ロンリー・ガール
突如、渦に呑み込まれてしまった減田透流太とNo1225。
「―――う~ん、何がどうなった…。」
「大丈夫?どうやら、どこかの部屋…のようでが。本…それもこんなに沢山。」
書架にかかる螺旋階段に伸びる影を、カンテラの明かりが照らしだす。
そこはまるで図書館のようにビッシリと本が並んだ部屋。
好奇心に負けた透流太が辺りを物色しだす。
「うわっ!何だ、この本…。おい、コッチ来てみろよ!」
「見ていろよ。この本を触ろうとすると…」
と言って透流太が本を手に取ろうとした瞬間、突然ホログラムディスプレイが展開しました。
「なっ!見ただろ!コレどーなってんだ!?それに、この画面…?」
そこにはこの世界には存在しない、いや正確には“過去に存在した植物”の絵と、その解説が映し出されています。
「あぁ、ホロモニターか。ニューモートには無いのですか?」
まったく驚いていない様子から、No1225の住んでいた写世では珍しくないようだった。
「ん~、なるほど。透流太、これは旧時代の植物図鑑で、現世には存在しない絶滅した植物のようだな」
旧時代に現世、それに絶滅した植物。
聞きなれない言葉が飛び出し困惑する透流太。
「えっ…なんだって?旧時代?それに現世って。いったい何の話をしているんだ?」
無理もありません、今までニューモートで何も知らずに…、いや知ろうとしてはいけない世界で生きてきたのです。
そしてこの後、透流太は知ることになるのです。
この世界の全てと言って良い真実を。
「――お待ちしておりました、あなたが透流太ですね。私が久遠未視です。」
突如、本当に突如何もない所から現れた長い黒髪の清楚な少女。彼女こそ透流太が導かれていた久遠未視なのでした。
(……似ている……が、そんなはずは……)
「あの……ちょっと宜しいか?……あなたはその……」
なにか引っかかるところがある様子のNo1225が割って入る。
「いや、知っている人物に似ていたので。あなたの名は久遠未視と……」
「あら?透流太に付いて来てしまったようですね」
久遠未視が一目見ただけで全てを見透かされてしまいました。しかも色々と事情も知っているような口ぶりで続けます。
「アナタは確か……サニーの従者で八輝星の、音速の響羽・《ソニック・ウイング》でしたわよね。アナタなら一人でも写世の戻れたのではなくて?」
「ちょっ、ちょっと待って欲しい」
(ダメだ、理解が追い付かない…)
「なぜ私の事を…。それにインサニティー隊長の事も知っているようですが……やはりあなたは……」
その言葉に答えるように未視が正体を明かします。
「私の本当の名は”ソフィア・OP・スレイ”。あなたが考えている通り、オリジン四戒です。
この10年間、訳あって身を潜めておりました」
「そんな……いや、そうでしたか。インサニティ隊長はこの事は?」
なかなか話に付いてこれない透流太が重い口を開きます。
「あ~、その、何だ。え~っと、知り合い……って事かな?久遠さんと、1225さんは」
その問いかけにクスっと笑い未視が答える。
「はい、そうですね。……ですが1225って呼び方はちょっと呼びずらいですね。
……では、あなたに新しい名前を授けましょう。その方が透流太も呼びやすいでしょうし。
それにこれから一緒に写世に行くのでしたら、チカラは有るに越したことはありませんからね」
そう言うとNo1225の頭の上に手を広げ言いました。
「―――これより名付けを行います…。音速の響羽、No1225よ。慈悲なる知恵ソフィア・OP・スレイが命じます。アナタに“音之羽寧々(おとのはねね)”の名を与えます。」
次の瞬間、未視の髪色が徐々に紫を帯びた銀色に変わって行きます。
そしてNo1225の身体が蒼白い光に包まれます。
「これ…は…名付けの儀…。では私は名前を……」
名付けとは、その存在を個としての存在を許す行為であり。
そして、その者のチカラの解放を意味する行為であった。
理解は出来ないが、納得するのが最善だと考えた透流太。
「あ~、お取込み中わるいんだけど。え~っと、丸く収まったのかな?
