16 粉々
創世導師が編み出した、地球の異なる可能性。
この世界とは違う歴史を辿った、平行世界の一つ。
ユーラシア大陸を「ティリオン大陸」と呼称する、20世紀ファンタジーのような社会風景。
そこでの一時代を描いた1, 2, 15, 16弾拡張パックでの、中心勢力――これこそ聖染騎士団である。
原型は、オルギンを首領とする小さな山賊集団だった。
ある日彼らは山中で、クィールという名の破戒僧と出会う。
クィールは新たな神の存在を説いたために、都会の教会から追放されていた。
身を隠すため、山中に籠もろうとしていたのだった。
クィールの破天荒な性格を気に入った山賊たちは、数日限りのつもりで一緒に生活した。
その僅かな間にも、クィールは数々の奇跡を起こした。それらを目の当たりにするうち、オルギン達も同じ神を信じるようになっていった。
やがて同じ信徒となった彼らは、共に山を下りた。
道中で他の匪賊や貧民が後に続くようになり、盗賊団だったモノは次第に勢いを増していった。
ある夜、夢中でクィールやオルギンらは神からの預言を受ける。
それは「都会に蔓延る邪教に打ち勝て」というものだった。
翌朝からオルギンたちは、再び武器を手に取った。
クィールを軍師に、聖染騎士団を旗揚げしたのである。
聖なるものに染められた、ならず者ども。
彼らはそのまま、街を牛耳る教会へと反旗を翻したのだった――。
――第一弾拡張パックの背景ストーリーについて、S.N.o.W.設定資料では以上のように説明している。
カードにおける聖染騎士も、これらの展開を踏まえたパラメータ設定が為されていた。
元の育ちが悪い彼らは、器用な動きができない。ドローや相手の妨害などを苦手とする。
開墾も秀でていないし、死に際する置き土産も残せない。
反面団結力が強く、頭数が並んだときの爆発力に長ける。
神の奇跡による強化や回復のほか、電撃的な攻撃も得意だ。
元山賊ということもあってか、器物の破壊なども朝飯前である。
(早崎のデッキも、ほとんどそうしたストーリー設定通りのハズだ)
オルギンのFFを睨みながら、尭史はそんな風に考える。
(となれば、まずは『最果ての始祖鳥』。頼むぜ、ローナ!)
「エンドです」
早崎の声が重なる。
ローナが右手を挙げ、尭史がデッキに手をかける。
「ドロー。『せせらぎを纏うグリフォン』をプラグ、エンド」
「ドロー。プラグ、『利刀油捌き』を召喚。効果で『オルギンの弟子』のHRを+2してアタックフェイズへ」
「待った。メインフェイズ終了時に手札から『最果ての始祖鳥』を召喚する!」
『最果ての始祖鳥』(白)(青)
プログレ――鳥、超古代生物
このカードがFmゾーンに置かれるとき、アンステディされる。
颯爽(このカードはスプレーを唱えられるタイミングでいつでも召喚できる)
このカードが歯に出たとき、点数でみたコストが1以下の、フラグメントエリアにないカードを一枚選び、オーナーの手札に戻す。
BP1000 / HR0 / RVなし
「効果により弟子を手札に戻す」
「通ります」
ややムッとしたように、早崎の眉が動いた。
「青入りの四色デッキだったのか」
「へえ。つまりオレの前の試合、見てたんすね」
言わずと知れた問いかけに、早崎は頷きもしなかった。
「では、ターン終了」
「相手だけが情報持ってるってことに、なっちゃったのね。大丈夫?」
(いいから次だ。『螺鈿の壁画』!)
