3人目の勇者は今日もプログラムを気に掛ける
中二勇者の空気を読まない発言のせいで、大広間は今すごいことになっている。
しかし、それはオレが想像していた血生臭いものとは全く違うベクトルのすごさなわけで・・・・・・・。
なんて言うか・・・・・
「・・・・・すごい、まさに子供の頃に読んだ絵本の通りだ・・・!!」
「あの激しい口調、物怖じしない態度、物語の勇者そのものだ!!」
「召喚された時からうすうす思っていたけど、やっぱりあの人『漆黒の勇者様』だわ!!」
「間違いない、『金色の勇者』もいるんだもの!!!!」
「今まで半信半疑だったけどあの物語は本当の話だったんだな・・・・・!!」
「まさか勇者召喚で『金色の勇者』と『漆黒の勇者』が呼びだされるとは・・・!!!!」
「『金色の勇者』と『漆黒の勇者』は実在したんだ・・・・!!」
「『金色の勇者』万歳!!『漆黒の勇者』万歳!!」
なんかすごい盛り上がっています、はい。
オレの予想では、血の気の多い騎士の一人なんかが出てきて「貴様!!国王陛下に向かってなんだその物言いは!!!!」的なことが起きるはずだったんだが・・・・・
その役である騎士達を含め、王様までもが喜んじゃってるという理解不能なこの状況。
・・・・・いや、怒れよ!!
王様に舐めた口を聞いた不逞野郎が今ここにいるよ?
職務を果たせよ!!
そんな感じで、このお祭り騒ぎに着いていけないオレは、この状況を作り出した張本人の方を見てみることにした。
(・・・・・あれ?おかしいな。「家来の一人が出てきて激怒してくるけど身分なんか知るかよこの野郎」みたいなことになるはずだったんだけど・・・・・なんでみんな喜んでるの?)
うんオレもそう思った。
・・・・まあオレはその後お前が打ち首になるところまで想像してたけどね。
・・・・・ていうか、さっきからオレ達放置されてないか?
なんか漆黒とか金色とか、やけに中二心くすぐるワードが飛び交っているけど・・・・
「あの・・・・・オレ達・・・・・」
「ひゃぁぁっっほぉぉいい!!勇者ばんざ・・・・ん?ああっ!!申し訳ない、勇者たち!!つい熱くなってしまった!!・・・みな!!鎮まれ!!おい!!!」
オロオロと前に進み出た金髪勇者に気づいた国王がみんなを落ち着かせることで、なんとかこの場は治まった。
・・・・・いや、一番テンション上がってたの国王本人だからね?
ひゃっほい、とか言ってたぞ、このおじさん。
なんか急にこの国の行く末とオレ達の将来が心配になってきた・・・・・・
場が静まると、再び金髪勇者が口を開いた。
「なんか、金色とか漆黒とか・・・・」
「おお聞こえてしまっていたか、『金色の勇者』よ!!そうなのだ!!実はな・・・・」
ひゃっほいのテンションから戻りきっていなかった国王は、椅子から半身を乗り出してまくし立てようとした。
・・・・しかし、金髪勇者の質問に国王が食い気味で答えようとしたその時、不意に玉座の隣の列から一人の男が歩み出てきた。
「陛下」
国王の暴走を低い声で諌めたその男性は、30を過ぎたぐらいの見た目で、背は高く、派手すぎないセンスのいい格好をしている。
そして一番目をひいたのは、その燃えるような赤色の髪だった。
「ここはわたくしが・・・・」
「ん?・・・・ああ、そうだった、諸事情の説明はそなたの役目だったな」
どうやらプログラムでは、オレ達に色々説明する役はこの人に決まっていたらしい。
ていうか、国王が守らないプログラムとか・・・・。
・・・・最早意味なくね?