そんで……名前を付けて貰ったのかな?うんうん、名前は大事だよね」
「―――あぁ、突然のことで透流太は理解が追い付かないと思うが。我々、陰は上位存在から名前を授かることで、個と認識される。
そして意識解放とチカラの機能開放キーとなっているのが名付けと言う訳だ」
「では改めまして、透流太。私の母であるミテラケフィの呼びかけに答えて頂いて、本当に感謝します。これからアナタに全てをお話しします」
久遠未視がそう言うと、部屋の内装が一瞬にして変わり、目の前にはテーブルとイス。
そして宙に浮くボールのような、顔のような“何か”が居ます。
「ようこそ、おいで下さいました。わたくしは未視様のサポートロボット、ジョーカーと申します。以後お見知りおきを」
「うおぉっ、サポートロボット!すっげー!浮いてんじゃん!」
宙を浮いているジョーカーに驚きを隠せない透流太。
「そうか、ニューモートにはアンチグラビティはないのか」
「そうですね。透流太、これはアンチグラビティと言って……」
説明しようとする未視の話は、もう透流太の耳には届きません。
「オマエ、どうやって浮いてんだ!?サポートロボットってなんだ?誰が造ったんだ?ジョーカーって名前はアイツが付けたのか?」
質問攻めで困っているジョーカーに未視が助けに入ります。
「透流太、透流太、落ち着いて下さい。
順を追って説明しますので、まずは座ってお茶でも飲んで下さい。
ジョーカー、二人にお茶をお出しして」
そう言われ下がるジョーカーに、とても残念そうな顔をする透流太。
「では今度こそ…改めまして。透流太、私の名前は久遠未視。いえ、ソフィア・OP・スレイと申します。
そしてミテラケフィとは私の母。先ほど名を与えた音之羽寧々(おとのはねね)の住む町“写世”の、さらに上空に存在する神殿“アヴァロン・アーカルケル”に母なるミテラケフィは居ます。
いや、居ると言うよりも、居たと言った方が良いでしょうか」
やっと話をすることができた未視に対して、黙って聞く二人。
「母なるミテラケフィとは現世、つまりこの世界を統治する存在。生体コンピューターなのです。
そしてミテラケフィが居ない、と言ったことの理由。それはおよそ10年前に本体は何者かによって乗っ取られました。そして現在も操られている状態です。」
「では…では陰は。いえ、オリジン四戒は今まで……」
話しを遮る寧々を未視が制します。
「順を追って説明しますね。まずは透流太、アナタを導いたミテラケフィ。
あの声はミテラケフィの本体の8番目のメモリ。母はアナタに託したのです」
「そして私の正体はミテラケフィの四人の子供のうちの一人。
オリジン四戒、《慈悲なる知恵》ソフィア・OP・スレイです。
ですが今は久遠未視と名乗り、姿も変えておりました。
その理由は、ミテラケフィの異変に気付いてしまったが為に命を狙われているからです。
なので、この辺境に時空のはざまを作り出し、身を潜めておりました」
徐々に明らかになってくる事実。そこへ透流太が疑問を投げかけます。
「四戒…って事は、未視さんの他にあと3人いるって事?」
「はい、私の他に兄弟たちが3人。
寧々が所属するシェード・ガントフォースの大隊長のインサニティ・サニー。
ガントフォースの司令塔で防衛部隊隊長、マキナ・クラウベル。
隠密部隊隊長で妹の、ロッテン・みかん。
そこに私を含めた四人が、この現世を統べていました」
「隊長は、インサニティ隊長はその事実を知っているんですか!?
