九
終電に間に合うように高原を後にした。少し渋ったが帰りも水上が運転した。行きほど慎重な運転ではなく、無事に駅前に着いた。
写真部の四人は車を降りた。橋野は今日は名雲家に泊まるため、そのまま車に乗っている。
「それじゃあ、また」
と、運転席に乗りかえた名雲が写真部の四人に手をふった。。
「気をつけてお帰りください」
後部座席の橋野も窓を開けて言う。二人に、写真部の四人はそれぞれ別れの挨拶をした。
「名雲も、近いからって油断しないように」
古泉が苦笑しながら言った。
「大丈夫だよ。ところで古泉、アクセルってどっちだっけ?」
「天水よりヒドい」
「そうだね。私の方がゆっきーより格上だね、二段階くらい」
天水は腕を組んで勝ち誇ったような顔をした。
「ほう。じゃあ天水、ウィンカーの右はこれをどの方向に動かして点滅させる?」
天水は腕を前に出してハンドルを握るようなしぐさをした。そして架空のハンドルを右に大きく切り、なぜか体も右に傾かせながら、
「下!」
と言った。
「えらく時間がかかったな。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
古泉がこたえると、正解かどうかも言わずに車は走り出した。駅前を出て行くまでにやたらとブレーキランプが点いたり消えたりしていたが、たぶん大丈夫だろう。
天水は車が見えなくなるまで手を振っていた。
「で、正解だったの?」
駅に入っていこうとしたときに天水が尋ねた。
「合ってましたよ」
と、夏川が言った。
「えっ?」
と、水上が言った。
「えっ?」
と、天水と夏川がそろって言った。
古泉はやれやれと思った。
駅から出て行くとき、サイドミラーに手を振る天水の姿が映っていた。古泉も水上も夏川も、見えなくなるまで車の方を向いていた。橋野は振り向いてリヤガラス越しに手を振り返していたが、この暗さでは向こうからは見えないだろう。
道路に出て、天水たちが見えなくなると橋野は手を振るのをやめたようだった。さっきまで賑やかだった分、二人だけの車内は静かで少し物足りないようで、それでも一息ついた安心感があった。
「家に帰るまでが天体観測ですよ」
後部座席の橋野にいきなり言われた。油断しないように、と古泉に言われたばかりなのにさっそく気が抜けていたようだった。
「一応言っておくけど、ブレーキとアクセルはわかってるから」
「そんなこと心配してませんよ」
橋野は微笑した。国道を横切る前に赤信号で車は止まった。
「今日は、ありがとう」
後部座席を振り返らずに名雲が言った。
「なんですか? いきなり」
「いや、突然写真部と一緒にってことになったからさ」
「気にしないでください。楽しかったんですから」
信号が変わり、車が動き出した。
「それはよかった」
「最初は緊張しましたけど、写真部の皆さんがおもしろかったので」
「特に天水が?」
「特に天水さんが」
車は住宅街に入っていく。狭い道なので、名雲の運転は慎重になった。橋野も話しかけてこない。
名雲の家の前に着いた。車庫にバックで車を入れるのに何度も切り返しをした。
何とか帰ってくることができた。
「ふー」
正直、最後の運転が一番疲れた、と名雲は思った。背もたれに体重をかける。
「お疲れ様でした」
「お互いに」
数秒ボーッとしてから車を降りた。




