予感
空は突然暗くなった。どんよりとした雲が空においかぶさり、きみの悪い風が吹いていた。
「雨が降りそうだな」
柊木は、そう呟いて、車の助手席に乗り込んだ。
「そうですね」
そう答えて、春香は車を滑らかに発進させた。
「君は、車の運転だけは、上手いな」
だけ、とは?と言いたかったが、春香はその言葉を飲み込んで答える。
「ありがとうございます?」
「なんで、疑問系なんだ?」
「余計な言葉がついていたので、素直に喜べないです」
「うーん、女心はやはり理解不能だな。褒めてるんだから、素直に喜べ」
「褒められてる気がしないです。運転以外はダメダメって事ですか?」
「当たり前じゃないか、自分で自信があるのか?おこがましいやつだな」
彼はチッと舌打ちして、携帯のメッセージを見て今度はため息をついた。
「しつこい女だな。たった一回食事に行っただけなのに。仕事中にメッセージ送ってくるとは」
「なんなんですか?モテ自慢です?嫌なら拒否すればいいじゃないですか?」
「お前、言葉にトゲがあるぞ。そうはいかないんだよ、上司の娘さんだからな」
「あら、エリートも大変なんですね」
「……お前、自分がモテないからって、言葉が棘だらけだぞ」
「今の時代はそういうのは、断れるんじゃないですか?パワハラでしょ?」
「古い組織は、そういう根本が上手く根付かないんだよ。取り敢えず、顔をたてて食事だけしたが。まあ、いざとなったら、その上の人間を動かす事ができるから、過度に勧められたら、あいつパワハラで追い出そうかな」
「こわっ」
「それが世渡り術っていうものだよ。……まあ、君には出来なさそうだが」
「あのっ、ちょいちょい嫌味をまぜるのやめてもらえませんか?」
「嫌味って分かったのか?少し成長したな。皆が君みたいに単純であれば世の中チョロいのにな」
春香はむすっとして、赤信号になったのでブレーキをキュッと強めに踏んだ。
「そうやって、態度に出すところが単純なんだよ。感情で運転に支障がでるのは、刑事としてダメだぞ」
なんとか体幹で、前のめりになるのは避けられた柊木はそう文句を言って、雨が当たりはじめたフロントガラスを見た。
サーと雨が降りはじめた。ザーという音ではなく、ただ静かに降りはじめた雨が何か不気味な感じがして、春香は少し目的地へ行くのが不安になった。
もし、行き先の彼が犯人だったら。相手が武器を所持していたら?
拳銃の所持許可はもらっていない。
いざという時の動きも想定して動かなければと、思いながら、青信号をみて、また滑らかに車を発進させた。




