第7話 ラルム流特訓
お久しぶりですね(1年ぶり)
2月頃に書き換えたんでですね、それで満足してしばらく放置してましたね、はい。というわけで実質半年ですね()
おっと、昨日の事もあり、すっかり頭から抜けていた。だが、今さら予定を変えるほどの用事でもない。行っても問題はないだろう――そんな事を考えていた矢先だった。
ラルムに手を掴まれ、半ば引き摺られるようにして連れて行かれる。足取りは思いのほか速く、こちらが少しでも油断すれば転びそうなほどだ。何をそんなに急いでいるのか分からないが、振りほどく理由もなく、俺は黙ってそのまま引かれていった。
そしてたどり着いたのは、ラルムの家らしき場所だった。街のはずれにあり、人通りは少ない。周囲は高い塀で囲まれていて、中の様子はほとんど見えないが、外観だけでもただならぬものがある。手入れの行き届いた石壁、重厚そうな門、静かすぎるほど静かな敷地。豪奢というよりは、どこか閉ざされた威圧感を持つ屋敷だった。こういう場所に住む人間は、やはり俺とは住む世界が違うのだと改めて思わされる。
そんな場所で、ラルムは口を開いた。
「槍もいい、しかし剣も使えるに越したことはないだろう?」
その言葉に、俺は内心で首をかしげる。なぜわざわざ俺に教えるのか。昨日会ったばかりの相手に、ここまで面倒を見る理由が分からない。それに、昨日に比べると少し元気がないようにも見える。声は普段と変わらないのに、どこか覇気が薄い。何かあったのだろうか、と考えても、貴族の事情など俺には見当もつかなかった。
「そうですね、ありがとうございます、ラルム・エステル様」
そう言いながら、深々と礼をする。こういった上流階級の人間とは縁のない生活をしてきたせいで、これで合っているのかどうかも分からない。だが、少なくとも失礼にはなっていないはずだと信じるしかなかった。
「顔を上げよ」
その言葉に従って顔を上げると、昨日見たのと同じ、どこか気の強そうな顔のラルムがいた。どうやら気に入ったらしい。ほんのわずかだが、張り詰めていた空気がやわらいだ気がした。
そして、剣の訓練が始まった。
当然ながら、剣など使ったことはない。構え方も、振り方も、距離の取り方も何もかもが分からない。対してラルムは、まるで呼吸をするように剣を扱ってくる。踏み込みは鋭く、無駄がなく、こちらが一瞬でも隙を見せればすぐにそこを突いてくる。実力差は圧倒的だった。
一戦目では剣を弾かれた。
二戦目では足払いで地面とキスさせられた。
三戦目では、振り上げた刃の軌道をあっさり読まれ、体勢を崩された。
そんな調子で数戦の模擬戦を行なっていくうちに、腕はじんじんと痺れ、息は上がり、服の裾には土がついた。だが、ラルムは無言のまま、どこか試すような目でこちらを見ていた。教えるためなのか、値踏みするためなのか、そのどちらともつかない視線だった。
模擬戦が終わると、ラルムは「ふむ……」と考える素振りを見せたあと、何も言わずに建物の中へ入っていった。
しばらくすると、ラルムはどこからか葡萄酒とサンドイッチを持ってきた。
「昼飯だ」
そう言って、サンドイッチと葡萄酒をこちらに渡してくる。続けて、先に食べていろと言い残し、また建物の中へ戻っていった。
国内の有力貴族というのは、随分と隙が多く見えるものだ。いや、もしかすると見えていないだけで、何かしらの魔術で万全の備えをしているのかもしれない。葡萄酒の盃は銀製で、手にしただけでもやけに重みがある。サンドイッチと葡萄酒にそっと舌を触れさせてみるが、痺れはない。臭いも変ではない。
一応、確認はした。
だが、そもそもラルムに俺を毒で殺す理由があるのかと言われれば、それも微妙だ。殺すつもりなら、模擬戦の最中に腰に差していた真剣でいくらでもできただろう。
とはいえ、もしもの備えはしておくに越したことはない。
すぐに取り出せる慣れた武器が手元にないのは、やはり落ち着かない。そう判断した俺は端末を操作し、1タップで武器を手元に出せるようにしておく。何も起きなければそれでいい。だが、何かあったときに「備えておけばよかった」と後悔するのだけは避けたかった。
そんなことを考えながら、サンドイッチを頬張る。
パンはやや香ばしく、口に入れると外側は軽く歯ごたえがあり、中はふんわりとしていた。具材はシンプルだが、野菜の瑞々しさと肉の旨味がちょうどよくまとまっていて、運動の後の腹には十分すぎるほどだった。葡萄酒も、慣れないながら喉越しが良く、乾いた口の中をゆっくりと流していく。高級なものなのだろうが、今の俺には味の細かな違いを語る余裕はなかった。ただ、うまい。それだけは確かだった。
そんなこんなでしばらくすると、小瓶を持ったラルムが現れた。その顔は、少し険しかった。何か思い悩んでいるようにも見えるし、無理に平静を装っているようにも見える。
そのまま何も言わずに俺の横へ座ると、大口でサンドイッチをあっという間に食べた。食べ方に気品はないが、妙に手慣れている。
小瓶を持ったまましばらくぼーっとしていたかと思うと、今度は仰向けに寝始めた。
何をしているんだと思ったが、本当に寝始めたのである。
