5 雪山の戦い
久蔵の善意を、たえは疑っていなかった。よく知りもしない自分を守るために、命を投げ出しかけた、その心理は理解できなかったが、自分と同じ、どこかが壊れた人間なのだと想像していて、それは間違ってはいなかった。二人は、木像に隠されていたメッセージを読み解くための旅を始める。そしてその行く手には、敵が待ち受けている。
一日かけて、食料と水と弾薬を揃えた。弾丸と一発分の玉薬をひとまとめにして筒に入れた、「早合」も三十発分用意した。鳥の声ひとつない雪の朝、熊穴をあとにした。急峻な山腹を巻くようにして下る。烏帽子ような山で、下れば下るほど斜面が急になる。日が昇りきらないうちに、追っ手がいることに気づいた。
「カンリリカか」
久蔵はつぶやいた。あの男が金掘りたちに、たえの居場所を教えた。そうとしか思えなかった。周囲は白樺の疎林だが、追っ手との距離は十分開いている。
「先に行け。このまま山を下れば川にいきあたる。そこで待て」
たえはうなずいた。足音が遠ざかっていく。久蔵は細い雪崩のあとを見つけ、その中に身を潜めた。金掘りたちにも狩りをする者はいるだろうが、所詮はしろうとだ。歩くたびに枝を揺らす。雪を崩す。姿は見えなくても、どこにいるかは掴むことができた。早合を割り、中身を一息に銃口に注ぎ込む。槊杖で突き固める。火皿に口薬を入れ、火縄の両端に火をつける。撃てば当たる、その間合いに三人入ったところで、火蓋を切った。
一人倒れる。その場で装填、火縄を逆向きに挟みなおす。追っ手はうろたえた様子を見せるが、逃げ帰りはしない。こちらの居場所を探している。撃った。
あとから二人、姿は見えるが弾丸のとどかない場所でためらっている。六郎、八郎の一味は九人と聞いていた。先日一人殺しているから八人、今の二人を除いても六人いなければならない。頭の片隅で考えながら、手は休まずに再装填を行っている。そもそも、六郎と八郎はどこに――
「久蔵!」
たえが叫んだ。くぼみの中で伏せた。髷の先を掠めるようにして銃弾が飛び込んできた。火皿に口薬を注ぎながら、声のしたほうを見やる。牛ほどもある大岩が雪をかぶっている。その影にいるとすれば、向こうからはこちらが見えない。
「鷹待ちの久蔵!」
甲高い男の声。八郎か。火挟みに火縄を挟み、くぼみを飛びだした。銃声。背後で白樺の幹が爆ぜる。大岩の側方にまわりこむように走る。
「鉄砲を捨てて出て来い。今すぐにだ。女に手を出せないと思うな。まず目を抉り出す。それでも出てこなければ――
撃った。
八郎は頭から血を噴いて倒れた。たえにむかって走る。敵はまだ撃ってこない。半身に返り血をあびてよろめいているたえに飛びつき、抱きかかえ、木も生えない崖のような斜面を一息に滑り降りた。背後で気の抜けたような銃声が響いたが、もう当たる間合いではない。