になってあげたいと思うの。相応の覚悟をもって臨む尭史に、代償に相応しい対価だけでも手にさせてあげたいって。でなきゃあんまりだわ。妹さんも尭史も、誰も幸せにならない結果なんて私は御免。そしたらもう、尭史を支えること以外に何も考えられないわ」



「そろそろいいですか?」

 まだ続けそうなジェローナを、アンネシーラは遮った。

「やっぱり間違いないですよ。恋です。重篤な心臓病とかじゃないので、安心してください」


「そうなの? 信用するわよ」

「そうしてください。胸を張っていいですよ。ローナはタカシが好きなんです」


 ハッキリ言われて、ジェローナは少しだけ心が落ち着いたように思った。

「判ったらもう休みませんか? わたくしはよい子なので」

「そうね。判った。じゃ明日は日の出と共に恋についてもっと詳しく教えて頂戴」

「早すぎですよ」

 まだ熱い心を抑え込みながら、ジェローナは横になる。

 安眠を邪魔されないようアンネシーラもまた祈りながら、眠りにつく。


 一日目が、終わった。

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