44 分かち合う発見
要件が済むと、「健闘を祈る」と言って早崎は去った。
盗み聞きについて中村が問いただしたげだったが、頑なに拒んでいた。
彼は彼なりに、尭史を困らせることをしたくなくなったのだ。
その後二時間ほど、二人は能力を前提とした調整を行った。
本当はそれでも足りないくらいだったのだが、寝不足でプレイに支障が出ては意味がない。
ということで、中村は日付をまたぐ前に帰って行った。
(いよいよ明日だな)
洗面所で歯を磨きながら、ドアの向こう: 机の上のジェローナに念じる。
「そうね。早く寝なさい」
(なんだよ、つれねえな。ちょっとは駄弁ろうぜ)
「中村さんの厚意を無駄にしたいの」
(だから何をそんなツンケンしてんだ。オレ悪いことしたか?)
「ほっといてよ!」
(えー)
尭史はただ、高揚した気分を明かしたかっただけだったのだ。
そこを出ると、仕方なくスマートフォンを手に取る。そしてまた洗面所に戻った。
「も、もしもし。あ鮎川くん」
「おう。今いいか?」
「えと、あの、こんばんは」
月居はまるで待っていたかのように、すぐ電話に出た。
そのほころんだ顔は、もちろん尭史には見えていない。
「さっきはありがとうな。おかげで無事に部屋着けたし、デッキもなんとかなった」
「そうお! よかったぁー」
「安心したらなんか、目が覚めちゃってさ」
時刻も零時を回ろうというのに、月居はまるで眠気を見せない。
気をよくした尭史の口から、どんどん自分の話が流れる。
月居はそれを静かに聞いていた。
「そうそう。さっき、早崎と話してさ」
部屋に来た経緯はぼかしながら、彼の話をそのまま聞かせる。
「……ってことで、絶対焔村を倒せって言うんだ。どう思う?」
二、三秒の沈黙の後、月居はこう言った。
「早崎くんの気持ちは判るよ。自分の居場所を奪っていった人を怒んのは、当然だっけ」
だけど、と言いづらそうに。
「それを鮎川くんが引き受けるかどうかは、別の問題じゃないかな」
「というと?」
「必ずしも早崎くんの言い分を聞かなくたって、鮎川くんの損失にもならなければ、目的にも関わらないでしょーよ」
人情がないって嫌わないで欲しいんだけど、と前置いて。
「鮎川くんいま、早崎くんの言う通りにしなきゃって思ってねーけ?」
「そりゃ、思ってるよ。目的が一致してるわけだし、断る必要がない」
「ほんとにそーけ。わたし、こういうことにもなりうる気がするよ――」
「焔村くんが、賞金のすべてを投げ打ってIDを持ちかけるって」
尭史は息を飲んだ。
「オレだって、その考えが浮かばなかったわけじゃないよ。焔村の目的が、自分の手でゲームを炎上させ、崩壊させることだとしたら! 賞金にはまったく目もくれないかもしれないって。でも」
「金額のケタが違うからありえないって?」
月居に先を越されて、ひるむ。
「優勝者には実質600万で、準優勝者は300。確かにすごいお金だよ。でもお金はお金。焔村くんがこれまでしてきたコトとはなんの関わりもねーべ。むしろS.N.o.W.みたいな大きいコンテンツを炎上させるには、それくらいの代償は必要って考えてくるかも。900万を明け渡したヒトが、『サリストム』にしたような主張をすれば! きっとそれは、すげー説得力」
尭史はもう、言葉を失っていた。
「そうなったら、鮎川くんどうする? 妹さんのことを第一に考えるなら、焔村くんとは闘わない方がいいかもしれねーよ」
二人の間に、しばし沈黙が下りた。
それを先に破ったのは、月居の方だった。
「まーなんだかんだ言って、仮定に仮定の上乗せだかんね。焔村くん案外、準決勝とかで負けちゃうかもだし」
「そ、それもそうか。北田気か、あいつを倒したヤツと闘うわけだしな」
「鮎川くんがそーなっちゃ元も子もだし、早く寝なきゃダメだよ」
「……ああ」
「じゃ、ね。今日はありがと! あっ」
「どうした?」
「鮎川くんがどのやりかたを選んでも、わ、わたしは応援するからね!」
「そっか、ありがとう」
通話が終わると、尭史はベッドに直行した。
(ローナ? 起きてっか?)
枕に顔をうずめながら念じるが、返事はなかった。
(なんだ、寝てるのか。電気消すぞ)
腕だけ伸ばして照明のスイッチを押す。
尭史はゆっくりと、眠りに落ちていった。




