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6日目、忍び寄る影

お待たせ致しました。

また1ヶ月もの経っての投稿。もう少しペースを上げないとな…と思っております。

 大都会のホテルに泊まる———。その機会がそれほど多くない者にとっては、誰しもがうらやましがるだろう。人工の灯りで浮かび上がる高層建築物が林立する景色を見ながら食事や睡眠をとれるのだから。

 だが、今の世界には色とりどりの照明で飾られた夜景も、乗り物が絶え間なくホタルのように輝く姿も無い。

 見えるのはただ月明りでぼんやりと見える歩く屍のみの———それを除けば時間の停止したような世界が広がる。

 そんな景色を横目に無線機を右手に持ち、静かに声を発する。


 「よし……作戦開始」


 それと同時に、非常階段の扉が開き、廊下を4つの影が走り出す。

 それらは壁に囲まれたエレベーターホールを抜けて、左側は大きな窓、右は数多の閉ざされた扉と焦げ茶色一色の壁に囲まれた通路に躍り出る。

 窓から差し込む穏やかな月光に、幽霊のごとく滑らかに動く影は暴かれる。

 手に様々な武器を持ちながら機敏に動き、しかし大人と呼ぶにはまだまだ遠い少年少女たちだ。

 その先頭を征く中性的な顔つきの少年がコンコン、コンココンと、次から次へと扉を小さく、リズミカルに叩いていく。

 続く3人が遅れを取らずに、それぞれが違う扉に耳を当て、室内から妙な呻き声や物音が聞こえないことを確認し、3人の歩く順番が目まぐるしく変わりながらもそれを繰り返す。


 彼らは足音を殺しながら、しかし早歩きで逃げ場もない狭い一本道を駆けて、安全確保(クリアリング)していく。

 しばらく進み、T字の突き当たりまで来ると、先頭の者がサッと左手を上げる。停止の合図と同時に後ろからぴったりと付いて来た他の者達も瞬時に静止し、両手で構えた拳銃の銃口、あるいは刃先を進行方向に向けて、次の指示を待つ。


 先頭の少年が左手の人差し指と中指をくっつけたまま、その指先を右方向へ振る。

『右へ進め』の合図だ。


 それと同時に1人目は右方向へ銃口を向け、2人目は左方向を向けて、索敵し警戒する。両側の2人がアイコンタクトで通路に何もないことを知らせると、残る2人は飛び出して右方向へと進む。2人目の少女が曲がり終えると、右を見ていた者も少女たちの後を追うように移動を再開。それを確認した左担当の少年が後方へ銃口を向けたまま彼らと同じ方向へ後退りする。

 行進する順番が変わったまま、また1本道をただひたすらに、しかし鋭い視線を絶え間なく動かしながら進む。気を緩めることなく、音を立てないように細心の注意を払いながら、進む。ひとつひとつ着実にゾンビ・人間の不在確認をしながら危険を潰していく。


