6日目、長い夜の始まり
5か月も投稿しない…。大問題ですね!大変お待たせしました!ちょっと地味な回ではございますが、最後まで読んでくだされば幸いです。
夕日に照らされた赤羽の街にある、とある店。普段なら営業しているはずの時間なのにシャッターは下ろされていて、辺りが暗くなり始めているのに明かりは1つとしてない。
そして、その店内。
ジャングルのような薄緑色をした壁に囲まれた質素な店内。その壁には無機質で–––鈍く光る黒や銀を纏ったの大小様々な銃がその一面を埋め尽くすように飾られている。
そこにいる俺たちの今の状態を子供が見たら、こう呼ぶだろう。
『かくれんぼ』と。
そこに俺たちはひっそりと息を潜めている。俺たち見つける役は人間ではなく、人肉を引き千切り、飽きもせずに咀嚼する凶暴なゾンビたち。
そして、とても静かな空間に―――しかし突然、異質な音が発生する。
ガツガツと止まることなく動く箸の音と、クチャクチャと男の咀嚼する口の音。音を出しているのはここのミリタリー店を経営している、東城 晃という名の漢。
彼が今、口にしているのは俺たちが赤羽駅の駅ナカで掻っ攫ってきた大事な食料の一部だ。
では何故、今日が初対面の男に貴重なそれを分け与えているかと言うと–––
俺を除く全員の装備をより強いものに換装するために、その売り物を提供してもらいたいと申し出たところ、彼は快く快諾してくれた。
俺たちが持っている食料を分けて欲しいという、ただひとつの見返りを条件に。
俺たちによる話し合いの結果、彼に出されたのは紙パックの野菜ジュースに、賞味期限が1日過ぎたメロンパン、アウトドア用の携帯コンロを使って温めた熱湯を注いだミニインスタントカップ麺。それら全てを合わせても決して量的には多いとは言えない。
しかし俺たちもこれ以上分けてやれないのは理解しているようで、文句ひとつ言わずに目の前に出された–––今となってはご馳走とも言えるそれらを、ただひたすらに食う。
余程の空腹だったのだろう。メロンパンを30秒足らずで食べ終わると熱湯を注いだばかりの麺を食べ始め、箸を握る右手を休めることなく、ときどき野菜ジュースの紙パックを押し潰すように飲んでは麺を口に運び、よく噛まずに飲み込む。
そしてスープを一滴残らず飲み干すと、野菜ジュースを一飲み。ビールのジョッキをテーブルに置くように紙パックの底がコン!と小気味いい音を鳴らす。
「ぷっはー。いやー生き返ったぁ!君たち命の恩人だぜ。本当に助かったよ。いやーありがてぇ」
わずか3分で食べ終わった東城は両手を勢いよく合わせて「ごちそうさん」と言うと、引き締まった腹をポンと満足そうに叩く。
それにしてもまあ–––と前置き、空になったカップの底を見つめながら、心底意外と言わんばかりの表情で低く呟く。
「まさか、駅に食料が残っていたとはなぁ……灯台下暗しとはこのことか」
普段利用している場所だからこそ、ゾンビが多くいるという心理が働いて誰も来なかったのだ、と気づいた東城のボヤきに全員がウンウンと頷く。
「ま、よくよく考えてみれば当たり前か。ゾンビが現れた後に電車乗ろうと考える馬鹿はいないだろうし」
「普段は人が多いところだから、この状況で行く勇気はあたしにも無いなー」
東城の話に乗って、ボーイッシュな性格で明るい茶髪の相沢が両腕を頭の後ろに組みながら呑気そうに答える。
「線路を歩いてきたお前さんたちの判断は賢明だったと思うぜ」
「え、何故ですか?」
「……街中を歩くのはあまりにも危険すぎたからだ」
ロリっ子ツインテールの片瀬が首を傾げながら疑問を口にすると、東城は苦しみに満ちた表情で呟く。そしてあの日から今日まで赤羽では何があったのか、そしてその状況の中で彼がどう過ごし、生き延びてきたのかを全て話し始めた。
