予感的中
色々な思いを感じたまま
休憩時間が終わろうとしていた。
『そろそろ戻りますか』
と声をかけると
『はい』
と二人は立ち上がった。
午後の業務より、新人の人間性に
多少の不安感を抱きつつ喫煙所を後にした。
ステーションに戻ると、ほかの早休憩の職員がいたので
新人には午後オムツ介助などを見てもらったりする旨を伝える。
『まずはホールにいる職員と休憩変わりましょう』
と新人に声をかけてホールへ。
『お疲れさまです。休憩行ってください。』
『はぁい』
ホールで食事の下膳を行ったり、洗面所に誘導を行いながら
新人さん二人には
利用者様とコミュニケーションを取ってもらっていた。
ある程度片付いてきたところで
新人さんを呼びオムツの準備を行う。
『このオムツカートに【パット】【清拭】【手袋】【ゴミ箱】を乗せて始めます』
滝田さんはメモを取ったり、ウンウン頷きながら話を聞いていたが
浅見さんは腕を組んで聞いているだけだった。
『浅見さんは経験があるから大体わかりますよね?』
と聞いてみると
『いや、以前の施設ではオムツ準備などはパートがやってたんで。
ここでは俺らがやるんですか?』
『別にパートがとか、常勤がとか決まってないですね。
手が空いている職員が準備すればいいわけですし。』
『そういうのよくないなぁ。ちゃんと担当制にしないと。』
『・・・なかなか人手もないから、完全に担当制にはできないんですよ。』
と笑って返しはしたが、
このあたりから、
以前高橋さんに新人の話を聞いた時の
不安が的中するかなと思っていた。
『じゃあほかの日勤者が来る前に、先に何人かやってましょうか』
と二人に声をかけオムツを開始していく。
当施設の一階は四人部屋になっているので
オムツカート事
居室に入ると必ず扉を閉めて行っていた。
『利用者様の家族が来ることも多くあるので、廊下にオムツカートは
出しっぱなしにしないでくださいね。
あと、おむつ交換に入るときは、必ず、ベット周りのカーテンを閉めて行います。
〇〇さんおむつ交換しますね。
必ず声をかけてから始めてください。』
とオムツを始めたのだが、
『ずいぶん丁寧なんですね?でも時間かかっちゃうでしょ?
オムツの人数はそんなに多くないんですか?』
と浅見さんは笑って言った。
『まぁ入浴内容によって人数も違いますが・・
20から30人くらいですかね?』
『それをどのくらいの時間で?』
『職員の人数ややり方次第ですが・・・30分から45分くらいかな』
『へぇ~』と笑っているが
私は何が言いたいんだと
内心ムッとしていた。
一人二人とオムツを交換しながら先に進む中
浅見さんは、滝田さんに
『以前の施設ではもっと早く多くの利用者を対応してたよ。』
『楽そうな感じでよかった。これなら滝田さんっも不安になることないからね』
と話しかけていた。
滝田さんは
『そうなんですか、大変ですね。』
など当り障りなく返答していた。
二人を連れておむつ交換を行いながら
その会話を聞いていると
私の不安が確かなものになっていった。
【以前の施設は】【前の所では】
をやたらに言ってくる経験者。
この業界ではやたら多く見られる存在だった。
一人で前の職場と比較をして、早々に退職していく存在。
この人もそういう人なのだろう。
でも初日にここまで多用してくる人も珍しい
滝田さんが何か吹き込まれる前に
何とか二人を離したかった。
『それじゃ何人か見てもらったんで、浅見さん次の人やってみます?』
と聞くと、
『了解です』
と言い、おむつ交換を行いだした。
それを滝田さんと見守る、
『えっと・・・』
とベット横の名札を見て
『〇〇さん!オムツ見るよ!』
と声をかけ利用者様のズボンを下ろし始めた。
確かに経験者だけあって手際はよく行っていた。
『よし!布おむつもこんな感じでいいですかね?』
とこちらを向いて聞いてきた。
『はい。大丈夫ですが、パットが曲がってましたよ。
あと利用者様には敬語でお願いします。』
と答えると
『・・・前の施設はもっと大きめのパットだったし、
フレンドリーな関係で利用者と接していたから、つい。』
とへらへらしながら答えた。
私も初日から何か言うのも嫌で
『そうなんですか』
と答えそのまま次に進もうとしたところで
他の職員がオムツに合流してきた。
その中に伊藤君がいたので、
『浅見さんはある程度オムツも行えるので
このまま伊藤君についてまわってください。』
と伝えると
『俺っすか?!』
と伊藤君はおどおどしていたが、
『伊藤君もここ長いんだから、しっかり教えてあげて』
と返し
伊藤君につかせてオムツを続け始めた。