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2日目 、作戦と別れ

今回の話の一部を主人公視点からヒロイン視点へ数日以内に変更します。




池袋駅前の総合ディスカウントストア。

俺と未来はその屋上にいる。

ストアから出るには下へ行くしかないが、あえて上へ来た。それにはもちろん理由がある。

ストア内のゾンビがかなり多く、狭い空間での戦闘はどうにも不利だと判断したからだ。

それにストアから出られても大通りに溢れるゾンビが多すぎて逃げる道もないのだ。


俺は昨日からある作戦を考えていた。

今からするのは、この世界に出現した歩く死体が映画に出てくるゾンビと同じように《音に反応する》のでは?という仮説を立証するための、ある種の実験。

この実験が上手くいけば大通りのゾンビをストア付近から遠ざけることができる……はずだ。


俺の右手には分厚いタオルにぐるぐる巻きにされた、小学生に持たせるような黄色い防犯ブザー。ストア内に入って時に落ちていた物だ。

本体から安全ピンを引っこ抜くと、けたたましいブザーが鳴り響く。

それを持ったまま屋上を走り、助走した勢いで右手に握っていた防犯ブザーを池袋駅南口方面へと投げた。


緩やかな放物線を描いた防犯ブザーは、ストアから50メートルほど離れた大通りのど真ん中に落下した。アスファルト道路に叩きつけられた衝撃はかなりのものだろう。

しかし何重にも巻いたタオルがクッションになったため、落下後もブザー音は鳴り止まない。

そしてその音に反応したゾンビが一斉にブザーを囲むように集まり始める。


「よし、逃げるぞ!」

「うん!」


ストアの入り口付近にゾンビが居なくなったのを確認した俺は未来から渡された作業用ロープの片方を屋上の設備に固定させる。そしてもう片方を屋上から地上へと放り投げる。


「俺が先に行く。大丈夫なら合図を出すからゆっくり降りてこい」

「分かった」


救助ヘリからラペリング降下するレスキュー隊員の姿勢を真似するようにスルスルと降りる。

着地すると同時に背負っていた、ステンレス製の三徳包丁を先端に付けた物干し竿(さお)を取り出す。

腰ベルトを竿の両端にくっつけた魔改造武器だ。約2メートルの竿におよそ20センチの三徳包丁合わせて全長2.2メートル。

竿というよりも長槍(ちょうそう)に近いイメージとなっている。全長が長くなり安全度が高くなった反面、重くなったが(いた)し方ない。


俺は竿–––、もとい長槍を握り締めて辺りを見渡す。幸いなことにストア入り口や近くの大通りにゾンビらしき姿は無い。

見えるのはブザー周辺に集まったゾンビのみだ。


俺は屋上に異常なしの合図を出す。

荷物を降ろしたあと、未来がゆっくりとロープを握り締めながら降りてくる。


下を見るなよ、とジェスチャーで伝えるが、未来の目にはすでに涙が浮かんでいるようだ。

2分もかけてなんとか着地した未来はロープを外しながら息を整える。

やはり、7階建てのビルから降りるのは怖かったようだ。


さて、これから向かうべきは東北地方だ。


俺たちは池袋駅前の大通りーーー、『明治通り』を北へと歩き始めようとした時、ストア前の曲がり角からスゥとゾンビが出現した。


「チッ!」


俺は舌打ちすると咄嗟とっさに竿を使ってゾンビを転倒させ、トドメを刺そうと鋭い刃を向ける。


しかし、ゾンビのどこか悲しそうな、殺さないで!と訴えるような瞳が俺の動きと止める。


俺の(なか)を様々な感情が渦巻く。額に汗が垂れていく。

竿を握っている手の感覚が遠のく。頭がズキズキと痛み、心臓の鼓動が速くなる。


殺していいのか?人を喰う化け物だとは言え、仮にも人間だったのだ。

こんな事をしていいのか?俺は両手をけがれた血で染める気か?


そんな迷いが滝のように流れ出す。

しかしゾンビが立ち上がろうとするのを見て、途中でその思考を振り払う。


いや―――、もうそんなこと言ってられない。ここは戦場だ。"元"人間だったとしてもゾンビを殺さなければ俺たちが殺される。

もうゾンビは人ではなく化け物だ。未来を守るためだ。そのためなら殺戮、虐殺、略奪何だってしてやる。憲法も法律も最早(もはや)何の意味も()さない。もう誰も守ってくれない。自分を…未来を守れるのは自分自身。


