EP.007[皇帝悪鬼・後]
――カイゼルオーガの残りHPが1/4を切って行動パターンが変わる。
その手に持っていた、槌を煩わしいと言わんばかりに放り捨てた。
『グルォオオオアアアアアア!』
空気だけではなく、持っている銃すら震えるほどの大音量で叫び、襲い掛かってきた。
これまで、中央から動かなかったカイゼルオーガは一瞬で距離を詰めて、その左腕を振るう。
対象はジーク。
なんとか大剣を体と剛腕の間に刺し込まれたが、5メートルほどノックバックが発生する。
しかし純粋なタンクではないジークのHPは、一撃で6割ほど減った。
「……癒しの力よっ」
慌ててクルーネが治癒魔法をかけるが、4割ほどしか回復しなかった。
もともとHPが7割ほどしかなかったジークに、追加で右腕が迫る。
「空を舞う精霊よ、暴虐の限りを尽くす彼の王の身を、今少しのみ抑えたまえ!」
乗用車程度ならば易々と吹き飛ばしそうな突風が吹き荒む。
その風はカイゼルオーガに直撃し、1メートルほどのノックバックを発生させる。
だが、その1メートルでジークは攻撃の範囲外となり命を繋ぎ止めた。
「<ドロ>ーっ! [♋]! ジークさんへ!」
「……我らを見守りし存在よ、今だけはそのお力で直に守れ!」
HPとVITに補正のかかるバフと、物理耐性が上昇する魔法がジークに掛かる。
そして、追加でクルーネの回復魔法によりHPが全快する。
「さぁて、仕切り直しと行こうじゃないか」
ジークが、ニヤリと牙をちらつかせながら笑う。
それに応えるように俺も笑う。
多少無茶な方が燃えるぜ。
「……回復は任せて」
「おう、殺さないでくれよ」
MPポーションを飲み終えて、口元を拭いながらクルーネが言う。
泣いても笑ってもあと少しだ!
カイゼルオーガの顔面に照準を合わせ、引き金を引く。
「<魔装弾>!」
しかし、その銃弾が頭部に当たることはなかった。
カイゼルオーガが咄嗟に左腕でガードしたのである。
「銃弾に構って右側が、がら空きだぜっ! <龍爪斬>!」
ガードすると共にこちらを向いたカイゼルオーガの死角に潜り、ジークが斬りあげる。
<ベルセルク>を解除している状態ではあるが、着々とダメージを与える。
「朽ちること無き物よ!」
「星言葉は”攻撃性を秘めた理想” 彼の星の銘は” シータ・コロナェ アウストリーネェ”っ!」
「……聖なる力よ、彼の者に罰を」
四方……いや八方からそれぞれの魔法が襲い掛かる。
カイゼルオーガは心底ウザったそうに叫ぶが、攻撃は止まらない。
そして、我慢の限界と言わんばかりに、最も近くに居たジークに腕を振り下ろす。
「さっきみたいには、いかねーぜ?」
完璧に大剣でガードし、ノックバックも発生しない。
HPは3割削られた、と言った所だろうか?
悔し気に呻くカイゼルオーガの右腕を跳ね返し、返す剣で袈裟懸けに斬る。
跳ね返された反動でよろめいたカイゼルオーガの頭が晒される。
その隙を見逃さずに引き金を引く。
「<魔装弾>」
今度は顔面のど真ん中に直撃してくれた。
残り弾数が少ないので<リロード>する。
「ちっ、バフ切れた!」
ジークがカイゼルオーガの横っ腹を切りつけながら、叫ぶ。
体感時間では時間が経ってないように感じるのに、もう切れたのか。
そして、タイミング悪く、ジークがガードに失敗してHPを減らす。
「クルーネさん、私が回復するのでバフをお願いですっ!」
フラックスが叫びながら、詠唱を開始する。
クルーネもすぐに頷き、詠唱する。
占星術で確実にVITが上がるカードが出るとは限らないと考えた上での行動だろう。
俺も、少しでも援護できないかと連射する。
「……我らを見守りし存在よ、今だけはその御力で直に守れ!」
「星言葉は“友達を大切にする論理性” 彼の星の銘は“ハッサーレ”っ!」
カイゼルオーガの追撃がジークに襲い掛かるが、間一髪1割ほどのHPを残して耐えきった。
「癒しの力よっ」
「星言葉は“友達を大切にする論理性” 彼の星の銘は“ハッサーレ”っ!」
すぐさま、7割ほどまでに回復する。
このままではジリ貧だ。
「ヘイズル、麻痺弾でスタンかけて!」
アリエルが叫ぶ。
次に範囲技がきたら、と逡巡するが考えても無駄だと引き金を引く。
「<麻痺弾>」
猛攻を続けていたカイゼルオーガが動きを止める。
その瞬間に、ジークのHPが全快する。
「<ドロー>っ! [♎]……ヘイズルさんっ!」
カードの内容を瞬時に把握して俺にバフが掛かる。
弾のブレが抑えられて牽制程度に、ばら撒いていた銃弾が頭部に当たるようになった。
「空間に漂う水よ、其に冷酷なる心を与え、今、我の敵に裁きを!」
無数の氷塊が生まれ、回転しながらカイゼルオーガのHPを削る。
必死に振り払おうと腕を振り回すが、氷塊がいくつか壊れただけで、意味をなさない。
カイゼルオーガ Lv20
[ ]
[ ]
[ ]
[■■■ ]
ついに、残り8%程度になった。
押し切ってしまおう、そう思い照準を合わせた瞬間、信じられない事が起きた。
カイゼルオーガが、右手で自らの鎧を破壊したのだ。
地に落ち、土埃を立てる鎧だった物。
「なんだ……?」
そうつぶやいた瞬間、カイゼルオーガの姿が掻き消えた。
ドン、と低い音が背後からする。
恐る恐る、その方向を見ると、クルーネが壁に叩きつけられていた。
――HPを全損させて。