あの日、赤羽にゾンビが出現したのは池袋と同じか、少し遅いタイミング。
その日、彼は忙しくなる午後に備えるために、午前中にすぐ近くのコンビニやスーパーで買い置きしておき、店に戻るや常連客に依頼されていたモデルガンの修理に熱中していたとのこと。数十分に及ぶ作業も終盤に入り、ひと休みしようかと思い作業を中断すると、作業中は意識して遮断していたあらゆる視聴覚情報が流れ込み、同時に街の至る所から悲鳴と爆発音が起きているのに気づいたらしい。
その音からして、ただ事ではないのを感じ取った東城は2階に上がって窓から見てみた。
そして店前の道路を見ると、遠くのほうで悲鳴をあげながら逃げる人を追いかけてる集団が小さく見えたそうだ。
最初は内乱か?と最初は思ったらしいが、妙な違和感が脳の底に残る。
2階では建物が邪魔で良く見えないので、何が起きているのか分からないまま、脇の机に置いてあった双眼鏡を手に普段は滅多に行かない屋上へと向かい、両手に握るそれから拡大された街中を見渡した。
彼の眼に映った赤羽は空襲を受けたかのような、血みどろの地獄と化していた。
血塗れの人が叫びながら逃げ惑う人を追いかけてるという異様な光景が何回も見えて、あり得ないことだが”ゾンビが出たんだ”と直感したらしい。
そこから彼の行動は迅速だった。店の入り口のシャッターを遠隔操作式のリモコンによって封鎖し、裏口も自分の手で鍵をかけて、さらに棚で破られないように補強する。
そのあとはライフラインが止まった時のために風呂や洗面台は栓をして、水を目一杯になるまで溜めたりと、対策を立てていったらしい。
「–––ってなわけで、ここで籠城していたってわけ」
しかし、籠城するのにどうしても必要な食料だけは冷蔵庫の中のわずかな食料とあの日買ってきた数品のみと、屋内にある食料はやはり心許なく、どうしても外に出て数日以内に補充する必要があったらしい。
「でも外は危険だったんじゃ?」
「もちろん可能な限り外出は控えたさ。それでも食料は確保しないといけないから、まず最寄りのコンビニに行ってみたよ」
「食料は一昨日の朝で尽きて、コンビニに向かってみたら・・・・・奪い合いが起きてたみたいで、そりゃもう生きた心地がしなかったぜ」
駅周辺にある食料を扱っている店はゾンビによる襲撃……ではなく、人間たちの奪い合いで荒らされていた。
食料…無い。次!…ない。次!…ない!次、次次次次次次!
ありとあらゆるところを東城は駆け回ったらしい。しかし赤羽駅周辺のコンビニ、スーパー、商店街は全滅。
店によっては激しい奪い合いがあったようで、周辺に生々しい血痕の跡があった店や、……鈍器のようなもので身体中をボコボコに殴られて死んだ、首のない青年たちが転がっていた店もあったらしい。
さすがにその話を聞いたときは誰もがゾッとした。
もし俺がゾンビ化していないで、かつ俺たちが線路ではなく、道路を歩いて行っていたら、俺たちの誰かが死ぬ。あるいは全滅していた可能性があるからだ。
東城もその時の光景を思い出してしまったようで、表情が苦しそうに歪む。
しかしそれも仕方のないことだろうと俺は感じた。
太平洋戦争終戦以降、日本では争いやテロと呼べる出来事はほとんど無く、つい数日まで世界でも有数の安全国であったのだ。
そこに突然、血みどろの戦いが始まったのだ。ショックを受けないわけがない。
日本人特有の礼儀正しさと平和主義はどこに消えたんだか…と東城は人間の豹変ぶりに嘆く。しかしそれだけ、今の世界は弱肉強食そのものであることを強く認識し、みんなそれだけ必死なのだ。それも他人を殺すことを躊躇しない程に。
戦場では情け容赦なんて欠片もない。突飛な状況に全員がそれを現実として認めたくないのだ。俺はそれを痛いほど知っているからこそ、今の状況を受け入れられるのだ。
