1日目、絶望とぬくもり
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午後4時
俺と未来は地下1階から7階までの全ての階を回り終えて、現在は5階にあるスタッフルームにいる。
もっと詳しく言えば防犯カメラの映像をリアルタイムで見れる監視室だ。
壁に何十ものモニターが並んでいて、店内の至る所を見ることができる。
店内の各階は俺が作動させた防火シャッターで封鎖されているので各階への行き来はできなくなってしまった。しかしゾンビの侵入を1、2、3階と階段部分のみに抑える事ができた。
未侵入エリアの4階に入ろうとするゾンビがシャッターを叩くなどしている様子がモニターに映っている。
今のところはシャッターを破って侵入……なんてことは無さそうだ。
ふう、とため息をついた俺は未来と共に運んで来た鞄を見る。
「さてと……一回集めた物を整理するぞ」
「うん」
俺と未来はバッグのチャックを開けてパンパンに詰まった数多の品物を1つずつ丁寧に取り出す。
回収の成果は次の通りだ。
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地下1Fでは飲み物と菓子
1Fでは収穫なし
2Fは未来用の下着など
3Fでは雨具、ボストンキャリー、迷彩/黒/ブルーのジャケット
4Fでは歯ブラシ、石鹸、救急キット、三徳・洋包丁、中華包丁、冷凍ナイフ、ペティナイフ、フライパン、アウトドア用LEDライト、滑り止めグリップ作業用手袋、アイスピックみたいな形状のスティング、レンチ、ドライバー、ハンマー、ガムテープ、ツールバッグ
、笛、コンパス、ブルーシート、ロープ、南京錠、ポリエチレン手袋、ウェットティッシュ、タオル、水筒、箸、皿
5Fでは乾電池式充電器、AUX&FMトランスミッター、DC充電器、断線に強いケーブル、LEDランタン、電池、ワイヤーロック
6Fではライター
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と、収穫した物を確認すると未来が手帳に物資の種類と数を逐一書き込んでいく。
「とりあえず、これだけあれば一応は生活できるね」
「ああ。ゾンビが亀みてえに遅いお陰でどうにか集められたな」
「それで……これからどうするの?階段はゾンビでいっぱいだし、逃げられないよ?」
「まあ、いつまでもこんな所で閉じ籠るつもりはさらさらねえよ。策は練っておく」
「私も考えておくね」
「ああ。まあなにせよ、とりあえず今日はここで泊まりだな」
「そう……だよね」
俺の声に返事する未来の声に明るさは無い。それも当然だろう。
ゾンビの勢力範囲は池袋のみでは無い、下手すれば関東全域の可能性だってある
いきなりこんなゲームとか映画でしかあり得なかったデスゲームに巻き込まれてしまったのだ。ショックを受けないわけがない。
おまけに未来は家族と連絡が繋がらない。絶望的な状況で明るくなれというのは無理があるだろう。
まあ、情報収集でもするか……。希望になるようなニュースがあるかもしれないし。
「テレビでも見ようぜ。状況を把握するまで動けないしな」
「うん……」
力なく頷く未来を見て、俺と未来はスタッフルームから出た。
5階の売り場は気味の悪いくらいに静かだ。
この階にいる人間は俺たちだけなのだ。
5階には販売用に電源つけっぱなしのテレビがいくつか置いてある。俺はゾンビにテレビの音を聞かれないようにポケットからイヤホンを取り出し、テレビの側面に差し込む。イヤホンの片方を自分の耳に、もう片方を未来に渡す。
「スイッチつけるぞ」
「うん」
テレビの主電源スイッチを押す。
パッと明るくなった画面には、明るさとは対照的に絶望的な映像が映っていた。
【ゾンビにより東京、横浜、大阪、福岡壊滅!】という字幕。
本来やるはずの番組は当然のことながら中断されており全てのチャンネルが臨時ニュースになっている。
キャスターらが緊迫した様子で原稿を読み上げている。
『ーーー、ではヘリからの中継です。平井さん?』
報道ヘリの中継映像に切り替わる。
『はい、現在私は渋谷駅上空にいます。ご覧ください!』
そういうと上空から見下ろしたーーー、地獄と言うべき渋谷の惨状が映し出される。
ビルや住宅からは黒煙が上がり、時折する建物や車からの爆発。
スクランブル交差点では痛ましい交通事故。その付近には逃げ惑う人間を追いかけ回すゾンビ。
陸上自衛隊の96式装輪装甲車や軽装甲機動車が渋谷駅近くにあるホテルの前でゾンビに向かって機関銃や小銃を連射している。
避難所になっているのであろう学院と思わしき施設にはCH-47Jと呼ばれる輸送ヘリが着陸していて子供たちを乗せている。
現場記者が再び状況説明を開始する。
『現在、ご覧の通り渋谷のみならず全国でこのような状態となっています。政府は皇居を解放し、避難住民を受け入れています。また国会、内閣では緊急集会などが開かれ、ゾンビの出現を正式に認め、自衛隊全隊の出動を命じました。またゾンビを排除するための法律【感染テロ特別措置法】と【緊急法案即時適応法】を可決させ、ゾンビへの兵器使用を許可させました。
現在、陸上自衛隊が地上部隊と戦闘ヘリによるゾンビ掃討。海上自衛隊では護衛艦の避難住民の輸送・収容。護衛艦内に臨時政府の設置準備。航空自衛隊では偵察機による各地域の情報収集を行っています。
また各自衛隊の救難隊、輸送隊による人員輸送も開始されている模様です。