 そして、とある部屋の目の前で止まる。

 この階の最後の未確認ルームだ。

 両開きの扉の上にある白いプレートには『会議室』という黒い文字。

 この階最大の部屋の扉は宿泊ルームの扉の倍近く大きく、それだけに緊張が走る。

 もし、この部屋の中に大量のゾンビあるいは友好的でない人間がいたら———、それを考えただけでそれらに当たった経験のない彼らは心の中が恐怖の嵐で吹き荒れる。

 だが、それを放置したことにより脅威が肥大化して、あとで自分らに襲いかかる可能性もゼロではないのだ。進まないわけには行かない。

 各員武器を構え直すと扉の左右に展開し、静かに待つ。

 ドアノブを回して引っ張ろうとするとガチャガチャと音が鳴るだけ。どうやら扉に鍵がかかっているため 無理やり開ける必要がある、と先頭にいた少年———科岡が判断する。

 数歩下がり、通路の壁際から全力でダッシュして扉を力任せに蹴破る。

 バァン!という豪快な破錠音と共に部屋内に侵入する。勢い余ってバランスを崩すも、転ぶことなく止まると、ふたたび銃を構え直す。


 シンと静まり返り、灯りのない黒で塗りつぶされた空間。緊張を表すかのように、全員の額を冷や汗が流れる。

 数秒すると暗闇にも慣れて、部屋の奥の様子をなんとか把握できるくらいに見えるようになる。

 静かに暗闇が支配するその空間に……幸いゾンビも誰も居なかった。


 全員が安堵の溜息を溢し、扉は開けたまま、ゆっくりと座り込む。

 科岡は携帯式無線機をベルトから外し、手にしたそれに向けて静かに言う。


 「4階エリア、確保完了」


 一瞬遅れて、短いノイズのあとに相手の声が音となってスピーカー部分から発される。


 『こっちも2階エリア確保完了したぞ』


 無線機から聞こえる若い男の声。剣道部の香田だ。

 香田、水島、東城の3人は科岡たちと分かれて地下から安全確認の作業をしており、科岡たちは最上階である10階から3階部分、香田たちは地下、1、2階を担当している。

 つまり、これでホテルの1階から10階までのすべての安全を確認できた。


 「じゃあ、3階の会議室にいるから。こっちで合流しよう」と言いながら科岡は装備を外し、額に残る汗を拭き取る。

 『りょーかい』と香田から返事が返ってくると、科岡があることに気づいた。


 「ところで東城さんは?一緒じゃないの?」


 本来は3人の中で最年長の東城が無線に応答するはずなのだが、どういうわけか香田がそれに応えている。

 しかし、その小さな疑問は、すぐに割って入ってきた声によって消された。


 『俺のことを読んだか~?』と、無線から応答。


 どうやら香田の持つ無線機ではなく、別の無線機からのようだ。


 「どこにいいるんですか?」

 『今は地下の電力室にいる』


 東城からの報告に科岡が首をひねる。

 今の赤羽は停電してるのに、電力室に行ったところで何かできるのか?という疑問が出たからだ。

 しかし、その疑問を口にする前に質問が飛んでくる。


 『今どこにいる?』

 「えっと、3階の会議室です」

 『OK。少し待ってろ』

 「…?」


 居場所を訊いたわけが判らずに、さらに困惑する。

 だが、それは一瞬あとにそれとともに解決した。

 片手の指で数える程度の蛍光灯が灯り、室内が僅かに明るくなったのだ。

 ようやく明るく見えた会議室は白を基調とした壁に囲まれ、天井は木目調の碁盤の目のように小さい四角形が埋め尽くしていた。

 広い空間には白い布で覆われた横長の机をいくつも並べられ、大きな四角形を描いていた。あとは椅子がそれに沿って置かれているだけで、簡素な感じだ。

 机の上に荷物を置き、椅子にそれぞれ腰掛ける。


 休憩を取り始めて数分すると、無事に東城たち残りのメンバーが会議室にたどり着いた。


 「この地区は停電が発生しているが、幸いなことにここのホテルだけはまだ電気が生きているようだ」

 「自家発電ですか?」

 「 ああ。ホテルの地下に災害時用の自家発電装置があった。供給先をいじくれば少数の部屋に電気を回すことくらいできる。 だが、病院といった公的機関と違って、ホテルの自家発電装置じゃ何日も稼働することは無理だ。なのにまだ電気が生きているのは、赤羽周辺ここらへんが停電してから間もないからってのもあるだろうが、そもそも非常灯以外に回せる電力をつくるだけの発電装置があるのは、かなり幸運だ」


 さらに同じ地下室には食料などが備蓄されていたようで、缶詰やらが入ったダンボールを持ってきており、東城はホテルの非常時の対策に深く感心する。

 だがそれゆえに、東城はある1つの疑問を口にする。


 「しかし、なんでこれだけの設備があるのに従業員とか客は逃げっちまったんだろうな?」


 東城たち一行はホテルに到着したとき、フロントのカウンターには一枚の書置きのメモが置かれていているのに気づいた。


 メモには《説得してもダメでした。我々は生き残るために自衛隊がいる埼玉スタジアムに避難します。今メモを見ている方もそちらに避難してください》と書かれており、既にホテルを出発していたようだった。


 「説得ってどういう意味だったんだろうね?」

 「ホテルを出た人達とは別の行動を取った誰かがいたってことだろうけど…」


 未来の疑問に相沢が推理する。


 「普通に考えれば、ホテルに残った人たちって意味だろう。でも俺たちがすべての部屋の扉を叩いても反応は無かったから、その人たちの後に出て行ったんじゃねーの?」


 香田の意見に皆は不思議と納得する。それであれば不思議ではないし、自分たちに都合のいい答えだからだ。


 「まぁそれは後にして、とりあえずゆっくり休みに移動しようぜ」


 東城はおじさん臭く膝に手を当てて、よっこらせと立ち上がる。


 「もう既に、この階の非常階段に近い4つの部屋に電気を回しておいた。今日はそこで休むことにしよう」

 「電気が使えるってことは、シャワーもできるんですか!?」


  シャワーが使える可能性に気づいた女子陣がパッと表情を明るくし、なかでも未来がそれに喰いつく。


 「あぁ、できるはずだ。幸い、屋上には小型の貯水タンクがあるし、ここはオール電化のホテルのようだから湯も出るだろう」

 「「「やったー!」」」


 あの日以来初めてのシャワーに大喜びする女子たち。洗面所などで濡らした冷たいタオルで軽くからだを拭いてはいたが、もう何日も風呂はおろか、温かいシャワーを浴びてすらいないのだ。