「んなっ」
照準を合わせる隙も無く、腰だめで弾を放つ。
しかし、それらは1発も当たることなく避けられた。
そして次の瞬間には俺の目の前に奴が居た。
VR技術により、リアルな存在感で目の前にいるそれの圧力に足がすくみ動かない。
スローモーションを見ているかのように、遅々と腕が迫ってくる。
このまま、直撃するとHP無くなるだろうなぁとぼんやりと考えてしまった。
だが、衝撃は微かなものだった。
トンッと押されたかのような感触。
そう、押されたのだった。
アリエルが俺を押して範囲外に押し出すと同時に、カイゼルオーガの攻撃により戦闘不能になる。
「はー、ここまで来てメンバー半分かよ」
ジークが軽く呻くが、その表情には余裕がない。
この一瞬で、2人倒された。
それはとても笑えるような状況ではなかった。
だけど、ジークは直後に笑い出した。
「アッハッハ、いやー……楽しいわ」
「楽しい……?」
思わず耳を疑い聞き返す。
先ほどまで余裕のない表情をしていた者とは思えない、柔らかい笑みを浮かべながら返事を返す。
「だってそうだろう? 前のゲームで俺たちが苦戦するような事なんて滅多になかったからさ、新鮮でよぅ」
驚愕するとともに、納得もした。
そうだよな。
めいっぱい楽しむとするか。
「フラックスちゃん、バフ頂戴……できればSTRとAGI上がるやつ」
ジークがSPポーションを飲み干してそう言う。
バフ頂戴って、狙って出るようなものでもないだろうに。
「獅子座ですか? 出るかはわかりませんが……<ドロー>っ! [♌]……あっ」
「運命力ってやつだな! ありがたく貰うぜ……<ベルセルク>!」
フラックスの驚異的なまでの運の良さにより、思い通りのバフが付く。
……ってSTRとAGIかよ!
VITにしておけって!
しかも<ベルセルク>まで使いやがって!
「ヘイズルよ、この言葉を知ってるか? 『攻撃は最大の防御』」
「ばっかじゃねぇの!?」
そう返したときには既に、カイゼルオーガの目の前に移動していた。
カイゼルオーガが目障りだと言わんばかりに腕を振るい叩き潰す。
終わった。そう思った。
「背中ががら空きだぜ? <龍爪斬>」
そう言って、真後ろに移動していたジークが斬りつけた。
カイゼルオーガよりも早く動いたという事である。
そして、予想よりも大きくカイゼルオーガのHPを減らした。
「鎧外しちまったから耐久力でも落ちたか?」
残虐な笑みを浮かべながらカイゼルオーガを翻弄している。
翻弄……いや、圧倒していた。
「俺らも負けていられないな?」
「そうですね」
ジークにだけ良い格好はさせられない、と2人で頷き攻撃を再開した。
相手をしていられない、と言わんばかりにジークから離れて俺の目の前にカイゼルオーガが現れた。
しかし、先ほどとは違い威圧感を感じない。
「こんなに近けりゃ狙う必要もないな? <魔装弾>」
フレア・デモニオの長い銃身を、カイゼルオーガの鼻っ面に一直線になるように構えて照準を覗き込まずに銃弾を発射する。
反動と共に、カイゼルオーガの頭部に銃弾が直撃して、HPを削る。
しかし、憤怒を湛えた表情でカイゼルオーガは腕を振るってくる。
流石に避けれないな、と思う。
「星言葉は”ナチュラルな穏やかさ” 彼の星の銘は”ベータ・インディ”っ!」
フラックスの詠唱により、1秒カイゼルオーガの動きが止まった。
アイコンタクトでお礼を言いながら、バックステップで距離をとる。
直後、カイゼルオーガが再び動き出し既に誰もいない空間を殴った。
その行動が隙だらけで、思わずもう1発銃弾をお見舞いしてあげる。
発射音と共に、HPをさらに減らし風前の灯火といった状態になる。
「逃げないで俺とも遊んでくれよ」
頭部を撃ち抜かれたカイゼルオーガの真後ろに“狂戦士”が立っていた。
それから数十秒もしないうちに、カイゼルオーガのHPは尽きた。
長かった。1時間以上戦っていた気がする。
肩の力を抜いて、その場にへたり込む。
「お疲れさまである!」
どうやら、戦闘が終了すると自動的に復活するようで、ノワール、クルーネ、アリエルがHPを全快させて戻ってきた。
それと同時に、目の前に画面が現れる。
[Result]_________________________[×]
Congratulations!
【討伐】
┗カイゼルオーガ
【入手】
┣3480EXP
┣12050Money
┗カイゼル・コンビネゾン
_____________________[Expedition Online]
同時にレベルも上がったようで電子音が鳴り響いた。
終わったぁ……。
数日連続でネットゲームをプレイしてた事もあったが、この戦いは濃すぎた。
「ノワールたちはアイテムとか出たか?」
これで、生き残っていないと出ないとか言われるとかなり困るが……。
その心配の必要はないようで、それぞれドロップしたアイテムを装備しながらブイサインを返してきた。
「ふぅ、よかった」
もう1回はまた今度にしよう、そんなことを考えていると叫び声が聞こえてきた。
「俺だけか!? 俺だけ装備品とか出なかったのか!?」
ジークが情けない顔をしながら慌てふためいていた。
皆、思わず笑ってしまい和やかな空気が流れる。
「笑いごとじゃねぇよ! もう1回だ! もう1回!」




