EP.008[生産職]
カイゼルオーガを討伐して1分ほどたったときだろうか?
〔悪鬼洞〕に転移したときと同じ手順を踏んで、戻ってきた。
――噴水広場に。
突然現れた俺たちに、視線が集まる。
(ん? 死に戻りか?)
(死に戻りの復活場所は教会だろ)
(じゃあなんで?)
(ていうか、初期装備から変わってない?)
小声で様々な推測が聞こえてくる。
カイゼルオーガからドロップした装備をすぐに装備してしまったのは失敗だったか。
ちなみに、カイゼル・コンビネゾンは、Body・Legの2部位を埋める装備だった。
赤を基調にし、白いアクセントが所々にちりばめられている。
一般的なコンビネゾンとは違い、ショートパンツになっているのが特徴的だろうか。
現状、装備はこうなっている。
[Weapons]_______________________[×]
[Main-Weapon]
┗ノービス・ライフル
[Sub-Weapon]
┗フレア・デモニオ
[Head]
┗
[Body]
┗カイゼル・コンビネゾン
[Arm]
┗
[Leg]
┗カイゼル・コンビネゾン
[Foot]
┗ノービス・ガンナーズ・ブーツ
[Accessory]
┣器用の指輪
┣
┣
┣
┗
_____________________[Expedition Online]
『ヘイズル、どうすんだ?』
『ここまで来たら、どうしようもないだろ』
『そうであるな』
内心ため息を吐きながら、ニコリと笑ってこっちを見てる人たちに手を振る。
そのうち何人かが、照れて視線を外した。
どうだ、1週間かけてキャラクリしたこの子は。
『あー、ヘイズルー。私、今日朝勤だったからもう落ちなきゃだー』
『すみません、私も今日は学校ありますので……』
アリエルとフラックスが申し訳なさそうに手をあげる。
いや、アリエルは全然申し訳なさそうじゃないな。
『そうか……じゃあパーティ解散しとくわ』
『ちょちょちょ、俺の装備は!?』
ジークが慌てながら突っかかってくる。
『〔悪鬼洞〕は、また今度な。もう少しレベルあげてからにしようぜ』
匿名掲示板を見た限りでは、そろそろ生産始まっていても良い頃合いだろう。
それらを買い込んで、できれば装備も充実させてから挑まないと今回のように綱渡りになってしまうだろう。
『あぁ、お前らの装備が恨めしいぜ』
『別のところで運が回ってくるさ』
『ちぇー』
口を尖らせながらジークが、ぶつぶつと文句を言っている。
まぁ、無視していいだろう。
『今日、またインできる時間は?』
そう問いかけると、みんな各自の最速でのイン時間を教えてくれる。
そして、全員集まれる時間をすり合わせると……。
『じゃあ午後7時にここで、飯はとってくるように。あ、フラックスはどうする?』
『できればご一緒させてもらいたいです』
『了解っと』
バッファーは、かなり重要だから足並みを揃えられるなら揃えたい。
今度、ギルドに誘ってみようか?
『んじゃ、そう言う事でかいさーん』
『乙~』の合唱の中、メニューを操作してパーティを解散する。
各自、思い思いの行動に移る。落ちたり、レベル上げに向かったり様々だ。
後頭部を掻きながら、どうするか考える。
現実時間で5時を回ったところだ。
うーん、あまり情報が出回ってない東を探索してみるか。
運が良ければレッドオーガのような奴と会えるかもしれないし。
背伸びをしながら、移動を開始する。
朝だからか、あまり人は居ないなぁ。と周囲を見渡しながら思う。
初期装備で談笑している男女。
狩りを終えてきたのか、ニコニコしながら歩いてくる女性。
インしたばかりなのか、建物をペタペタと触りながら驚きの声をあげている男性。
風呂敷を広げ、ポーションなどを並べている男性。
歌いながら踊って、人を侍らせている女性。
……?
風呂敷を広げ、ポーションなどを並べている男性?
予定変更、東に行くのなし。
この生産職であろう男性に声をかける。
「はじめまして、ポーションですか?」
「おう、そうだぞ」
顎髭を生やした、禿頭の男性が座り込みながらニコリと笑う。
髪型自由なのにハg……禿頭なのは珍しいな。
「そんなにハゲが珍しいか?」
「気に障ったらすみません、でも珍しいですよね」
ニヤニヤしながら心を読んできた男性と、どう言いつくろうかと慌てる俺。
かなり珍妙な光景になっているだろう。
「慌てなくていいぞ、キャラネームも『ハー・ゲー』だ」
堪えきれずに噴き出す。
腹を抱えて前のめりになる。
「そこまで笑ってもらえるとうれしいねぇ」
「あはは……すみません、つい」
ネトゲでは、ネタ的なキャラネームにする人は結構多い。
だけど、VRMMOでそれをやられると、なかなかにクる。
「それで、ポーション買うんか?」
「そうですね……ひとついくらですか?」
聞きながら、メニューを開き所持金を確認する。
62,298Money持っていた。
「それがなぁ、NPCショップも無いだろ? だから値段どうするかなぁって悩んでいる訳だ」
「あー……」
そういう弊害もあるわけか。
なかなかに、うまくいかないものだ。
「じゃあ素材と交換っていうのはどうですか?」
そう、声をかける。
北の森でレベル上げをしたときにドロップした素材や、〔悪鬼洞〕でドロップした素材などがインベントリに封印してある。
「とりあえずは、そうするか……何がある?」
「ちょっと待ってくださいね、読み上げますので」
インベントリを開き、ソートして上から順番に言う。
・オーガの角×3
・オーガのうろこ×2
・ジャイアントアントの触覚×4
・ジャイアントアントの甲殻×8
・フォレストウルフの牙×7
・フォレストウルフの皮×10
・レッドオーガの爪×2
「と言ったあたりでしょうか」
「その素材は……あっ、嬢ちゃんwikiに狙撃銃の情報あげてた娘か!」
頭部をぺちんっと叩きながら正解を言うハゲさん。
そう言う行動ずるいんですけど……。
「お恥ずかしながら……」
「道理で初期装備じゃないわけだ」
納得したように頷くハゲさん。
「それでどうしますか?」
「と言っても、何が作れるか分からんからなぁ」
確か、一度入手しないと作成メニューに現れないんだっけ?