 流石に男子たちも匂いなどを気にしており、入浴したい気分でいっぱいだ。


「まぁ取り敢えず移動しようや」


 それぞれが頷くと全員、上機嫌で廊下を抜けていく。

 だが突然、水島は立ち止まると鼻をつまんで、ある一室の扉を指差す。


 「ねえ、なんかここの部屋からなんか変な臭いしない?」

 「え?」


 問題の部屋の扉の隙間に顔を寄せて、スンスンと鼻に意識を集中させる。


 「ほんとだ・・・なんか、腐敗臭のような」


 嫌そうな顔をしながら科岡が反応する。


 「調べる必要がありそうだな」

 「でも…、これ」

 

 東城の判断に水島の表情が厳しくなる。

 宿泊ルームの扉は鍵穴式ではなく、全て電子錠となっているのだ。

 これを解除するにはカードキーを差し込む必要がある。

 もちろんフロントに保管されているのだろうが、それがどこに閉まってあるのかまでは分からない。


 念のため開けられるかどうか、試しにドアノブをガチャガチャと回してみるが、予想通り開かない。

 非常時でも電子錠には電気が通っているようで、細い針金などを使ったピッキングでの侵入はできない。 無理やりこじ開けるかマスターキーをフロントまで取りに行く必要がある。

 一手間増えそうな作業をするか蹴破るかを本気で悩み始めたとき、東城はニヤリと笑う。


 「あるぜ。電子マスターキー」


 そう言って、懐から取り出したMASTER KEYと書かれたブルーのカード。


 「…準備良すぎですよ。というか、あるなら早く言ってくださいよ」

 「こういう時を想定してあらゆる準備はしておくに越した事はないだろ?」

 「そりゃそうですけど」

  

