衝突
浅見さんの発言を聞いて
滝田さんは『そうですよね・・・』
と返し、よしっと気合を入れている様子だった。
『じゃあこの方を起こして見ましょう』
そう選んだ利用者様は、ベットに座らせれば、自力で
立てるような方だった。
利用者様に今日は新人さんに起こしてもらいますと伝え、
『じゃあやってみましょう。まず滝田さんやってみます?』
すると、滝田さんが答える前に
『いや、俺からやります。滝田さんの見本になるように。』
と浅見さんが申し出た。
『じゃあ浅見さんお願いします。こちらの方は、ベットに端座位で座ってもらえると
手すりをもって自分で立てますので。』
『それじゃあ見本にならないんで』
と利用者様の首とひざ下に手を入れ、ベット上に座らせた、
そのままベットわきに引っ張ってきて
『足と足の間に自分の足を入れて、ここを軸に・・ハイっ!』
と、利用者様を車いすに乗せた。
その時、利用者様から『いたたた』と声が漏れたが
彼には聞こえてこないのだろう。
『わかったかな?こんな感じ。』
と自信満々に滝田さんに聞いていた。
さすがにイラっときたが、利用者様の手前、優しく注意を行う。
『浅見さん。この方は自分で立てるんで、自分の力を使わせてあげてください。』
『ダメダメ。せっかくの未経験なんだから、しっかり覚えないと。
介護の現場ではスピード第一だよ。
前の職場では・・・』
言い切る前に言葉を返した。
ここで私の中の不満が爆発したのだろう。
『さっきから前の職場・前の職場って言いますが、
なんで前の職場退職されたんですか?
そんなに前の職場のやり方がよかったなら
戻ったらいかがですか?
ここではここのやり方があるんです。
ダメダメって何?あなたは今、私に指導を受けている立場ですよね?
とりあえずはこの施設でのやり方を学んでもらわないと困るんですが。』
浅見さんは顔を赤くして反論した。
『立場とか言われても、俺は経験があるんだよ?
初歩の初歩みたいなこと教わっても意味ないんですよ。』
『意味がない?
ならここの利用者様は前の職場にいたんですか?
私は経験の話をしているんじゃないんです。
そもそも人と関わる仕事で、経験だけがすべてじゃないです。
相手の方も・職員も十人十色。
正直見た目や顔だけで好かれたり嫌われることもあるんですよ。
それを経験があるから大丈夫の一言で済まさないでください。』
つい声を荒げているとほかの職員が駆け寄ってきた。
他職員になだめられ、
私も我に返り、『すいません言いすぎましたね。』
と浅見さんに謝罪をするも
『いいです・・・』
と彼はそっぽを向いているままだった。
『この後はおやつになるんで、浅見さんはほかの職員につきましょう。
ちょっとお互い頭が冷えるまで。』
そう他職員が提案して
浅見さんは、また伊藤君につくことになった。
やってしまった・・・
利用者様や滝田さんのいる前で
口論をするとは・・・
もう明日から浅見さんは来ないかもしれない・・
そんなことを考え、
情けなくも泣きそうになっていた。
なんとか早く普通に接しなきゃと
滝田さんと利用者様に
『ごめんなさい』と謝罪をした。
すると、二人から
『実咲ちゃんは悪くないよ。
私のために言ってくれたんだろ?ありがとう。
わたしゃあの男嫌いだね。』
『そうですよ!なんか浅見さん気難しそうですよね・・・
私も戌井さんは悪くないと思います!』
そう言われ
『ははは、まぁ私も悪いんですよ。早くホールに行きましょう。
おやつの時間になりますよ。』
と笑って車いすを押したが、
堪えてたつもりの涙が
一粒二粒流れた。