「…殺らなくちゃ殺られる」


俺は意を決して棒を握り締めた。

高く上げたそれを勢いよく振り下ろし――――、



ぐしゃっ


卵を潰すような音のあと、深く貫いた包丁と脳天の隙間からピューッと脳漿(のうしょう)が飛散して、ゾンビはビクンと身体を震わせて動かなくなった。


荒い息をしながら俺は長槍を抜いて、死骸となったゾンビを眺めた。すると、不意に笑いが込み上げてきた。


「ふっ……はは……アハハハハハハッ!」

「たかしくん?」


「人間もゾンビも、こんなにも簡単に死ぬんだって思ったらおかしくってさ・・・・俺は、こんなあっけなく死にたくないし、お前を……未来を失いたくない。怖いよ」

「・・・・・大丈夫だよ、私たちなら生き残れるよ」

「ああ、一緒に生き残ろう」


そう固く誓いあうと、また歩き出した。

ーーーーーーーーーーーー




歩きだしてからおよそ2時間。

京浜東北線が停車する王子駅付近に辿り着いた。

本来なら歩いて1時間で着くが、複数のゾンビと鉢合(はちあ)わせしないように迂回(うかい)したり隠れたり、単体のゾンビであれば脳を破壊するなどしたために倍近い時間がかかった。

小休憩するため、俺と未来は王子駅前の公園で隠れながらドリンクを飲んでいた。


すると何処(どこ)からか複数の呻き声が聞こえた。

その声は何か獲物を追いかけているような……そんな感じがした。


「何か追ってるみたいだな」

「もしかして生存者がいるのかな?」

「・・・・・行ってみるか」


俺たちはそれが聞こえる方向へゆっくりと歩く。


「ねえたかしくん、あそこ!」


突然、未来が小声で(ささや)きながら、ある地点を指差した。

未来が指差した方向の先ーーー、首都高速中央環状線の王子南インターチェンジの近くにある溝田橋交差点上で、中学生らしき男女5名が追ってくる数十体ものゾンビから逃げていた。



男子2人に女子3人……か。


よく見れば男子2人は移動しながら鉄パイプで女子を襲おうとするゾンビを殴り飛ばしている。

だがあのままではジリ貧だろう。ゾンビの数が減るわけでもなく、ただ殴って距離を取ることしか出来ていない。体力だけがただ奪われるだけだ。もう(しばら)く戦闘が続けば1人、また1人とゾンビの餌食(えじき)となるだろう。

俺は『あいつらはもう助からねえよ』と声を出そうとした。しかしそれより一瞬早く、凛とした瞳が俺を見つめる。


「あの子たちを助けに行こう!」


未来の言葉にどんな言葉を返せばいいのか俺は迷った。

学生を助けに向かうことは簡単だが、ゾンビは目測でおよそ50体もいる。

あの学生たちも守らなければならないとなると未来の安全が保証できなくなる。

それだけは避けたい。

しかし見て見ぬふりとか絶対しない性格の未来だ。未来は俺がどう言おうと助けに行こうとするだろう。

ならば未来を1人向かわせて俺だけ逃げるなんてどうしてできようか?


–––んなことできるわけがねえだろ!


「……分かった、行くぞッ!」


疾風のごとく駆け出した俺は学生たちを囲みつつあるーーー、一番手前にいたゾンビへ斬りかかった。


「お…らああっ!」


横薙(よこな)ぎに振った長槍は、俺の雄叫びに反応して振り返ろうしたゾンビの首から先を見事に切り裂いた。

他のゾンビもこちらへ振り向き、襲いかかろうとする。


同時に未来は俺や学生たちがいない方向を目掛けて防犯ブザーを投げる。


ピンを抜かれた防犯ブザーから大音量の威嚇いかく音が鳴り響く。

ゾンビたちは生徒より大きな音を出すブザー探しを優先的に行動するようになり、次第と学生たちから遠ざかっていく。


だがここで未来がやってはいけないーーー、単純で、しかし致命的なミスを犯した。


「今のうちに逃げて!」

「あっ、馬鹿ッ!」


俺が口を開いた時にはすでに遅く、ブザー音にも引けを取らないほどの未来の叫び声で、ブザーへ向かっていたゾンビの半分ほどが反応し、顔を一斉にこちらへ向ける。


未来も自分の失態に気づき、口を(つむ)ぐ。


ーーーマズイ、囲まれたッ!


防犯ブザーに集まりかけたゾンビのおよそ半分とブザーの音で新たに集まってきたゾンビによって東西南北全ての方向からゾンビが集まり出していた。


ーーーーくそッ!


