番外編 先生の家族 後編
ご飯が出来上がって、リビングで談笑している先生達に声を掛けに行った。
「あの、先生・・」
ドアを開けると四人がこちらを向き、八つの目がカッと見開いた。
と、次の瞬間には大股でこちらに移動してきた先生の腕で抱き上げられる。
「アヤ、どうしたんだ、その格好は。可愛すぎる」
後ろで声がする。
「こらっ、トオル!」「アヤちゃんが見えんっ」「隠すな!」
それらを無視して、私を抱き上げた先生はスタスタ廊下を歩いて階段を登る。
「え? あ、あの? 先生? ごはん・・」
先生はある部屋のドアを開けると、その部屋のベッドに私を降ろしていつものように覆いかぶさった。
キスは早急で、入り込んでくる舌が生き物のように動き回る。
私の頭はたちまち真っ白に塗られてしまい、制止の言葉も全部先生の口に掻き消されてしまう。
「・・っ、ん・・」
「アヤ。かわいいアヤ。食いたい。今すぐ・・」
先生の大きな手が私の胸に触れた時、ドアがドンドンバンバンガンガンすごい音を立てた。
「こらあ、トオル!」「綾乃ちゃんを返しなさーい!」
「こんなトコでおっ始めんなよ。アヤちゃんにもっと気ィ遣え。バカ」
「落ち着け、トオル。新婚さんなのはわかるが、家でヤれ」「うらやましいぞ!」
「・・・っち」
軽い舌打ちをして私の身体から手を離した先生は、「わかったからあっちに行け」とドアの外に向かって言い、私の乱れた服を丁寧に整えてくれた。
「こんな所ではイヤだったな。悪い、アヤ。帰りにどこか寄って、ゆっくりヤろう」
ポンポンと優しく頭を撫でられ、なんだかすごいことを言われる。
ご飯はすごい光景だった。
お母さんの作る料理はすごいボリュームで驚いたけど、皆で食べ始めたらその量に納得した。
先生はよく食べるひとだけど、お兄さんやお父さんも同じで、四人でバクバクと箸が進み、あっという間にお皿の中がなくなっていく。
「アヤ、早く食わないとなくなるぞ」
先生がお皿にひょいひょいと取ってくれる。それを見て皆がまた「おーっ」と声を上げた。
「これ、美味しいな。アヤちゃんが作ったの?」
「綾乃ちゃん、すごいのよ。テキパキしてて」
「ん、これもおいしいー! 」「あ、こら、そんなに食うなよ。なくなる!」
「・・・アヤの作るメシはどれも美味い」
「うらやましいーっ!」
「ホントにもう、トオルにはもったいないくらいの、いいお嫁さんだわ」
美味しい、美味しいって食べてもらえてとても嬉しい。
「あ、あの、・・お母さんの作るお料理も、すごく、美味しいです。
作り方、見せていただいたので、家でも作ってみますね」
「ホント? うれしいわー」
「念願の、娘と料理、が叶ってよかったじゃないか」「ふふふ」
お父さんが、お母さんに優しく笑いかける。
目を細めて笑うところ、先生と似てるかも・・。
「アヤ。親父をあまり見つめるな」
横から腕が伸びてきて肩を抱かれる。
お座敷で並んで座っているので簡単に先生の腕の中に引き寄せられてしまった。
先生の大きな身体に後ろからすっぽり包まれるような体勢。
「せ、せ、せんせっ」
慌てて退こうとしても、シートベルトみたいに左手が腰に回っていて抜け出せれない。
「こんな可愛い格好で見つめられたら、男はみんなクラクラする。気をつけろ」
真顔で注意してくる先生。
「もう、何を言ってるんですか。お父さんの笑った顔が先生に似てるなあって思って見ていただけです。お父さんに失礼なこと言っちゃダメですよ」
「いやいや。お父さん、なんてドキドキするよ。こんなに可愛い娘ができるなんて嬉しいよ」
「オヤジ、ズルいぞ! 俺だって! ハヤ兄ちゃんって呼んで欲しい!」
「アヤちゃん、啓兄ちゃんだよー。呼んで、呼んで!」
キラキラした目で懇願される。ど、どうしよう。
「アヤ。別にいいぞ」
先生が私をさらに腕で包み込む。きゃあ。
「こらあ、トオルだって、昔は呼んでくれたのに、今はちっとも呼んでくれないじゃんか! にーちゃんはさみしいぞ!」
「そーだ、そーだ!」
「・・・」
わいわいと盛り上がるお兄さん達とため息をついて、呆れ顔の先生。でも、お兄さん達はそんな先生の様子も楽しんでるみたい。
帰る時も来た時と同様、お母さん達全員で玄関で盛大に見送ってもらった。
「また来てね」って、何度言ってもらったか分からないくらい。
お母さんにぎゅーって抱きしめてもらって「また来ます」って約束した。
「トオル」
先生はお兄さん達に呼ばれ、何かを渡される。
何かを耳打ちされた後、バンバンと背中を叩かれていた。
「よかったな、トオル」「お幸せにな、トオル」
「ああ、ありがとう。・・・兄さん」
先生の返した言葉にお兄さん達は固まった。
先生は私の手を取り、「帰るか」と微笑んだ。
背後ではお兄さん達が「今の兄さんは俺にだろ!」「いや、ぜってー、俺にだって」と言い合っている。おもしろい。
ホント、先生の家庭ってあったかい。
まっすぐ帰ると思ったら、先生は私の手を引いて駅前にある立派なホテルに入って行くのでびっくりした。
部屋もすごく広くて綺麗で、窓からの夜景がすごい!
スイートルーム? え? なんでこんな高級なお部屋に?
「さっき、兄さん達に結婚祝いにもらった。楽しんで来いと。こんな良いプレゼントを貰ったのは初めてだ。・・・アヤ」
先生は私を抱き上げ、ポイポイと靴を脱がせてベッドに寝かせた。
目が、ギラギラと光ってる。
「ずっと我慢してた。もう、食ってもいいか?」
耳にキスをしながら先生は私に尋ねる。
いつも強引な先生だけど、いつも私にこうやって聞いてくれる。やっぱり先生は優しい。
先生、家族の皆さんはトオルって呼んでた。
トオル、トオル、徹さん。私も呼んでもいいのかな。
「はい。・・・徹さん」
ドキドキしながら名前を呼んでみたら、先生がピシッと固まった。
目を見開いて。
でも、次の瞬間、噛み付くようなすごい勢いでキスされて、先生の手が忙しなく私の身体中を這い回る。
息もできないくらいのキスにクラクラして、いつもより早急な動きに身体が跳ね上がる。
「アヤ。もう一度、呼んでくれ」
耳にキスしながら先生が囁く。耳からビリビリと突き抜けるような感覚に震えながら、先生の名を呼ぶ。
もう一度、と何度も言われて、私も何度も繰り返した。
それから、徹さんと呼ぶと、あの日ものすごく濃厚に過ごした夜のことを思い出してしまって、恥ずかしくて・・。
私は、なかなか名前を呼ぶことができない。
これで完結です。ありがとうございましたヾ(@⌒ー⌒@)ノ