現場からは以上でーーーーー』
と不意に記者の声が一瞬止まったが、すぐに何かに恐怖したかのような叫び声をあげた。
『いっ、今……ホテル前の自衛隊が…ゾンビに破られました!』
そう記者が告げると同時にヘリからのカメラがホテルへ向けられる。
数千といるゾンビがバリケードを突き破り、半狂乱と化した自衛隊員に次々と襲いかかり、1人、また1人と血飛沫を上げながら死んでいくのが小さく見えた。
モザイクのかからない生中継であるために、信じたくない映像が現実に起こっていると認識させられる。
そしてバリケード破壊から2分もかからないうちに自衛隊はの発砲は止み、ホテル前は上空から見ると、まるで赤い華を描いた絵画のように真っ赤に染まっていた。
自衛隊が守っていたホテルには恐らく大勢の避難者がいるのだろう。しかし、ゾンビはホテル内へと既に侵入しており、彼らも数時間もしなうちに喰われ死ぬかゾンビとなる運命だ。
しばらくすると上空からの中継から報道スタジオへと映像が切り替わる。
キャスターたちもその映像を見ていたようで言葉を失っていた。
だがカメラがまわっている事を思い出し、再び原稿を読み始める。
『現在、感染者は爆発的に増えており、推定では東京だけでも35万人に昇ると見られています。ではーーー、ここで元陸上自衛隊員で中央特殊武器防護隊の隊長を5年間勤めていらっしゃった脇本さんにお伺いしたいと思います。脇本さん、今回の感染者について何か分かっていることはあるのでしょうか』
するとカメラがキャスターからゲストへと移る。
『感染は感染者の血液・毒が体内侵入によって起こります。噛まれたり、喰われたら感染はほぼ100%と考えたほうがいいでしょう。
ただ唾液が体内に入る、血液・毒が皮膚に付着しただけ、ゾンビに引っ掻かれた程度では感染者になることはありません。
もし感染者を発見した、感染してしまった人間発見した場合は速やかに排除しなければなりません。
排除の方法は首の切断あるいは脳の破壊です。
ゾンビは驚異的な細胞再生能力があるので心臓を貫いたり、身体を切断する程度ではゾンビは活動停止しません。
さらに先ほどの映像でお判り頂けたと思いますが、ゾンビ1体なら全く脅威ではありません。
ですが、ゾンビの大軍に襲われれば勝ち目はありません。何せただ喰う事にしか興味がなく、痛みも怖さも感じないほぼ不死身の化け物なのですから。
これはどんな国の軍隊よりも恐ろしい死の軍隊ですよ。今こそ、宗教・性別・年齢・人種・階級・国や地域を超えた人類の協力が生存への糸口だと私は思います。』
俺はテレビをブツンと消した。
何も良い情報はなかった。それどころか逆に希望を奪われたような気分にされた。
俺たちはしばらく黙ったままだったが、未来のお腹がグ〜と鳴ったのを聞いてしまった。
恥ずかしそうに顔を赤くする未来に、俺はバッグに詰めてあった焼きそばパンを渡して俺もパンを食べ始めた。
「ねえ、たかしくん……」
「どうした?」
「私たち死なないよね?」
「大丈夫だ。俺は未来を守る……絶対に死なせないから心配すんな」
そう言いながら俺は未来を抱き寄せた。
未来は少し顔を赤くしながらも俺の肩に頭をつける。
「たかしくんって、口とか性格とか悪いけどツライときは優しくしてくれるよね」
「悪かったな、普段から優しくなくてよ」
少し拗ねた俺を見て未来はクスッと微笑む。
「でも今はその優しさがすごく嬉しいよ。不安を取り除いてくれるから」
「そうか……」
再びの静寂。ゾンビが来ないように部屋の明かりを消して、LEDランタンのみしか点けていないために暗さが静かさと死への恐怖感を強調させる。
時間を見るともう午後8時を過ぎていた。
「ちょっと早いけど寝るか」
「そうだね……エアベッド持ってきておいて良かったね」
「ああ」
今日はここで寝ることになるだろうと思って4Fにあったエアベッドを2つ持ってきておいたのだ。
エアベッドを広げ、電動ポンプの電源を入れると圧縮された空気が一気にベッドの中に送られ、あっという間パンパンに膨れ上がり完成した。
さて寝ようかとしたとき、未来が俺のシャツの裾を掴んだ。
「ねえ、怖いから一緒に寝ちゃダメ?」
「え……」
俺は驚いた。いくら非常事態とはいえ男女が密接して寝るというのはあまり良くない。俺の心臓的に。
だが、今は夏だというのに未来の手は震えているのに気づいた。
いつゾンビに襲われるか分からないから不安なのだ。
非常事態だからこそ……か。
「分かった。一緒に寝るか」
「うん!」
俺と未来はベッドに寝転がった。
暗い天井を見つめていると未来が声をかけた。
「ねえ……たかしくん。手……握って」
「ああ」
俺は未来の手をそっと握る。
未来は俺の手のぬくもりを感じるように両手で俺の右手を包み込む。
「明日も一緒に生きようね」
「ああ」
そう言うと未来は目を閉じ、すぐにスースーと寝息を立て始めた。
6話を読んでいただき、ありがとうございます。
さて今回はTVと寝るまでの話とさせていただきました。
作中に《5階のスタッフルーム》書いていますが、池袋のドン・キ◯ーテの5階にスタッフルールがあるかどうかは分からないため、そこのみフィクションです。
なお、貴士と未来が集めた商品は全てドン・キ◯ーテで実際に売られています。
次回は12/6までに投稿します!予告なしに遅れることがあります。その場合は後書きに情報追加します。
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