第七話 ラミア
何とか歩き出せた王子。二人はランタンの灯りを頼りに洞窟の奥へと進んでいく。
すると、視界の端に何か動く物が見えた。
「シッ! 今、何か動かなかったか……?」
「──うわッ?」
細くて白い物に足を引っ掛けて、倒れ込んでしまう。
おまけにランタンを落としてしまい、辺りは闇に包まれた。
「イテテテ……ん? 何だこれ、柔らかい……?」
ふにふにとした食感の物は、妙に生暖かかった。
「道化師、スライムかも知れない! また飲み込まれないように気を付けないと……」
「……あの〜」
「ん?」
ランタンを持ち直し、道化師の顔を確認する。何とも複雑そうな表情を浮かべていた。
「手、どけてもらえますかねぇ?」
「手……?」
手元を照らすと、王子の手が道化師の胸をがっつり掴んでいた。
「あわわッ! す、すまない!」
「いけませんねぇ〜王子、こんな暗闇で女性を襲うなんて……。王様が聞いたらどうなりますかね?」
「! そ、それだけは……」
その瞬間、何かにしゅるりと足を取られる。
あっという間に王子は逆さ吊りになった。
「わッ、わー!」
そう、細くて白い物の正体は、ラミア。上半身が女性で下半身が蛇の魔物だ。
「余の巣で何をしておるのだ?」
白目の無い赤い目がこちらをぎょろりと凝視する。
(──動けない!)
目を合わせてしまった王子は身動き一つ取れなくなってしまった。
足を拘束している尻尾は、しゅるしゅると体にまで巻き付いていく。
「くっ、あッ!」
足、腰、胸と巻き付き、体を圧迫する。真空パックに閉じ込められたような息苦しさ。その尻尾は、段々と首の方へと近付いて行く。
「ほれ、ほれほれほれ」
「なっ、やめ、ろ……! ぐあッ」
ついに首まで巻き付かれ、ぎゅうぎゅうと強く絞め付けられた。
「か……は……ッ」
(だめだ、意識……が……)
その瞬間、ラミアは尻尾を鞭の様にして思い切り叩き、意識を取り戻させる。
「! ッは……!」
「余の巣を荒らした罰じゃ。後悔するが良い!」
首を絞めていた尻尾が緩む。
(や、やっと終わ……)
その瞬間、首に激痛が走った。
「がああ!」
一瞬、王子は何が起こったか理解出来なかったが、どうやら首を噛まれたらしい。
どくり、どくりと音を立てて体液を流し込まれる度に激痛が走る。首から牙が離れ、糸を引く。
「おやおや……王子、ラミアに噛まれたらお仕舞いですよ。1分以内に毒が回って死に至る……」
「うあ、うああ……」
世界が回るような幻覚に襲われ、頭痛、吐き気に見舞われる。噛まれた傷口もズクズクと痛む。王子の顔は真っ青だった。
立つ事も座る事も難しく、どんな姿勢でも楽にはなれなかった。
「どう、けし……たすけ……」
──王子、死亡。
スキル“不死”発動。蘇生。
「ふむ。では、そろそろリョナ経験値も貯まった事ですし……光輝!」
「グアアア!」
ラミアは灰となって散り、消えた。
光の効果で王子の毒も消えたようだった。
「レベル6ですね。おめでとうございます」
王子はしばらくの間黙ったままだった。
「……何でいつもすぐに助けてくれないんだ?」
王子は俯いたまま言う。
「リョナ経験値が貯まれば、レベルが上がりますからね。今レベル6になりました」
「……全然上がらないじゃないか」
「1死亡で1レベルあがりますからねぇ」
王子は急に立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ。
「もう嫌だぞ! こんな旅したくない!」
ランタンも置いて洞窟の奥へと走って行ってしまった。