「結局、収穫はゼロで3体のゾンビに散々追いかけられて、1体ずつ殺して―――、いや壊してなんとかここに戻ってきたのさ」
そうため息混じりに話すと、胡座をかいたままお手上げのポーズで続ける。
「それからは食料探しで手一杯。赤羽から出ようと考えられる余裕が無かった。いや、たった一人で出るなんて考えられなかった。……情けないよな、いい歳したオッサンが怖がってるなんて」
声のトーンが落ちていく東城に科岡たちが同情と共感の眼差しを向ける。
「そんなこと…ないですよ。俺たちも一人じゃ、移動するなんて怖くてできませんよ」
「……子供にフォローされっちまったな」
そこで会話はプツリと途切れる。
非現実的すぎた、しかしもはや目を逸らせられない現実を目の前に、自然と全員が閉口し、重い沈黙が空間を支配する。
だが、そんな陰湿な空気を変えるように東城は両手をパンと叩き、明るい声を出す。
「さて、こんな怠い話は終わりにしねえと空気が重くて仕方ねぇよな!俺は飯という希望をもらったし、その対価にお前さんたちにも希望になるものを払わないといけないな。ついてこい」
そう言うと東城はよっこらせと立ち上がり、食事を済ませた工作室からレジカウンターへ向かう。
「あの…本当にいいんですか?本当に武器をもらっても…」
「別にいいさ。俺一人じゃ持ちきれないほどの武器を持ってても、それはただの宝の持ち腐れさ。それなら、俺のようなオッサンよりも希望のある若ぇモンに分け与えたほうがずっといい」
「まずは自分に合った武器選びをしなきゃならねえ。まず君の装備を決めようか」
そう言うと俺に疑問を投げかける。
「お前さんはゾンビだから近接戦闘でも大丈夫だろ?」
「ああ、問題ない」
「なら、お前さんにはマチェットがおすすめだ」
それは近接戦闘用として使われる刃を持つ武器。
「マチェットって?」
「マチェットは中南米発祥の山刀で、スペイン語で『マチェテ』って呼ばれてる」
俺がみらいの疑問に淡々と答えると、不意に東城が感心したような声を出す。
まだ高校生の俺はミニタリーマニアでもなさそうなのにマチェットの本来の名称を知っているのが意外だったようだ。
「そこまで知っているとは流石だな。ゲームとかで知ったのかい?」
「まぁ…そんな感じで」とお茶を濁すが実のところ、それは嘘だ。本当はゲームや本で得た知識ではないのだが、それを今言ったところで何の得もないので黙っておく。
「彼の言う通り、本来の名称はマチェテ。草木を狩ることを主に作られたものが、マチェットは米軍や『スペツナズ』っていうロシアの特殊部隊も使っているらしい。切れ味も中々のものだし、ゾンビ程度の相手なら簡単に切りつけられるはずだ。」
「まぁ、君の武器は一番最後にしておいて、まずは君たちの装備を渡すぞ」
「どこにあるんですか?」
見当たらない武器の場所を訊いた水島に東城は短く一言。
「ここだ」
レジカウンターの中に入り、ニヤリと口端を釣り上げた東城はその後ろの壁を覆っていた布を取り払う。
同時に––––俺も含めた全員の口から、おおっ!というどよめきが漏れた。
カウンターの後ろの壁にはナイフや直刀、小さい斧の全てが透明なプラスチックのカバー越しに露出していて、それらが隙間なく壁一面にずらりと並んでいる。
それも1種類に1個ではなく、同じ種類のものがいくつもいくつも重なっている。
それら全ての数、30はくだらない。これはもうある意味、武器庫と呼ぶべきだろう。
壁の右側は刀身の長い刃物が14個ほど。その大半が直刀や刃が波状に湾曲したマチェットばかりで、他にも斧の形状をしている物や忍者刀も並んでいる。どれも刀身は60センチ以上あり、刃の表面はくすぶった黒色で白く輝く剣とは重厚感が桁違いだ。