俺と未来はゾンビを倒しながら、なんとか5人組と合流する。


「みんな怪我はない?」


未来がそう言う生徒たちへ話しかけるとサッカー部員らしき雰囲気の男子が答える。


「はい、みんな無事です。助太刀(すけだち)してくれてありがとうございます」

「礼はあとだ!今は逃げることだけに集中しろ!」

「「あっ、はい!」」


逃げるとは言ったものの、ゾンビの数があまりにも多い。


俺はどこかに逃げ込める場所が無いか周囲を見回す。


すると、俺たちが来た方向ーーー、交差点から見て南東に大きな建物がある。


ーーーーあれは確か、【国立印刷局】!

国立の建物なら警備システムとかあるかもしれないし、安全そうな建物はあれくらいしか見当たらない。

幸い、南側のゾンビとはまだ距離がある。今から駆け込めば逃げ切れる。

俺は全員に聞こえるように叫んだ。


「全員、一点突破!あの建物に逃げ込め!」

「「「「「はい!」」」」」


俺と男子生徒の3人はゾンビと戦っていながら、未来を含める女子を護衛する。

それでも全方位をカバーしながらの移動は厳しい。

時折ときおり、男子が防げなかったゾンビを女子生徒が学校用のバッグでゾンビの攻撃を防ぎ、その横から未来が物干し竿で殴るという方法で凌いでいる。


同じく、俺と男子の範囲網の間をすり抜けるように、『欲望まる出しの豚』と言い換えても過言では無いほどの不細工(ブサイク)なゾンビがねばちょっ、とした不潔な口をだらしなく開き、よだれを垂らしながら女子生徒たちへと近づく。


「「「ヒィッ!」」」


未来を含める女子陣全員が顔を引き()らせながら小さな悲鳴をあげる。


ゾンビという死体状態な上に歩くたびにポチャポチャ、と腹周りや二の腕の脂肪を揺らしながら豚人間ーーー、いや豚ゾンビが歩み寄っている光景は、彼女らが自ら刃物で両目を潰したくなるほどの不快さだろう。


流石(さすが)にキモすぎて女子では対処できそうにないという判断を下すと同時に俺は最脅威、攻撃対象を豚へと変更する。


「俺たちをスルーするったぁ、随分と余裕だな!キモいから死ねッ!」


俺はそう叫ぶと同時に豚ゾンビの首を豪快に()ねる。

同時にズブリという直接攻撃特有の嫌な感触が、槍の切っ先からそれを握る手に振動となって伝わってくる。


……おえっ。


肥満(ブタ)ゾンビの(あぶら)まみれの肉を直接触ってしまったような気分になり、思わず消毒剤が欲しくなった。


そんな思考の直後、少しだが身体(からだ)がフラつきそうになる。


「やべえな……」


俺の体力は誰よりも、予想以上に消耗(しょうもう)していた。先程から戦っている男子もそろそろ限界だろう。

このままでは1人、また1人と殺られてしまう。

だが、なんとか建物の前に来れた。


よし行ける!と思った直後ーーーー、左足に鋭い痛みが走る。


「うがッ!?」

「たかしくん!」


足元に目を向けると、(ひざ)から下が無い一体のゾンビが地を()う様な態勢で俺の左太ももを噛んでいた。


ーーーー噛まれ、た?


