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意に反して夢は見なかった。
朝早くとの約束通り、僕は日が昇ってしばらくしてから目覚めたらしかった。朱赤の太陽が東の空の少し上の方まで昇っていた。
僕は家の外、大体庭だと思える辺りに出、昨夜ニコが分けてくれた水で顔を洗ってうがいをし、黒い服をはたいて村の門へと向かった。グレーテはもう門で待っていた。
僕らは村を出て西へと歩いた。時々グレーテが、透き通る手で僕の指を引いた。
けれど、海岸には誰もいなかった。沖のほうに黒々と魚人の村が沈んでいるのは見えるが、浜に出てくる者はなかったらしい。
「おかしいわね」
グレーテはついついと低く飛んだ。頭の高さがちょうど僕と同じくらいだ。
「朝は、散歩に出てくるものなのに」
「いつもというわけじゃないんだろう? きっと、たまたまだよ」
「そうかしら。あなたが昨日脅かしたから、警戒しているんじゃないかしら」
「でも、君は追いかけられても、今日またここに来ているじゃないか」
僕がそう言うと、彼女はちょっとむくれた。
僕ら以外誰もいない海は至って静かで、ちゃぷちゃぷと頼りない水音が辺りに響いているだけだった。結局僕らは、また翌日の朝に海へ来る約束をして、グレーテは砂漠に、僕は村に帰った。
村の大通りを少しだけ入り、家まで戻ると、ニコが僕を待っていた。
彼は今日もポケットのたくさんついた服を着ていて、手には水差しらしき器を持っていた。僕はグレーテと海に行った事を内緒にしておいた。
「お前さん、朝飯は食ったか」
僕は首を横に振る。相変わらず空腹はやってこなかった。
「ちゃんと食わなけりゃいかんぜ。昼は暑いんだからな」
ということは、きっと彼は、昨夜僕が食事をしたと思っているのだろう。世話好きの彼をあまり心配させたくなくて、僕は食べていない事も黙っておくことにした。
ニコは水差しを目で示した。
「なあ、今日の水を汲みに行かないか。そのついでに、城の番もしていこうぜ」
城、と僕は思った。城の番、ということは、カーのそばに、いわば仕えるようなものだろう、と僕は思った。
カーには昨日聞けなかった事がたくさんある。僕は頷いて、家に入った。水差しにはまだ昨日の水が残っていたので、一気に飲み干して、ニコと共に大通りに出た。
朝の村は静かだった。赤い光が家々を灼いている。通りには僕らしかおらず、家のそばで洗濯らしき事をしている人や、赤い実の食事をしている人が少しいるばかりだった。
「ねえ、いつも村はこんなに静かなの」
「静かかね」
ニコは面白そうに聞き返した。
「ユーディは?」
「彼女はそのうち水を汲みに行くと思うぜ」
「待ち合わせとか、しないの」
「待ち合わせ、かぁ」
僕らは門を出て、太陽の方へと砂漠を進んだ。ニコはしばらく、無言で歩きながら考えているようだったが、やがて砂漠の真ん中で、ぽつっと一言漏らした。
「そういう方法もあるなぁ」
「した事なかったの?」
「ない。村の奴らはみんな、会うなら会う、別れたら別れるだけだから」
ずいぶん寂しいんだな、と思ったら、ニコが僕の手を取った。
「いや、ありがとう。お前さん、いろんな事を思いつくんだな」
ニコの掌を見ると、ちゃんと新しい傷がついていた。朝食に赤い実を食べたのだろう。彼はその手をぶんぶん振った。
「明日早速やってみるぜ」
ニコは目に見えて上機嫌に砂漠を歩き始めた。短く刈り込んだ金髪が赤い陽に淡くきらめく。
昨日一日で、村人達がずいぶん淡泊というか、不活性だなと思ったが、それだけではないような気が少ししていた。
何だか、物事が、僕に掘り出されるのを待っているみたいだ、と思ったのだ。