 感心半分呆れ半分の表情で呟く科岡に対し、東城はドヤ顔で返す。

 茶番は後回しにして、マスターキーをゆっくりと差し込むと、ピピッという電子解除音が囁く。

 東城はドアノブを握ると再び自動ロックされないうちに、慎重にかつ素早く扉を開ける。


 その瞬間、腐った生ゴミのようなキツい臭いが鼻を突き、全員が表情を歪ませる。


 「ゆっくりついてこい」


 異様な臭気が一気に押し寄せるも果敢に東城が先頭を歩く。奥の部屋に進むと一層強まるその臭いに、眉間にしわを寄せてながら服の袖で鼻を押さえるも


 「うっ、なんだこの匂い」


 香田が顔をしかめる。

 その部屋から漂う臭気の根源を目で追うと、力なくソファに横たわる影が2つ、3つ。

 ゾンビかと思い、ひっ!!?と片瀬が小さな悲鳴をあげた。


 しかしよく見ると、そこにいたのはゾンビではなかった。


 ベッドとソファに…死体が3体。

 動く気配が無いのでそっと近寄ると、その死体はどれも老人だ。

 銃口や刃先を向けたまま一歩一歩進んでさらに近づく。

 試しに銃口の先端で身体に突ついてみるが、やはり動かない。完全に死んでいるようだ。

 3体のうち2体はベッドで抱き合った状態で冷たく眠っている。老夫婦だろう。

 残りの1体は老夫婦よりも若い女性で、ソファでうずくまるように横たわっていた。

 元々老けているのもあってか、腐敗が始まっている皮膚は、まるで水分が揮発きはつしたミイラのようになっている。

 死因を特定するため、よく観察してみたが、彼らの皮膚にはゾンビに噛まれたような外傷は見当たらない。

 その代わりに周辺を状況を見た彼らの目に留まったのは、テーブルの上に置かれた錠剤の入った瓶。

 開けられたばかりと思わしき瓶の中は既に半分以上がごっそりと消えている。

 表面のラベルには、睡眠薬と表記されている。恐らく医療機関からもらっていたモノだろう。

 つまり…だ。恐らくここで冷たくなっている彼らはゾンビだらけになってしまったこの世界ではもう助かる見込みがないと悟って、自ら死を選んだのだろう。


 それを全員が察したようで、場の空気が一気に重くなる。


 「自分たちから命を捨てるなんて……」

 「でも生きたまま喰われるよりかは、はるかに楽…なんだよね。それに死んだ人間はゾンビにはならないから誰の迷惑にもならないし」

 「それは…そうだけど、私は…」

 「それでも私は、こんなところで抗いもしないで死ぬのは嫌…。まだお父さんとお母さんに会えてない」

 「そうだよなー。確かに噛み千切られる痛さを感じないまま死ぬのは楽だけど、生き残れる可能性を捨てるのはあたしも性に合わないわね。うちの妹も探したいし」


 片瀬が生きたいという本心を吐露すると、その小さな頭を撫でながら相沢も同調する。

 それぞれにやり残したことや、未練がある。それを果たせぬうちに死ぬのはやはり望むところではない。


 「このおじいさんたちどうしますか?」


 科岡はどう対処すればいいか分からず東城に意見を煽る。


 「外で火葬でもしてやりたいところだが、外でやれば煙が出て、誰かに居場所を知られて危険な状況になる可能性も否定できない」

 「そうですか。じゃあ処遇は後で決めるということにして、とりあえず合掌くらいはしておこう」


科岡の提案に全員が同意し、合掌して彼らの安らかな眠りを願う。

最後にベッドの毛布やカーテンで遺体を包み終えると部屋を出て、それぞれの部屋へと向かった。


*******************

 少し、風が強い。


———こんなに夜空は綺麗(きれい)だっただろうか———

 ”あの日”から1番雲の少ない日である今日、静かに驚いた。

 かつて同じ大都会で、漆黒の空を見ていたが、人工の照明がその小さく見える星たちの輝きを白く塗りつぶしていたのだ。

 そして今は幾千の砂金のような星の輝きとほんのり明るい月光が灯り一つ点かない暗い空間を僅かに照らし、聖母の(ぬく)もりのようにほんのり世界を、そしてこの屋上を照らしているのだ。

 そしてその下の———光の当たらない下界とも表現できるような地上を見ていると———


 「見張り、ご苦労様」


 突然の———しかし、いつしか聞き慣れた声に振り返れば、やはり未来が前かがみで立っていた。


 「どう?外の状況は」


 訊きながら未来は俺の隣に立つと、手すりに寄りかかりながら俺と同じように地上を見下ろす。


 「ゾンビが徘徊しているっていう点は…監視開始から変わっていないな」

 「ふ-ん。そっか」


 「あーあ。たかし君が一緒に探してくれてたらもっと早く」


 「ゾンビなんざ、わざわざ探す必要なんかねぇよ。いるかいないかぐらい、集中すれば気配で分かる」

 「え!?じゃあ私たちがホテルの中歩き回る必要なかったってことだよね?」

 

しまった…余計なこと言ったかと思うも遅し、怒ってはいないものの不満そうに頬を膨らませる未来に


 「じゃあ私が後ろから来てたのも分かってた?」

 「いや、分かるのはゾンビの気配だけで、人間はさっぱりだ。お前は…なんとなくなら感じてた」

 「ふーん…私の気配は気付いてくれてたんだ…」

 「あ?なんか言ったか」

 

