二人の公主
朝になった。容華夫人は鴻城公主を呼んで茶を飲んでいた。そこに芸史が現れて容華夫人に耳打ちをする。容華夫人はにやりとして頷いた。
「お母様、どうなさいました?」
「あの華陽と楽好を仲違いさせる駒がきたのよ」
芸史が手を叩くと、いそいそと賀才人こと花蕊が現れた。鴻城公主は思わず容華夫人の顔を見つめた。
「あのものは楽好の侍女だった女ですよ!」
「今は聖恩を承けた才人よ」
賀才人が顔を上げた。薄く化粧をしているのか普段より彼女の顔が綺麗に見えた。しかし、容華夫人は容姿の美しさよりも、心の醜さを欲していた。
「才人賀氏、容華夫人にご挨拶しにまいりました」
「賀才人、よくいらしたわね。前の主人には挨拶しなかったのかしら?それよりも、大王の聖恩を承けながら才人とは……」
「夫人、お願いです。私を才人から側室にできませんか?そのためなら何でもいたします」
「この妾に頼み事が……なら、妾の願いも聞いてくれるな?」
「はい!」
容華夫人は賀才人の性格を見抜いていた。それは華陽夫人よりも早くだ。賀才人に王へ近づく方法を吹聴した時から彼女の渦巻く野心を感じていたのである。
「賀才人、誰よりも聖恩を承けなさい。華陽は大王のことになると蛇みたいに噛みつくわ……聖恩を多く承けている才人を王后は見逃さないわ」
「しかし、どうすれば大王に……」
「簡単なことよ。鴻城、才人、外に出ましょう」
三人は宮女を率いて御花園を散策した。どこからともなく梅の澄み切った香りが漂ってくる。
「お母様、良い香りだわ」
「そうね。でもね、梅は人を惑わせないのよ」
容華夫人は懐から小瓶を取り出して賀才人に渡した。小瓶からは艶美な香りがもれている。
「容華夫人、これは?」
「依蘭よ。この香りは人を惑わすことができるわ」
容華夫人は彼女に小瓶を渡すと亭に向かった。その途中、鴻城公主は一団から抜けてある場所へと向かった。武官の詰め所である興武殿だ。彼女は手櫛で髪を整えると興武殿に入っていった。