……いえ、そうですよね、知らない……と言う事ですよね。」
一拍おいて寧々の問いかけに答える未視。
「――確かに私からは伝えてはいません。いえ、伝える暇さえ無かったと言った方が良いでしょうか。
ですが異変に気付かない兄弟たちではありません。なにか手を打っているに違いありません」
それは兄弟たちを過大評価しての発言ではなく、裏付けのある確信であった。
「なので、行かなければなりません。写世に、アヴァロン・アーカルケルに。
そして本体のメモリを取り戻さなければなりません」
「そしてもう一つ重要な事を言わなければなりません。
ミテラケフィを乗っ取った張本人、そして私の命を狙う人物。それは…サルモネラ博士です。
彼が10年前にミテラケフィを乗っ取り、そして裏で操り、我らオリジン四戒を裏切った張本人です」
―――サルモネラ博士とは、旧人類の遺伝子を元に復元された人造人間。
そして彼は陰と機械生命体を造った人物であった。
事の始まり、黒幕の正体、話の内容に気圧されて言葉の出ない二人。
一拍おいて透流太が話を戻します。
「とりあえずアンタの目的は分かった。
ちょっと聞きたいことだらけで、何から聞いたら良いのか……。
まず……機械生命体って言ってたけどさ。寧々って機械なのか?生物なのか?」
これまでの行動や言動を見ていると“生きている”としか思えず、とても透流太の知る機械とは違っていた。
その問いの答えを未視がゆっくりと語りだす。
「その問いには私が答えましょう。彼女たちは機械であり生物、半人半機の生命体です。
脳と心臓が機械になり、そこにコピー冥土である陰、とまりシナプス型AIを搭載した、と言ったら分かりやすいですか?」
「半人半機……それに冥土が陰でシナプスがAIで……なるほど……つまり……オレには少しだけ難しい話だな……」
「――ソフィア、いや未視が言った通り、私は半人半機の陰だ。
だが人と同じように食事からエネルギーを摂取するし。思考や言動も人と遜色がない…と思う」
「う~ん、まぁアレだ。これからは寧々って呼べば良いって事だよな!よし、それはバッチリ理解した!
――じゃあ次はオレを呼んだ理由だ。なんでオレだったんだ?
そして呼んだって事は、何かお願いがあるんだろ?」
全てを理解しないまでも、目の前の事実を受け入れ、そして確信を突てくる透流太に驚き、顔を見合わせる未視と寧々。
「はい、透流太を呼んだ理由。それは透流太に適性があったから…と言ったら良いですかね。
ニューモートの住人たちは、サルモネラ博士自身の人体規格“生体アーキタイプ”をベースに造られました。
そして遺伝子の中には旧人類の残した科学遺産である洸杜が備わっています。
ですが洸杜の真のチカラは意図的に封印されています。
その封印を解くことができた個体が透流太、アナタだったと言う訳です。」
「なるほどな。あの時、封印がなんちゃら~って言ってたんはこの事だったんだな。
で、その洸杜の封印を解いたオレに協力して欲しいと言う訳か」
「えぇ、そう言う事になります。アナタに頼るしか無かった、と言う事です。
お願いです、私と一緒に写世の上に浮かぶ浮遊神殿、アヴァロン・アーカルケルへ同行して下さい。
そして本体からメモリを回収する手伝いをお願いします」
その眼差しは真剣そのもの。一切の曇りのない真っすぐな視線に、少しクラっとしそうになる透流太。
「―――まぁ、オレもこのままじゃ町には帰れないし。
……それにさ、女の子にお願いされて断るバカ居ないってーの♪」
その言葉を聞き口元が緩む寧々。
「透流太…アナタも大概ね。当然、私もご一緒させて頂くわ。それに私も写世に戻らなければならないし。未視、良いわよね?」
その二人の提案に、瞳を潤ませながら答える未視。
「ありがとう、二人とも」
*****
――写世に向けて出発の準備をする三人と一体。道中では何があるか分かりませんし、龍の脅威も忘れてはいけません。
ですがここには戦うための物資がありません。
「まぁ、オレには町を出るときに貰った剣が…ってあれ?」
剣を抜いた透流太が目を丸くします。
「お、お、オレの剣、ボロボロになってる…」
「それはそうだろう。アレだけの衝撃で折れない訳がない。それに私の剣も限界だ」
寧々が冷静に指摘します。
先の戦闘でチカラ任せに龍を叩きつけた透流太の剣は見るも無惨に折れていた。
そしてそれは寧々の長剣も同じで、その刀身は単独で相当な数の龍と戦った事を物語っていた。
「仕方ありませんね。ここには武器などありませんし、なるべく龍に見つからないルートで進みましょう」
そう言って必要な物資のみを準備して次元の穴を抜け森へと出た三人。
「さぁ~て、じゃあ出発しますか~。まず、どっちに向かえばイイんだ……って、ん?なんだこの音…だんだん近づいてくる」
それは聞いたことのない奇妙な音、いえ音楽と言った方が良いのか。
その音はだんだんと近づいてきます。そして森の中からとても奇妙な乗り物に乗った人物が現れます。
「いや~皆さん、どうもどうも。まさかこんな所で人間に出くわすとは♪」
とっさに身構える寧々と未視、危機感無く立ち尽くす透流太。
果たしてこの怪しい人物は何者なのか?
―to the Next World―