対する左半分はサバイバルナイフやはさみなどの比較的刃が短い物が並んでいる。
そのどれもが刃渡り20センチ以上、長いモノだと倍の40〜60センチはある。
街中でこんな物を露出させながら歩いていたら、完全に銃刀法違反だ。
あまりにも凶暴そうな大量の武器に目眩を起こしている片瀬が、その小さな身体をわなわなと身を震わせながら東城に訊く。
「これ・・・・・全部本物なんですか?」
「おうよ、銃と違ってここにあるものは全部本物の武器だ」
当然と言わんばかりの、あっけらんとした態度で東城がドヤ顔で答える。
「すごい……すごいですよ。これだけあればゾンビ相手でも勝てますよ!」
圧倒的数の武器に科岡たちは興奮を隠せずに、武器を食い入るように見つめる。
しかし、東城は冷静に今ある武器の弱点を喜んでいる彼らに突きつける。
「浮かれるな。確かに素手や同じナイフ相手の人間であれば、対等になれる武器だ。だが、どれも刃渡は決して長くないし、近接戦闘に向いたものがほとんどだ。銃を持った人間やゾンビを相手に接近戦でもしてみろ。俺たちは一瞬の隙を突かれて、あの世行きだぞ」
まるで戦場を生き抜いてきた経験がある戦士ような厳しく真剣な視線を向けられ、まだ中学生の彼らの興奮は一気に吹き飛ぶ。
「そ、それは…確かにそうですけど……」
「まあ、それでも無いよりはマシだがな。これだけあるから全員に1、2個ずつ持たせて、予備装備として使えばいい、と俺は考えてる。全員、異論は無いな?」
東城の提案に対して、武器に関してはド素人に近い彼らに意見など言えるわけもなく、全員が頷く。
「よし、これらを予備装備にしたうえで、主装備を決めるぞー」
そう言うと、早速作業を開始しだす。
1人ずつ身長、体格、チームの役割を東城が確認し、店内から掻き集めて山積みになった、ゾンビ相手に使えそうな武器の中から最適な装備候補を東城が挙げていき、そこから未来や科岡たちも交えて1つに絞る。
俺はアドバイス程度でそれをジッと見守る。
あれやこれやと議論をたっぷり30分もかけてようやく全ての装備を選出し終わった。
そしてそれらを装着した彼らが立ち上がり、確認作業が行われる。
未来は鉛玉をゴムで飛ばすスリングショットにサバイバルナイフと、前衛・後衛両方に対応できるバランスタイプ。
科岡は後衛重視で自衛隊89式小銃と、ナイフ。
香田は自衛隊のハンドガンに、剣道部ということもあり店内に飾ってあった日本刀を装備。基本的には前衛担当だ。
相沢は先端にコンボアックスを取り付けた全長10メートルの鎖と投擲に適したタイプのナイフ。
水島は射出威力を高めた————本来なら違法レベルの改造となるが————矢を射出できるクロスボウに、刀身の長いマチェットと前衛・後衛兼任タイプ。
そしてメンバーの中で一番小柄な片瀬は、サバイバルナイフと、店内に展示されていた射出反動が本物の銃より小さく、しかし長距離攻撃が可能な国内メーカー製の電動ガン・スナイパーライフルの《VSR-10》。
ミリタリグッズやモデルガンを売りにしているこの店の中で、最も飛距離が長くゾンビと直接戦わなくてすむものが、片瀬が手にしている、高速で射出するアサルトライフルやスナイパーライフルの電動ガン。サバゲプレイヤーの中でも遠距離狙撃用として重宝される部類だ。
しかし、これには決定的な弱点がある。
それは、射出できるのがBB弾であることだ。
弾速や弾数では電動ガンも捨てたものじゃないが、相手はサバゲプレイヤーではなく、ただでは死なない動く屍。即ちゾンビ。
そんな化け物を相手にプラスチックの丸弾をお見舞いしたところで、痛みを感じない奴らからすればBB弾は雨のようなものだ。
だが、それでも使い道はある。
