二人の公主
華陽夫人は容華夫人の足にしがみついた。その姿は肅宮の珠と言われた女の姿ではなかった。
「何が佳人を得たですって!お前が謀ったのだろう!」
「醜い方ね!妾が謀るわけないでしょう!疑うなら、あなたの可愛い公主を疑うのが筋じゃなくて?」
それに反応した華陽夫人は容華夫人の足から手をほどき、ゆっくりと立ち上がると楽好公主を指差して叫ぶ。
「お前か!妾から大王を奪おうてか!」
「お母様、そのような……」
刹那、公主の頬に激しい痛みが走った。華陽夫人は彼女を殴る。嫉妬に狂う華陽夫人を目の当たりにした王は顔を背けた。そこに王后が息を切らして現れた。王后の登場に王は内心、ほっとした。何故なら内命婦を統率するのは王后であるからだ。内命婦たちは王后には逆らうことも何もできない。
「夫人ともあろうものが大王の御前で何たる醜態。大王も確認せずに公主の侍女に手を着けるなど」
いつも穏やかな王后が声を上げるときはよっぽどのことである。しかし、王后の鶴の一声で場はいっきに冷静なものに変わった。王后は続ける。
「華陽夫人はしばらく謹慎です。花蕊は才人として大王にお仕えしなさい。そして騒ぎを大きくした容華夫人は毎日、写経をすること」
王后はそう言って踵を返した。公主は立ち上がる。とてつもない疲労が全身を気だるくする。華陽夫人は公主を見つめた。しかし、その瞳には猜疑心が満ちている。公主は俯き、目を伏せた。その間に二人の夫人は各自の殿舎へ帰っていった。だんだん公主は突き放された気分に苛まれていく。そこに桜児が現れてふらつく彼女の体を支えた。
「公主さま、参りましょう」
桜児に支えられながら公主はあてがわれた殿舎へと戻っていった。残された大王は才人となった花蕊を伴って閨へと消えた。それでも花蕊は嬉しくはなかった。何故なら才人は側室ではないからだ。才人は女官の階級の一つで秘書役のような仕事をする。たまに才人は王の閨に奉仕するが、その中で側室になるものは少なかった。
殿舎に戻った公主は寝台に潜り込んだ。桜児は宮女に薬湯を持ってくるように指示した。それから公主の手を握った。
「公主さま、今夜はゆっくりお休みくださいませ」
「桜児……花蕊は私を利用したの?お母様は私を突き放したの?」
「ああ、あまりお考えになってはお体に毒です」
桜児は優しく公主の手を撫でた。
そのうち、公主は眠ってしまった。薬湯を持ってきた宮女が寝台の脇に来ると桜児は握っていた手を離した。
「桜児さん、公主さま付きの侍女が必要ですね」
宮女が薬湯を小卓に乗せながら桜児に言った。
「柴尚宮に頼みましょうか?」
「いいわ」
「いかがしましょう」
「秋菊、今日から公主さまの侍女になって。その方が私が安心だわ」
「かしこまりました」
秋菊は礼をすると寝台の帳を下ろした。二人は丸椅子に腰を下ろす。向き合ったお互いの顔は疲れていた。