「判ったから、落ち着いてよ」
(そうしてもいられねえ)
狙ったカードを手札に加えつつ、尭史は考える。
(こういうタイプの相手は、序盤の数ターンが肝心なんだ。そこを凌げば大抵息切れしてくれる。あるいはなんとかして重量級の生物を召喚すれば、向こうは対処できない)
「理屈は判ったけど。でも今の尭史は見てていい気分しないわ。怖い」
(聞けないね)
「プラグ、『螺鈿の壁画』を召喚。エンド」
「ドロー。『風招きの老兵』プラグ、『神に魅入られしゲイリー』を召喚」
『神に魅入られしゲイリー』(赤)
プログレ(ネームド)――人間 / 荒くれ者
あなたが赤または白のプログレを召喚した際、追加で(赤)または(白)を払ってもよい。(赤)を払った場合、対象のプレイヤー一人に2点のダメージを与える。(白)を払った場合、対象のプログレ一体に1500のダメージを与える。
BP1000 / HR1 / RV(騎士)
「続けて『オルギンの弟子』を召喚。(白)を払い、ゲイリーが『螺鈿の壁画』へ1500のダメージ。何もなければ『利刀油捌き』でプレイヤーへアタック」
「通ります」
カウンターが二つ、ジェローナの上へ移動する。
(タッチ赤、か。割とメジャーなタイプだ。序盤の制圧力も保証されてる)
「今の攻撃、『螺鈿の壁画』で防御しなくてよかったの?」
(たった2点のためにブロックして、破壊させるのは惜しい。もっとHRの高いプログレが攻撃したら、一方的に壊されたとしてもブロックするけどさ。次、『玉虫色の発頸』!)
ジェローナはただ、言われるがままに動いていた。
相変わらず尭史が描く戦術は判らない。口を出すなどもってのほかだ。
それでも、ゲームの大まかな流れは感じ取れるようになっていた。
尭史から詳しくルールの説明を受けたわけではない。
彼が腰を据えて教えたのは、月曜日。二人が出会った次の日の、戦場の区分だけだった。
しかし彼女はこれまでに、中村との調整や参加者たちの対戦を何度も見ている。
そこからゲームの流れを学んでいくことは、ごく自然だった。
そんな彼女の目には。
尭史が、じわじわと――追い詰められているようにしか見えなかった。
数分後の5ターン目、早崎の攻撃。
相変わらず、小型プログレが矢継ぎ早に繰り出されている。
尭史も忙しくしているものの、その対応は追いついていないとしか思えなかった。
手札への送還や破壊、攻撃力の低下。
様々な手段を用いるものの、尭史は後手に回ったまま。
一方的に、ダメージを積み重ねていった。
「……では最後に『風招きの老兵』で攻撃。2点のいダメージ」
この攻撃で、ジェローナに乗ったカウンターは19個。
半分以上のライフが削られていた。
(ローナ。『不平等統制』を)
「え……?」
5ターン目の早崎側終了間際に、尭史から飛んだ指示。
その内容に、ジェローナは耳を疑った。
「『不平等統制』って、月居さんとの試合で使ったやつでしょう。ホントにそれでいいの?」
(それがどうしたよ)
「だ、だって。あのカードって。すでに戦場に出ている生物には、効果が無いんじゃないの?」
尭史は静かに、ジェローナを見下ろした。
(それがどうしたんだよ。変更はないぜ)
「でも」
「鮎川氏、そちらの手番だ」
デッキに手をかけない尭史を、早崎は訝しんだ。
(ほら、相手を待たせてる。早くしてくれ)
ジェローナは不安を抱えながら、手を挙げた。
それを確認した尭史が、デッキに手を伸ばす。6ターン目の始まり。
「ドロー、メイン。まずFFのコントロール奪取を使用する」
今度は早崎が驚く番だった。
「聞き間違いだろうか。回復ではないのか」
「いや。解放8だ。対象は『神に魅入られしゲイリー』かな」
二度聞き返すようなことはしない。早崎は素直に、ゲイリーを手渡した。
「アタック後、『不平等統制』を発動。ゲイリーを生贄にして、人間とならず者のコストが増える』
それだけ済ませると、尭史はターンを渡した。
「……!」
ジェローナはそのとき、早崎の空気が緩んだのを感じた。
さしものジェローナでも、早崎の考えを見通すのは難しい。尭史とは比べものにならない。
にも、かかわらず。
このときの早崎の余裕には、確信があった。
この勝負モノにした、という――自信が表れていたのだ。
「ドロー、メイン」
どうか勘違いであれ。ジェローナはそう祈った。
しかし彼女の勘はよく当たるのだ。
「瞬間魔法、『聖ゲイルのエンブレム』を発動。二つ目のモードを選択、対象は『不平等統制』」
そう。
一回戦の決まり手が、かくもあっさりと破壊されたのである。




