第四話 道化師とお風呂
青空に湯気が立ち登り、岩で囲まれた部分に適温のお湯が溜まっている。そう、天然の露天風呂だ。
「アルラウネの蜜の香りは、他の魔物も惹きつけるので危険ですからね。しっかり洗い落としておきましょう」
アルラウネの蜜と道化師の魔法でベトベトの王子。何とも言えない複雑な顔をしている。
「さあ、王子。大人しく脱いでくださいねぇ」
「わっ、馬鹿、自分でできる!」
道化師は一応、王子のお付き。脱衣を手伝うくらいはする。慣れた手付きでボロボロの服をするりと脱がして行く。
「こんな事もあろうかと、お着替えは沢山持って来ております。お風呂上がりはこちらを着てくださいねぇ」
「まるで何かが起きる事前提だな……」
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大きな露天風呂にぽつんと一人。疲労した体が芯から温まる。髪に付いたお湯の雫がより一層王子を美しくしていた。
「はあ〜……色々あって大変だったな」
(スライムにアルラウネ。と、道化師)
スライムには丸呑みされ、アルラウネには触手責めされ、道化師には常に言葉責めされた。
(確かに人外娘達と戯れたい……そう思ったけど。そうじゃないんだ。そうじゃない!)
(それに、道化師は一体何者なんだ?人間……にしては肌が白過ぎるし、耳も尖っている。男か女かも分からな──)
ぱしゃぱしゃと水音を立てて近付いて来たのは、道化師。
「うふふ……お待たせしました〜」
なぜか二股帽子はそのままで、いつも通り真っ黒な目でニタリと笑っていた。どこまでも白い雪のような肌が胸にまで続いており──
(ん? 胸……?)
豊満な胸は柔らかな曲線を描き、ぷかりとお湯に浮かんでいた。
──そう、道化師は女だったのだ。
「お、お、おっぱ、おんな……!?」
普段はぶかぶかしたケープを見に纏っていて胸部は目立たなかった。
悲しい事に、女性の裸体など親しか見た事がなかった王子は、一切免疫が無い。
「お、女がそんな格好で風呂に入るな!」
「おやおや、性差別はまずいですよ」
「こっ、こんな、フェミニストが黙ってないぞ!」
道化師はタオルなど一つも体に纏わせず、お湯に浸かっている。冒険中だから仕方がないのもあるが。
「まあまあまあ、王子もお疲れでしょう。今くらいはゆっくり休んでくださいな」
そう言うと道化師はしなやかな手付きで王子の背中に触れ、マッサージを始めた。肩、背中、腰を優しく、かつ強くぐりぐりと刺激する。……密着しているので、時々豊満な物が当たるが。
(うう、変に意識してしまう……!)
「ここも綺麗にしましょうか?──クスクス」
そう言って触れたのは──耳。耳元で囁きながら、細い指で耳穴に出し入れする。その度にゾワゾワとした物が背中を走り、王子は思わず腰を浮かした。
「え、遠慮しておくッ!」
「クスクス、それは残念」
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用意された服を着せられ、髪もとかされる。美しい王子の完成だ。
「では、お風呂も済ませた事ですし……そろそろ遊んでないで目的地を目指しましょうか」
「あっ、遊んでないッ!」
確かにスライムに襲われたり、ポーションを作るためにスイートフラワーを探したりと、魔王討伐からは脱線していた。
「魔王のいる場所……それは魔界と呼ばれる場所。ほら、ここから丁度見えるあの雲のかかった山です」
そう言って指した指の先には、確かに禍々しい雲を纏った黒い山が見えた。
「あれが、魔界……」
「さあ、行きますよ。世界を救うために犠牲になるのです、王子!」
(さっき意識したのが馬鹿みたいだ……)
二人は再び、魔王討伐への旅へと向かった。