ゾンビは遠・中距離は主に聴覚と気配を頼りに人間を探している。頭に弾をぶつければ、ある程度、感覚を鈍らせて多少なりの足止めくらいにはなるはずだ。
片瀬の身長が低いこともあって、VSR-10がかなり大きく見える。色々と慣れるには時間がかかりそうだ。
何にせよ、これで1人1個は中・遠距離攻撃可能なアイテムをもてることになった。
もちろん武器以外にリュックサックやブーツ、パッドにチェストリグなども付けたために、一人あたりの総重量は増えたが、その分、戦闘力としては上がっている。
特にゾンビとの近接戦闘を避けたほうがいい未来たちにとってこの収穫は大きい。
選ばれたその装備を全員が仮装着させると、それだけで別人のように強く見える。
俺たち全員の装備を選んだ東城はおよそ100発の弾丸とセットでクレー射撃用の散弾銃、さらに斧状のアックスと、パワータイプの武器を選択。
おまけに自衛隊風の服装で戦闘員そのもの。気合は十分のようだ。
「これで俺たちの装備は決まったな。さて、俺がお前さんに託したい武器は…これだ」
東城は俺から視線を外すと、ずらりと壁に並んだ武器を取り除き始める。壁の表面が顔を覗かせるとそのさらに奥の小さな隠し扉に手をかける。
鍵を差し込み、手に掛けると正方形の形をした一辺80センチほどの鉄製の扉が開く。
東城はその中に封印されていた代物を取り出し、俺の手中へと渡す。
「……これは」
俺の眼下にあるその凶器は反射防止のブラックコーティングが施された黒豹の如く鋭い刃を持つ山刀で、室内の明かりに照らされ、鈍く光る。
「ほれ、持ってみな」
パッケージから取り出されたマチェットを東城から受け取ると、しばらくその刀身を眺め、軽く振り回してみる。
ほんの、ごく軽く振っただけなのにヒュン!ヒュン!と鋭く空気を裂く音が響く。
ザラザラとしたグリップが手にフィットし、まるで自分の腕の延長のような一体感。
久しく心の底に眠っていた闘争本能を呼び起こされたような感覚が全身を駆け巡る。
「……悪くねぇな」
「だろ?俺の旧友に丹精込めて作ってもらった特注品だ。この店の数あるマチェットの中でも最上級の業物だ」
確かに強度・耐久度・攻撃力は他の武器と比べて格上のように感じる。
俺の握るマチェットはゾンビ化によって強化された腕力で軽く感じるが、実際は他のマチェットよりも少しばかり重いらしい。重量のある武器は斬撃や打撃での威力を発揮できるからだろうか。
彼が言う、その特別さを感じた俺は『こいつは良い相棒になりそうだ』と、そんな思いが駆け巡った。
「受け取ってくれるか?」
「……わかった」
結局、俺は彼が大切にしていた特注の一本と市販のマチェットをひとつずつ計2つと投擲用ナイフ5本を装備することにした。
マチェット2本は腰のベルトに着けた鞘に納め、ナイフ4本を上着の裏に入れ、残りの1本は靴下の中に忍ばせておく。
「取り敢えず、これが優秀な武器ってことは分かった。だが、そんなものをなぜ俺に?」
自然かつ当然の疑問を口にすると、東城はユーモアさのある表情を引き締め、語りだす。
「お前さんは人の意思を持った《生きた》ゾンビだ。ゾンビでありながら知性を持ち、人間である彼女たちを守る側にいる。そんな君だからこそ切り開ける道があると思う。人類……なんて言ったら大袈裟だが、お前さんにはそれを守れるだけの能力がある、と思う。俺はその可能性にすべてを賭けてみたい。だから、これを託す」
彼の言ったことは恐らく本心なのだろう。
このゾンビ発生現象がアジア地域規模で起きているなのか、あるいは世界規模で起きているのかは分からない。だがゾンビと人間とのハーフ状態を維持して人間側と意思交換し、ゾンビを相手に戦えるゾンビはかなり貴重な存在だろう。