そう思った直後、ゾンビは太ももの肉を噛み切った。さらに耐え難い痛みが襲う。


「があああああああっ!!!」

「たかしくん!」


よろけそうになりながら悲鳴をあげる俺をよそに見上げるゾンビは俺の肉をクチャクチャと咀嚼(そしゃく)する。自分の肉を食われるという光景に怖気(おぞけ)が走った。


「く・・・・くっ、クソがあああぁッ!!!!」


俺は堪らず腰に装備していた中華包丁を脳天にぶち込む。「ンギィッ!!」という断末魔と共に白い脳漿(のうしょう)がブチ()けられる。


「くそッ!」


どうやら敵を()ぎ払う事ばかりに集中していて、足元に倒れていたゾンビにトドメを刺すのを忘れていたのだろう。不注意すぎる。


俺は毒づいたあとまた槍を構えたが、どうにもおかしい。

激しい戦闘が続いていたにしても異常に息が荒く、目が(かす)み始めた。


くっそ、毒が体内に侵入したか……。


俺は感じた。自分の身体に死のカウントダウンが始まったことを。


「もういい、全員走れ!」


俺の命令に生徒たちは走ろうとするが、未来は走ろうとしない。俺が何かしようとしているのを感じたのだろう。


「たかし……くん?」

「俺はもう終わりだ。ほら……」


力なくそう言ってズボンの(すそ)(めく)る。

引き千切られた自分の太ももを見せる。

未来の瞳は大きく見開かれ、明らかに動揺する。


「でっ、でも噛まれたからってゾンビになるって決まったわけじゃないよ!」


未来の思考はパニックになっていた。俺がゾンビになるというのが信じられないのだろう。


「いや、もう俺の中で毒が回り始めてる。すぐにゾンビになる。だから……ここでお別れだ」

「いやだよ……たかしくんが居なくなったら、私、これからどうすればいいの?」


今にも泣きそうな表情で俺を見つめる。


「ッ……!」


俺は未来の不意を突くように抱き寄せ、桜色の唇を己の唇で塞いだ。

未来は一瞬驚いたようだが、ゆっくりと目を閉じる。

未来の甘く柔らかく温かい唇の感触が俺の全身を刺激する。

最後くらいーーー、俺のワガママを許してくれるだろ?


もう少し、もう10秒、いや1分ーーー7分でいいからこのままでいたい。


あ、増えてるじゃねえか……。


だが、もうーーーこの時間も終わりだ。

ゾンビが後ろから近づいているからだ。


俺は名残惜(なごりお)しくも密着している唇から離れると、わざと未来を乱暴に突き放す。

未来は階段に尻餅を着いた。


こんなことはしたく無かった。だが未来が俺のあとを追いかけられては困るからだ。

直後に、俺は恐らく最後になるだろう指示を男子へと飛ばした。


「彼女を博物館の中に入れろ!絶対にだ!」


俺の命令を聞き、男子2人は未来の両腕を拘束し、強制的に建物内へと移動させようとする。


それを確認すると目一杯の声量で叫んだ。


「俺は死んでも、心はいつも未来(おまえ)の隣にいる!だから絶対に俺の分も生きろ!早死(はやじ)にしたら許さねえからな!」


俺は身を(ひるがえ)し建物とは道路を挟んで対面側にあるビル側へと走り出した。


「待ってよ!そんな……そんなのズルいよ!たかしくん!たかしくん!」


背後から()けられる未来の叫びに俺の心が壊れそうになる。

俺は彼女を裏切った。


『明日も生きようね』


そう未来は昨日言った。だが、それはもう果たせそうにない。


「……ごめんな」


そう小さく声にした。誰かに謝ったことが無い俺の初めての謝罪。


このままでは数分もしないうちにゾンビになるだろう。ならばと、人間性を保っていられるうちに少しでもゾンビを駆逐するべく、俺はポケットからスマートフォンを取り出す。画面をスクロール&タップ操作すると、最大音量でミュージックが流れ出す。


建物前に迫っていたゾンビや大通りの南側からやって来るゾンビの全てが音の発生源ーーーー、俺を最優先の捕食対象と捉え、こちらに向かってきた。


何してるのーーーー!?


遠くから見つめる未来の目が言っている。


ーーーああ、馬鹿なのは分かってる。でもこうするしかねえだろ。

少しでもゾンビを遠ざけるためなのだから。


そこで未来や生徒たちは悟った。自分たちからゾンビを遠ざけるために俺が犠牲(おとり)になろうとしていることを。


「い…や、いやっ、いやあああっ!離してッ!たかしくん……たかしくん!」


未来は男子の腕を振りほどいて駆けつけようとする。

だが俺の思いを無駄にしないために男子は未来を精一杯の力で押さえる。女子は俺が犠牲になることに涙していた。


しかし、ゾンビがその光景を見ることすら奪うかのように前に立ちふさがる。


最期さいごくらい満足のいく死に方させろよ!

俺の怒りが(つぶ)されたトマトのごとく盛大に弾けた。


「う…おおおおおッ!」


俺は1体でも多く地獄へ道連れにするべく、鬼神のごとく最期(さいご)の力を振り絞る。

ゾンビの首を()ね、頭を切り刻みスライムのような脳漿(のうしょう)を飛散させ、足首から黒い血を噴出させる。

赤黒い血飛沫(ちしぶき)が自分の顔に、服に、皮膚にかかるのもお構いなしに長槍を振り回す。

だが、決死の猛攻を嘲笑(あざわら)うかのようにゾンビが引っ切り無しに襲いかかる。

やがて腕、足、脇腹と次々と噛まれていく。


(えぐ)られていく歯型のついた形の崩れていく俺の生身(なまみ)と長槍の重さが徐々に体力を消耗させる。慣れない闘いで両腕は筋肉痛になり、もうまともに振ることはできない。


だが(あきら)めの悪い俺は長槍を捨てゾンビたちをスルリと(かわ)し、ゾンビのうなじに噛みつき、(あご)にありったけの力を込めて噛み切った。


ジャイアンシチューをも凌駕(りょうが)しているのではないかと思うほどの、リアルで気絶したほうが幸せと思える不味(まず)さのゾンビの肉やドロドロの血液を飲み込んでしまったが、もうどうでもいい。どうせ死ぬのだから。