 ゴニョゴニョと何やら小さく呟く未来に訊き返すと、「へっ?なっ、なんでもないよ!?」とちょっと上がり気味な声でしゃべり、何を誤魔化すためなのか質問を始めてきた。


 「ところで気配ってどれくらいの範囲まで分かるの?」

 「状況によって変わるだろうが、今のところは20メートルから40メートルくらいだな」

 「そっかぁ。便利な能力だね。頼りにしてるよ」

 「俺じゃなくて自分自身を頼りにしろ。…ところでなんか用件があってきたんじゃないのか?」


 俺が張りの無い声で訊くと、未来は思い出したかのように両手を叩く。 


 「あ、そうそう。東城さんから伝言。『いくらゾンビとはいっても俺たちと接する関係なんだから体はちゃんと洗えよ。すぐ入りに行ってこい』って言ってたよ」

 「はぁ…メンどくせぇなぁ。で、お前は見張りの交代ってことか?」

 「うん」

 「……ったよ。んじゃしばらく頼む」

 「はーい、いってらっしゃい」


 ポケットに手を突っ込むと反転し、屋上の階段へと歩き出す。

 なんでゾンビが風呂入んなきゃいけないんだという不満と、わざわざ入りに行く面倒臭さを内心で吐露しながらも、笑顔で見送られれば入らないわけにもいかない。


 「まぁ…、いいか」


 まともな風呂なんて何日ぶりだろうか、と考えながら月光に照らされる屋上を後にした。


—————

 赤羽で最も高いとある高層マンションの屋上。


 「ンー?」


 灰色のフード付きマントを被っている男は、フードの奥から人とは思えぬような瞳で彼らを———、数百メートル先にあるホテルの屋上で一休みしている少年と少女を見つめる。


 「徹底的に駆除したはずだけど、殺り損ねたかななァ?」


 問いかける言葉は誰の耳に届くことなく風に消える。


 「こいつで最後だと思ったんだけど」


 片手でズルズルと引きずってきた死体と化した男の髪の毛を引っ張り

 今いるマンションに立て籠もっていた住民全員を皆殺しにして、これが最後に仕留めた1人だ。


 「それとも市外から来た者かなぁ?それに……」


 わずかに目を細める。

 その2人の中のひとり。少女に話しかけられている少年。彼はその少年からどうしても目を離せないでいた。その不思議な感覚に首を傾げながら刃に付着した赤い液体をベロリと舐める。


 「どうして、こ~んなにも気になるのかなぁ?」


 だが、隅に引っかかるその小さな違和感は後で取り除けばいいと判断し、取りあえず任務を優先させようとそれを後回しにする。


 「まぁ、そんなことはどうでもいい」


 次第にその男はニタァと傍から見れば、その容姿からは想像できないほどのおぞましい笑みを溢し始める。


 「そう。どうあろうと、奴らは……潰さなきゃいけない存在。だからってもいい存在。ふ、ふふ……ふふふふふふふふふ」


 粘りつく笑みから裂けるような三日月の形へと口を歪ませると、男の口は滝のごとく高速で言葉を吐き出す。


 「害虫。寄生虫。咎人。屑。ゴミ。カスと言い換えられる存在である人間を、潰す殺す駆除する爽快感!この最大の喜びの余韻が覚めぬうちに新手が出てきてくれるのもまた、”あの方”がもたらしてくださった恩恵!

 この身に与えられたこの地を、やがてこの世界を残虐残酷非道の限りを尽くして愚か者どもの鮮血で染め、その上をこの足で…。あぁぁっ、想像しただけでゾクゾクする!」


 身震いが止まらずに、その頬は興奮によって紅潮する。

 楽しい!と魂が叫ぶ。同時にまだ殺し足りないと。殺したいと。殺人衝動が火山のマグマのように止まらない。


 「それを果たすための殲滅に参加する者の末席に加えてくださった”あのお方”に報いる機会!そして彼らもまた、この手で”あの方”のために殺ス!楽しいから殺ス!」



 「そう。殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスッ!」

 

 獣のような血走った瞳で見つめ、涎を垂らしながら、狂笑する。

 たっぷり数分間も続いたそれは次第に落ち着き、足元から100メートルほど下にある光景を見つめる。

 己の手中にある、どんな軍隊よりも恐ろしい”モノ”たちがその建物周辺を埋め尽くしていた。

 その数、300はいるであろう。無数の、人の皮を被る怪物たち。

 これから起きるであろう惨状を想像しわらうと、彼らもまた飢えたその~から出すうめく声で応える。


 「さあ、お食事タイムだ。圧倒的数の暴力と、理不尽なチカラをもって愚か者に絶望を!」


 「「「うあ、おぁあああああぁあぁぁぁぁぁぁ」」」


 その声を聴いた彼らは風のようになびく無数の手をばし、とある建物へと———貴士たちが休んでいるホテルへとゆっくり歩きだす。


 化け物たちの動きが遅いため、ホテルへと攻め入るのは数時間後になる。丁度、人間たちが睡眠をとっている時間で、侵入に驚き慌てふためく表情を拝めることだろう。

 そして哀れな人間は次々と捕食されるだろう。

 だが、それをジッと見ているだけというのは彼の性に合わない。既にその最高のシナリオは彼の頭に浮かんでいた。


 「まぁ、美味しいところは独り占めするけど、ね」


 男はそう言うと屋上から飛び降り、高層建造物群の陰に包まれ、風と共に消える。



 夜はまだまだこれからで、その闇は彼らを寝かせない。

皆様、お久しぶりでございます。大橋リッキーです。1ヶ月も更新できなくて申し訳ないです。


ようやく黒幕(?)のようなキャラクターが最後にチラッと出てきました!

これから物語が一気に加速していく予定ですので、ご期待ください。


それから謝辞をば。


えー、皆様のブックマーク等のおかげで今回、総合評価300ポイントを突破しました。こういった皆様の応援が本当に執筆の支えになっております。ありがとうございます。

投稿ペースアップできるように頑張ってまいりますので、これからもご愛読よろしくお願いします。

またブックマークやレビュー、文章・ストーリー評価、またご意見・感想あればそちらも反映して小説の改善等してまいりますので、よろしくお願いします。


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