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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
一日目: 閉会後(夜)
40/106

40 エルフの先触れ

 それから尭史は指定のホテルに直行した。

 家に帰ってもよかったが、両親と会ってストレスを溜めるのが嫌でやめた。

 月居に借りっぱなしのコスプレ道具を外すと、すぐにケータイを取り出す。そして中村に連絡をとる。

 メッセージを送ると三分ほどで返信が来た。


『これから部屋来てくれよ。デッキいじりたいから』

『月居を連れ込んでるんじゃないのか』

『何言ってんだ」

『さっきまでメシ喰ってたんだろ?』

『また覗いてたのかよ』

『いや、カマかけた』

『おまえさあ……』

『三十分で着くぜ☆』


 文句は来た後でいいか。尭史はケータイを放った。

「そういえばジェローナ、さっきから何も喋ってなくないか?」

「べつに」

「ほっといたことは、謝るけどさ。シャワー浴びてくるぞ」

「どうぞ」

 尭史は脱衣所へ。机に置かれたジェローナは、一人座り込んでいた。


 二十分余りののち、尭史はバスローブを着て出てきた。

 赤い炭酸を飲んでいたところでインターホンが鳴る。


「よう、時の男! S.N.o.W.勢はおまえの話で持ちきりだぜ」

「そうみたいだな。まさかパパラッチに困る日が来るとは思いもよらなかった」

「一度でいいから言いたいね、そのセリフ。ほら餞別(せんべつ)だ」

「なんだこれ。全部ウコンかよ」

「おごりじゃないぜ。情報量の前払いだ。大会終わったら、月居の具合聞かせろよ」

「ばーか」


 小突きたくなるアホらしさが、今は尭史の気を休めた。

 部屋に招き入れると、二人でシングルベッドの上にあぐらをかいた。


「それでミスターウォターフォール? これから何をする気だ」

「おまえそれ直訳したら滝男だろ」

「どれくらい枚数差し替えるんだ」

「19枚」

「上限いっぱいか」


 スクロールカップでは、日をまたぐ際にデッキの一部を組み替えてよいことになっている。

 その枚数は、メインデッキとサイドボードを足した枚数の二割切り上げ。

 80足す15枚である尭史の場合、19枚が限度だった。


「しっかり結果を出した今となっては、もうそのデッキが馬鹿げてるとは言わねえよ。もちろん不正も疑っちゃいねえ。でも」

 言葉と裏腹に釈然としない様子で言う。

「それでもなお、何を以って改善とするのかはさっぱりだ。スパーリング(回し)を手伝うこと以外、俺にできることあんのか?」


「そうだな……、とりあえず『獰猛な中隊長』持ってるか?」

 訊きながら考える。中村の言うことはもっともだった。

 ジェローナのことを信じて貰わない限り、一方的に指示を出すことしかできない。

 それだと金曜日までの作業となんら変わらないのである。

(三人寄ればなんとやらだ。本当は他人の意見も貰いたいところなんだよな)


「尭史、ちょっと」

 そんなときだった。ジェローナが、余所余所しげに声を上げた。

「今朝の焔村さんと同じ違和感があるんだけど」


 ぎょっとして、机に顔を向ける。

(なんだ、何を言ってる?)

「そのままよ。気配っていうか、引力みたいなのを感じるの」

 カーテンをめくり、ベッドの下を覗く。べつに誰も居ない。

「何やってんの鮎川」

 中村がぼさっと尋ねた。


「いや、うーん」

「なんだよ。煮え切らねえな」

「誰かに見られてるような気がしてさ」


 咄嗟に吐いた嘘。だがそれを聞いた途端、ジェローナは指を鳴らした。

「それよ! 視線みたいなものを感じるの」

(おいおいおっかねえなあ)

「おっかなくないのにわざわざ口挟まないわよ」

(なにピリピリしてんだ?)


 それはさておいて、尭史はよく考えてみる。

(ここは密室だ。オレと鮎川のほかに誰かがいるはずがない。それを除けばローナだけ――)

 そこで、ハッとする。

 人間じゃないとしたら?



「『獰猛な中隊長』なんて、やっぱ手元にねえよ。いつのカードだ?」

 手持ちを一通り確認した中村が言う。

「いま持ってるカードって、それだけか?」

「ああ、そうだけど」

「未開封のパックは?」

「あん?」眉をひそめる中村。

「いまあるのは、これだけだぜ?」

 ナナメ掛けの底から、ボックスを取り出す。

「ドラフトの全勝(4-0)景品、最新31弾・24パックだっ!」


 胸を張り、自慢げな中村。

「よし、開けよう」

「なんですとぉー!」

 尭史が手を伸ばすと、素早くひったくる。


「いや、おま鮎川、お前さあ! そこはもうちょっと労ってくれてもよくねえかなあ!」

「はいはい」

「4-0だぜ! 16人に一人の結果なんだぜ! すごいだろおっ?」

「つよいつよい」

「市場出回ってないし、これからオークション流すつもりだったんだけど!?」

「でもどうせまた買うんだろ? 箱で」

「まあそうなんだけどさあ!」


 まるでマンガのように、ぐぬぬと歯を食いしばる。

「せっかくの景品なんだし、やっぱ開けようぜ。いますぐ」

「そう言われるとそうんだんだけどよぉ」

「さあ並べよう、ここに24パックをさ」

「釈然としねえな……発売前のカードはどうせ本大会じゃ使えないくせに」

 などと言いつつ、中村はシュリンクビニールを破る。


 ほどなくして、プレイマットの上に24のパックが並べられる。

 尭史はそれらに、まるでダウジングするようにジェローナを滑らせる。


「鮎川お前さっきからおかしいぞ」

「いいから見てろって」

 有無を言わさぬ様子で、尭史は探り続ける。

「……これね」

 そしてついに、たった一つのパックを絞り込んだ。

「これだけが、明らかに違う気配を発してるわ。開けさせて」


「ってことで最初にこれを開けてみよう」

「どういうわけかサッパリだけどさ」

 抵抗するのはあきらめたのか、中村は言われた通りにする。

(案外流されやすいっていうか、押しに弱いヤツだったんだな)

 そんなことを思いながら、尭史は袋の破かれる音を聞いていた。



 結果は思った通りだった。



「あ、あのぅ……こんばんは」

 中村の手の中。

 四枚のカードに挟まれて、金髪のエルフがか細い声を出した。

「初めまして。アンネシーラ、といいます。やさしくしてください」

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