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ドラゴンマスクより ーふたつのゴールー  作者: 福本 美憂


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10/29

息子から電話が来た。

珍しい。

大抵LINEで済ませるのに。

「もしもし?どした?」

「元気?」

そりゃ、まぁ。生存確認?

「おかげさまで、忙しく元気にサッカーしてるよ」

「そか」

ん?

「何?どした?」

「いや、ドイツのチームに移籍する」

「ドイツ2部、2.ブンデスリーガから話が来てね。決めた」

!!!!!!!!!!!

思いっきり動揺したけど電話でよかった。

「ほー」と言ってみた。

これは、困った時の私の上等手段だ。

「年明けには、あっちに行く感じ」

「ドイツ語わかるん?」

「わかんないw」

「代理人つけなよ(瑠からの受け売りだけど)」

「うん。そうする。年内に契約に行くから、それまでになんとか」

「そか。うん」

「以上、ひとつ目の報告」

え?まだあるの?

「えーっと、まぁ、こっちは後で話す!」

「え?え?気になるじゃん。何?」

「こっちは会った時、話すよ」

「えー気になる!けど、ま、いいか」

と、先日、カンガルー革のスパイク買ってくれたから引いてみた。

私自身、もう一つの大きさがわからないけど、今はひとつ目を受け止めるので精一杯だ。

「なんか手伝えることあったら言って」

母っぽいことを言ったら、頬を何かが伝った。

電話でよかった。

「うん。ありがとう。かあちゃんの誕生日には帰るよ」

「無理すんな。忙しくなるでしょ」

「いや、そこは無理する」

・・・

「じゃ、唐揚げ揚げておくわ」

「うん。じゃ」

切ってから涙に気がついた。

嬉しいのか悲しいのかわからない。

ブンデスリーガに見つけてもらったこと、

「行く」と決断したことを伝えてくれたこと、

遠くに言ってしまうこと。

あーとっくに自立してたから油断してたわ。

こんな日が来るんだ。

とうちゃん、息子がとうちゃんを超えるよ。

行っただけじゃどうなるかわかんないけど、今のあいつなら、思いっきりやるだけやってみるはずだ。それでいい。


瑠が以前言っていた「兄に置いていかれた」ってこんな気分だったのかもしれないな。瑠に会って話したくなった。


「もしもし、瑠?会って話せない?」

「いいよ。私も話がある」

「ありがとう。じゃ、後で」


カフェって言葉がサッカー用語に聞こえるふたりがカフェで待ち合わせした。店に入ると、瑠は先に来ていてこちらに軽く手を挙げた。

ホント、私服の彼女は別人。シンプルな服装は彼女らしいが、「ファールだろうがっ!」っと鬼の形相で審判に抗議している人とは別人に見える。


「ごめん。遅れた」

「いや、ぴったりだよ。何頼む?食事しちゃう?」

「いいね。そうしよう」


オーダーをし終えると、瑠が切り出した。

「私から話していい?」

「うん。いいよ」

今日はもう、ちょっとのことでは驚かないし、私の話の方が長くなるだろうしね。


「私ね。鈴の息子に告った」


!!!!!!!!!!

「え?うちの?」

「そうそう。お宅の」

「ぼーっとゴール前に立ってたから、先に1点決めてきた」

「得点したの?!」

「決めた」と、Vサインを見せた。


でも、でもさ。あいつは


「ドイツ行くんだよね」

「知ってるの?」

「同時進行の会話だったw」

「どうすりゃ、そんな話が同時進行するのよw」

「WEリーグ・・・は?」

「やるよ」

それでこそ、瑠だ。

「だから、一緒にドイツには行かない」

キッパリと言う。これも瑠らしい。

「でね、鈴。宣言しとくことがある」

試合前のフェアプレイ宣言?

「私は、どのチームにいても、あいつと付き合っても別れても、鈴とは今の関係を崩さない。これからも『りん』って呼ぶし、対等」

確かに宣言。

でも、

「私もそうでありたい」

私の返事に瑠は口角を上げた。

「私とあいつは、今、お互いに夢があって、好きでもそれは譲れない。だから、どちらかに合わせることはない」

「うん」二人のことはよく知ってる。理解できる判断だ。

「だから、先にサッカーをやり切った方がまだ、夢を追いかけてるヤツの所に向かうって約束してる」

なんだそりゃ?

「ちなみに、これは鈴の息子の提案だからね」

「つまり、二人ともサッカーをやりきりたいってことね」

「さすが。理解が早い」

ってことは、あいつも瑠が好きってことでいいのね?

これか!もうひとつの報告は!

「私みたいに諦めが悪かったらどうするの?」

「それは・・・その時よwその可能性は高いな」

一呼吸おいて瑠は言った。

「鈴、ごめん。あいつが浮気でもしない限り、孫は当分無理だから」

真剣な顔で言うもんだから、吹き出してしまった。

「了解」軽く手を上げて答えた。

「で、鈴の話って?」


もう、話すことないよw


私が持ってきた小さな淋しさに嬉しさを足して、瑠の話を引いたら「笑」しか残らなかった。


なんて素敵な人生だろう。

人生って想像しなかった面白いことが起こるんだ。

人生って、

面白い。

サッカーみたいに、

思ったところへ転がらない。

だから、

面白い。



明日につづく

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