立場的にも、貴族様の昼寝を邪魔するわけにもいかない。俺はただ隣で呆然としているしかなかった。
離れるわけにもいかず、暇を持て余して雲を眺めていた時だった。突然、ラルムがスッと起き上がった。
少々びっくりしたが、思っていた事をそのまま口にする。
「昼食から様子が変ですが、どうかしたんですか?」
自分でも合っているのか分からない敬語だったが、今さら言い直すのも不自然だろう。するとラルムは、こちらをじっと見てから口を開いた。
「不思議なやつだなお前は」
――お前がな、と口に出そうになったが、寸前で止める。相手が相手だけに、軽口を叩く空気ではない気がした。
首をかしげる。何か、そう思われるようなことをしただろうか。異世界特有の何かをやらかしたのかもしれない。そんな事を考えていると、ラルムは再び口を開いた。
「お前はただ冒険者になったわけではないんだろう?」
その一言で、心音が跳ね上がった。
ポーカーフェイスは得意ではない。案の定、心の動きはそのまま顔に出ていたらしく、ラルムからすぐに見抜かれることになった。
「やはりか。だが、俺を殺しに来たわけではないようだな。金か? 権力か?」
答えはすぐには出なかった。
目的を忘れたわけではない。だが、ここで下手な返答をすれば切り掛かってくる可能性がある。勝てるかどうかは別として、ここでやり合って得になることは何一つない。それに、いざという時にすぐ抜ける武器やホルスターを用意しておくべきだったと、今さらながら後悔した。
それでも、沈黙を続けるわけにはいかない。
頭の中で別のことを考えながら、言葉をまとめる。
「ここから少し北上したところに、巨大な魔獣がいて、それが物資の輸送に問題を及ぼしている事は知っていますか?」
「あぁ勿論だ。数ヶ月前からリッチが魔獣を操っているようだな。だが、なぜか奴らは動かない。おまけに元から魔獣の森だったから、南下してくる商団とたまの旅人しか通らない。結局のところ、一部の物価が上がっただけで、大した影響ではない」
ラルムは肩をすくめるように言った。
その口調には、確かに余裕がある。だが同時に、状況を把握した上でどこか距離を置いているような冷たさもあった。
「それを倒す為に、貴方の魔術的知見が必要なのです」
「ほう……なぜ倒すのかは何か事情があるとして置いておくが、しかしなぜ俺を必要とする? リッチ程度、他の魔術師でも如何様にでもできよう」
「それができていないのが現状と推測しますが?」
「まだ足る者が来ていないだけだ」
不機嫌なのか、自信なのか、そのどちらにも聞こえる返しだった。
こちらも引くわけにはいかない。言葉を選びながら、それでも押すべきところは押していく。
「それに私は、今や流浪の身です。ですから冒険者という職業を選びましたが、元々は商人をしていました。情報や珍品などには事欠きません。そういったものではいかがでしょうか?」
この世界で情報や元世界の品は、どれも貴重で珍しいはずだ。金を積むよりも、むしろそちらの方が価値を持つ可能性がある。少なくとも、依頼をかけて報酬を用意するよりは現実的だった。
「それに、白銀級の依頼として出されていました。報酬も中々です。冒険者になりたてのラルム・エステル様にとっても、その力を見せつけるに丁度いい依頼なのでは?」
報酬も、建前も、用意した。
さぁ、どうだ。
しばらくラルムは考えていた。静かな空間には、風の音と草の擦れる音だけがあった。さっきまで軽口を叩いていた男が、今は珍しく黙り込んでいる。その沈黙が長く感じられて、こちらまで息を詰める。
やがてラルムは口を開いた。
「一つだけ条件がある」
「それは?」
「報酬はお前のいう情報と珍品を一つずつだ。前払いで情報を頂く。良いな?」
「ありがとうございますラルム・エステル様」
「あー、それとその呼び方もよせ。鬱陶しくなってきた」
「はい、えー……ラルム様?」
「ラルムで良い」
「はい。では、前払いの情報というのは、何が知りたいので?」
「ではそうだな、国内外問わず最も強い槍使いを教えろ。時間は、三日ほどか。集められた情報の中で最も強いものを教えろ」
「なぜというのは先程の事もありますし、聞かないでおきます。了解しました」
「三日後、昼頃に協会で」
ラルムはそう言うと、どこからともなく現れた世話人に案内され、そのまま屋敷の中へ消えていった。
世話人が去った後、空はすでに赤くなっていた。夕焼けが塀の上を染め、長く伸びた影が地面を覆っていく。さっきまでの緊張が嘘のように、あたりには静けさだけが残っていた。
「さて、次はどうするかな」
情報なら端末ですぐに調べがつくだろう。
それよりも、次に何をすべきかだ。
そう考えながら、俺は夕暮れの街へと足を向けた。そして、一つだけすぐにやるべき事を思い浮かべる。
「小型拳銃とホルスターか、慣れんな」
そんな声も、街の喧騒に紛れて消えていった。
次がいつになるかはわかりませんがまぁ気長に待っていただけるとありがたいです。
因みにカウンターサイドってゲームやってたんですがサ終するということで絶望してます。