そして彼は、この俺がこの絶望的状況を変えるカードになると思っている。
「と、それが俺の勝手な願いなわけだが、お前さんはどうしたいんだ?」
東城は俺に問う。ゾンビになった今、俺の存在意義を。何のためにこの能力を手に入れ、彼らと共にいるのか。
…俺は何なのだろうか?何のためにここにいる?そう俺自身に問いかける。
俺はハーフのゾンビになり、今ここにいる意味を、どうするべきなのかを考える。
そして心の内ではじき出した答え。それは…自分への誓いでもある。
この身体は一度死んでいる。そして俺は数奇な運命によって、ゾンビという存在に成り下がって復活を果たした。ならば、その与えられた敗者復活権を生かして、俺を死なせた奴らに勝って、未来が幸せでいられる世界を手に入れなければならない。そのために俺はここにいる。そしてもう————
「俺はもう…二度と負けない」
……いつの間にか無意識に出ていたようだ。しかし、その言葉は彼の問いには十分だったようで、それぞれが俺の言葉に頷く。
「私たちも負けないように頑張らなくちゃね」
「そうだね。生き残って、やり残したこと全部したいし」
水島の言葉に笑って相沢が答える。
「さて、これから君たちはどこに向かうんだい?」
一応の方針が決まった俺たちに東城は今後の予定を訊くと科岡が答える。
「今日はすぐ近くのホテルで1泊するつもりです」
「なるほど、ホテルは個室だから比較安全・・・・・ということか」
「はい」
「俺も同行していいか?」
東城の頼みを聞いた科岡は一瞬俺をチラリと見る。どうやらその判断は俺に任せるようだ。
「…俺たちと行動する、しないはあんたの勝手だ。付いて来たきゃ勝手に来ればいい。もし付いてくるなら、戦力としてバリバリ使わせてもらうぜ」
東城という人間は今の俺に比べれば筋力などは劣るが、それでも専門の知識や筋力のある大人がいるというのは、生存戦争するのに重要だ。
「ああ、それで構わない。武器に関する知識はお前さんたちよりあるし、メンテナンスとかも出来る。少しくらいなら戦闘の訓練もさせてやれる。それなりの対価は用意しておくさ」
確かに、メンテナンスも訓練も今後生きていくには欠かせないことではある。特に戦闘に関して素人な彼らを教育してもらえるのは俺としても助かる。付いてきてもいいという条件の見返りにそれは十分なくらいだ。
ただし、全面的に彼を信用したわけではない。そこの点については釘は差しておくべきだろう。
「俺らの足を引っ張るようなら容赦無く切り捨てる。いいな?」
俺は冷酷さを感じる声音で迫るが、東城は「おう、それだけで充分だ」と落ち着いた様子で返事する。
そうだ。邪魔になったら斬り捨てればいいのだ。おっさん一人死んだところで、俺にはどうでもいいことなのだから。
「……とりあえず移動するぞ。まずは寝床の確保だ。いいな?」
「「「了解」」」
–––––
今は夜も蒸し暑い真夏。
19時台に突入すると、店内の小窓に差し込む光は弱々しくなり、人工の光と数多の命の灯が消えた街が静かに紫紺のベールのような空に包まれ始める。
虫の音の代わりに、不死者の呻き声がその闇夜に響く。
そして、彼らの長い長い夜が始まる。
【祝】ようやく全員が武器を入手!!
というわけで、皆様こんばんは!大橋リッキーです。5か月も投稿せずに申し訳ありませんでした!大変お待たせしました。
長期間投稿していなかったにもかかわらず、ブックマークが100件を超えていて驚きました。同時に皆様の優しさをしみじみと感じました!
稚拙な小説ではございますが、これからもご愛読よろしくお願いします。
またブックマークやレビュー、文章・ストーリー評価、感想もよろしくお願いします。
次回は戦闘シーンっぽいところを出す(?)予定です。