噛まれたら噛み返すを繰り返すが、次第に噛み切るテンポも遅くなる。しかしそれでも10体以上は仕留めた。一緒に地獄へ落ちてもらおう。


ははっ、ボロボロだぜ……。


全身が血塗(ちまみ)れになり、ぽっかりと穴が開いた脇腹からは大腸や肝臓と真っ赤な血がドクドク垂れ流れて、一向に止まらない。しかし幸いなことに毒のせいか、あるいはもう感覚がおかしくなっているせいか千切(ちぎ)られた部位が痛くない。


だが代わりに薬物ドラッグの禁断症状ではと思うような震えが始まり、よろよろとビルの壁面に背中から寄りかかる。


噛まれてからの時間が()つにつれて身体(からだ)の震えが激しくなっている。

だがこれは死の恐怖によるものではない。


……寒い。どうしようもなく寒い。

南極に全裸で放り出されたかのような痛さ。足から頭へとその寒さが遡上(そじょう)するようで全身の感覚が一気に遠ざかる。たまらず眠りそうになった直後ーーー、異変が起きた。


「がっ…あああああああっ!」


突然、全身の神経をぶち壊される感覚が襲い、俺の体がAEDの電気ショックを喰らったかのようにビクリと跳ねる。

あまりの激痛に両手で頭を抱え、地面にガクリと膝をつく。


息が浅くなり、指先が震えてコントロールできない。頭痛なんて生易(なまやさ)しいレベルじゃない、頭をカチ割るような巨大すぎる痛み。

脳内が無理矢理侵食されているような感覚が吐き気を出させる。


ーーーど、どうなっている?いや、なんとなく予想はできる。


恐らくウイルスが脳を乗っ取とろうとしているのだろう。


激痛のせいか脳内からドーパミンが大量放出されているのだろう。目の前に広がる光景がスローモーションのような早さで動く。


ゾンビ。ゾンビ。ゾンビ。アリの逃げ場もない程に埋め尽くすゾンビの群れが迫っている。

それと俺の距離はもう3メートル無い。

本当はゾンビとして蘇らないために、自分の首を腰にある中華包丁で切断するつもりだったが、体がもうロクに動いてくれない。このまま食われてゾンビになるのか……。


神とやらは俺に慈悲はくれないらしい。


いくら痛覚が飛んじまってるとはいえ……生きたまま食われるーーー文字通りの生殺しは勘弁願いtaiネ。


ーーーあ、やべえな…モu思考さエうまくで気ねえ。

もうハヤくぞんbiにし手くれ……。



もう思考が死ぬ直前、ゾンビの群れの隙間からチラッとゾンビの群れの反対側が見える。

なんかの建物の……閉められていく扉の中で女の子が必死に誰かの名前を呼びながら、男子生徒に強引に押さえつけられている。

俺にとって大切な女性。女子高生。彼女。


大切なはずのあの人は…………




……誰だっ…け?



ゾンビの呻き声と、遠くから(かす)かに聞こえる誰かの名を呼ぶ女の子の声、ブザー音の三重奏(トリオ)を、遠のいていく意識を必死に保ちながら聴いていたが、すぐに俺の意識は海の底へと沈むように消滅した。

8話を読んでいただき、ありがとうございます!作者のリッキーです!


今回は通常の3倍の量を一週間で書くことになりました(・・;)こんなに書いたのは久しぶりです。

さて、目玉となった戦闘シーンやお別れのシーン等ございましたが、いかがだったでしょうか?

お別れシーン感動していただけたらと思います。


お別れした貴士……このあとどうなるかは、タイトルを見ていただければ予想できるかと思います。(ようやくですね…長かったなあ(^^;))



さらに、ようやく2人以外の登場人物が登場しました!もう少し登場人物が増えたらキャラクター設定表を別途投稿する予定ですので、そちらの方もご期待ください。




次回はヒロイン・未来視点のストーリーにするつもりです。


投稿は12/19(土)or20(日)を予定しております。予告なしに遅れることがあります。その場合は後書きに情報追加しますのでご確認ください。





ーーー追記ーーー

『なろう』で活動中のゆっこん氏に原案小説の代行執筆を依頼されました。12/25までにプロローグをあげてもらいたいと言うことで、予定を変更してそちらの方を執筆中です。


ゾンビを読んでくださっている皆さん申し訳ありません!ゾンビの方も早めに更新しますのでもうしばらくお待ちください。


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