匿名掲示板でそういうのを見た覚えがある。
「じゃあ一旦全部1つずつトレードで渡しましょうか? それで必要なものと交換してもらうという形で」
「それでいいなら大歓迎だ」
本当にいいのか? と念を押してくるのを無視してメニューを開く。
トレード画面を開き、周囲のキャラからハゲさんを探す。
[Har・Gee]
……これか。
トレード申請を送るとすぐに承諾されたので、1つずつ送る。
「おし、じゃあメニューを確認するからちょっとまってくれ」
「いいですよ、ちなみにハゲさんは何の生産職を?」
≪Expedition Online≫の生産職は『木工師・鍛冶師・裁縫師』の3つの系統から1つ選び、生産していく……らしい。
ただ、生産職の系統は、あくまでも生産が楽になるだけであり、『木工師』を選んでも、金属剣を作ることは可能なようだ。
ただ、それには炉を作り、鉄を精製して――と現実と同じ手順を踏む必要があるとの事。
『鍛冶師』を選んだ場合はスキルで精製などの、現実では行えない生産活動が可能らしい。
「裁縫師だ」
という事は、フォレストウルフの皮ぐらいだろうか?
あとは……せいぜいうろこ?
「そうだな、フォレストウルフの皮を6枚、レッドオーガの爪を2個とHPポーション10個でどうだ?」
「乗った!」
トレード申請を受諾しながら、言葉を返す。
しかし、レッドオーガの爪か。
フォレストウルフの皮とレッドオーガの爪以外を返してもらいつつ、フォレストウルフの皮5枚とレッドオーガの爪1個を追加で渡す。
ポーション10個もトレードしてもらい、成立だ。
「しかし、レッドオーガの爪なんて何に使うんですか?」
「フレアガントレットっていうArmの素材になるみたいでな」
「なるほど」
Armか、欲しいな。
交渉してみるか……と口を開こうとする。
「売ってやりたいのはやまやまなんだけどな、素材があと1つ足りない」
「何が足りないんですか?」
取ってこられる物だったらとってきて作ってもらおう、と考えながら聞いてみる。
カイゼルオーガの何かじゃなければいいんだが。
「ルボワアリニェの糸っていう……東の雨林に出る蜘蛛の糸が必要でな、1つしか持ってないから狩りに行かなければ」
東か、行ってみようと思ってたしちょうどいいのかもしれん。
少なくともカイゼルオーガよりは楽な相手だろう。
「なら一緒に行きませんか? 東にも行ってみたかったんですよ」
「お、そう言ってもらえるとうれしいな。ちょっとまってろ、店畳むから」
そういって、ハゲさんは手際よくポーションを仕舞い、準備をする。
背中にどでかい……ハサミ?が現れる。
「それは……ハサミですか?」
「おう、これで敵をちょっきん……ってな」
さわやかな笑みながら、なかなかに残酷な内容を語られる。
ちょっきんって……恐ろしいな。
「おし、じゃあ行こうか」
「そうですね、パーティ申請送りますね」
メニューを操作してパーティ申請を送る。
パーティメニューにハゲさんが追加される。
「レベル6なんですか、結構高いですね」
「ポーションをひたすらに作りまくったからなぁ」
裁縫師でもポーションは作れるのだろうか? と聞いてみると、どうやら薬系の量が必要な類の生産はどの生産職でも可能なようだ。
確かに、ポーション不足とかシャレにならないし、序盤は優位すぎるか。
「っていうか、嬢ちゃんレベルは14なんだな……」
飽きれたかのように見下ろしてくる。
ハゲさん立つと190cmぐらいあるから威圧感が半端ない。
「ヘイズルですよ」
「そうか、じゃあヘイちゃんで」
「あと中身男ですので」
あらかじめ言っておく。
かわいいキャラで遊びたいだけで、ネカマプレイやhimechanになる気はないからな。
「わかってるって、あと敬語も使わないでいいぞ」
「あー、じゃあそうする。よろしくハゲさん」
談笑しながら、東の街門に向かって歩き出した。
後でフレンド登録をお願いしよう。
ギルドメンバーは脳筋ばっかりだからな。