「勇者たち、紹介しよう。この者はアルシュタインを古くから支える侯爵家の当主、ローズガルド侯爵だ」
「お目にかかれて光栄です、勇者様方。わたくしハロン・ローズガルトと申します。以後お見知りおきを」
国王に紹介され、軽く微笑みながらその男はオレ達3人に向かって深いお辞儀をした。
「まさかこの目であの『金色の勇者』と『漆黒の勇者』を拝める日が来るとは夢にも思いませんでしたよ」
「そう、それですよ!!その『金色の勇者』とか『漆黒の勇者』っていうのは何なんですか?」
なかなか答えをもらえず、痺れを切らしたように金髪勇者は侯爵を問いただした。
「・・・そうですね、まずはそのことについて説明させていただきます。勇者様方は童話というものはご存知ですよね?」
迫ってくる金髪勇者をなだめるように、ゆっくりと侯爵は問うてきた。
「童話って・・・・『桃太郎』とか『浦島太郎』とかのあれですか?」
・・・・いや、あれですかって言われても絶対分からんだろ・・・。
やっぱアホだこいつ。
「いや、そんな風に言って伝わるわけねぇだろ。要するにあれだろ?子供に聞かせる昔話で、強い正義の味方が出てきて悪者を倒したりする話のことだろ?」
金髪勇者のあまりの不甲斐なさに思わず突っ込んでしまった中二勇者に、侯爵は頷きながら話し始めた。
「だいたいその認識で問題ありません。その童話なのですが、わたくしどもの国にも古くから伝わるそのような類の物語が数多く存在するのです」
侯爵はそこで一息入れてから、勿体つけるようにゆっくりと続けた。
「そして、その中の一つに『双魔の勇者』という話がありまして、その話に登場する主人公が『金色の勇者』と『漆黒の勇者』の二人なのです。」
・・・・・・なんかすごい中二タイトルだな、おい。
中二勇者の大好物だろ、これ。
そんなことを考えていると、横からけだるそうな声が聞こえてきた。
「・・・・つまりあんた達は、その物語にのっとって勇者召喚を行い、その結果オレ達が召喚されたと・・・・。ちっ、全く、はた迷惑な話だぜ・・・・」
(キターーーーー!!!!『双魔の勇者』!!!!!超かっこいいんですけど!!!!しかもおそらくオレは『漆黒の勇者』だ!!!!やったぜ!!!!黒色ゲットだぜ!!!!全身黒色の装備とか着ちゃったりしたりするんだぜ!!!!)
相変わらずだな、おい。
黒色ってそんなポケ〇ンみたいに手に入れるもんだっけ?
ていうか、素直に喜べよ!!!!
お前の思うかっこいいってなんなの?
「いえ、確かに結果的にはそうなりましたが、わたくし共は意図的に『双魔の勇者』を召喚しようとしたわけではないのです」
そうやって、相変わらずめんどくさい中二勇者に、侯爵は丁寧に答えた。
「どういうことですか?」
「勇者召喚を行うにあたって、わたくしどもは神術を使用したのです」
・・・・またそれっぽいワードが・・・・
「・・・・・神術?」
神術と聞いて目の奥が一瞬光った中二勇者に、侯爵は説明を続けた。
「神術というのは、神様に魔力を捧げることで発動させる魔術のことです。神術は発動者が神様ご本人ですので、神様にどういった術を発動して欲しいかを伝えることで、発動する術の種類ぐらいなら確定できるのですが、召喚対象を事前に特定することまでは不可能なのです」
「・・・・勇者を召喚するということは確定できるけど、誰が召喚されるかは出てくるまで分からないってことか」
「そうです。勇者様方が召喚された時、その髪の色や、金色の勇者様の立ち振る舞いから、もしや・・・とは思っていたのですが、3人召喚されたということと、漆黒の勇者様が一言も発さなかったことから確定にまでは至らなかったのです」
・・・なるほど、だから中二勇者が爆弾発言を投下した時あんなに喜んでたのか。
「・・・・・でもそれだけじゃ、オレ達が『双魔の勇者』だっていう確証にはならないだろ?」
そんな疑問をぶつけた金髪勇者に、侯爵は笑みを浮かべながらこう言った。
「・・・・それは今から証明します」
侯爵が手を上にあげて合図をすると、大広間の奥の方から、大きな水晶玉が荷台にのって運ばれてきた。
あっ、プログラムに間に合ったんだ。
・・・プログラム3番「魔力検査」の唐突な始まりだった。