生徒会長の考え
キーンコーンカーンコーン。終業のチャイムが鳴り、キーツは一目散に生徒会室に向かった。卒業も近いため授業に はなるべく受けておかないといけないが、今日は一日中気が気でなかった。特にシドが呼び出しを受けた後からは。
やや乱暴に生徒会室のドアを開けたのもそのせいだろう。自分が一番最初に生徒会室にたどり着いたと思ったがそこにはもうシドとティムの姿があった。二人ともぐったりしている。
「二人ともどうした」
キーツは自分から近い位置のティムに駆け寄り、その体を揺する。
「ティム!」
「んー、あーー。朝?あっかいちょーおはよー」
ティムは眠たげに目を擦っていたがが、キーツの姿を認めると間延びした声で挨拶をした。
「良かった。二人してぐったりしていたから何かあったのかと思ったぞ」
「んー?あっ、シド君も寝てるよ。起こしてって頼んだのに」
ティムはピョコンと半身を起こし、椅子に寄りかかり寝息をたてるシドを見て口を尖らせる。キーツは状況が読めたようで、やれやれとシドも起こしにかかる。
「シド、起きてくれ。放課後だぞ」
キーツが声をかけ、シドの体を軽く揺する。するとパチッとシドの目が開いた。目の焦点はすぐにあい、すぐにやってしまったという顔になる。
「おはよう、シド」
「えっ、はい。おはようございます」
そんなシドにキーツはへらっと笑いかける。つられたようにシドも言い返した。シドは壁にかけられた時計を見て、それからティム、キーツの順に顔を合わせる。
そして小さく息を吐いて、キーツに向けて低頭した。
「すみません。気づいたら寝てしまっていました」
「生徒会長としては授業をサボり、生徒会室でうたた寝するのを良いとは言えないが、今回は多目に見よう」
シドの肩をポンと叩き、キーツは自分の定位置につく。お詫びの意味も込めてシドはキーツのためにコーヒーを入れた。
「ありがとう。二人がここにいたのは昼休みのことがあったからか?」
近づいたシドにキーツはこそっと聞いた。シドは詳しく話そうかとも思ったが頷くだけにとどめた。皆が揃ってからの方がいいと思ったからだ。
「そうか。お疲れ様だな」
キーツも深くは聞かず、シドからコーヒーを受け取った。
「ティム、起こせなくて悪かったな」
「別にいーよ」
シドは席に戻りティムにそう詫びるが、ティムは全然気にしていないようで、まだ眠たげにあくびをした。
「お疲れ様ですわ」
「ああ、お疲れ様」
生徒会室のドアが開きユウリがやって来た。彼女の影にはチュリッシェの姿が見えた。
「途中で会ったので」
ユウリがキーツに微笑みかける。チュリッシェは中にシドの姿を認めると目付きが少し穏やかになった。
「さっ、チュリッシェちゃん座りましょう」
ユウリがチュリッシェの背中を押すようにして促すと二人もそれぞれ席についた。
「さて、リャッカは遅れると聞いている。たまっていたシークレットジョブを片付けながら調べものをするそうだ」
校長があの調子なので、シークレットジョブの追加はないが、以前に頼まれていたもので、まだ片付いていないものがあったようだ。
「それから今日は向こうで活動しようと思うがどうだろう?」
キーツは機械室の方を指差した。その意図が分かったものはいなく、皆一様に首をかしげた。その中でユウリだけが穏やかに賛成をする。
「そうですわね。調べることもありますからあちらにいきましょう」
後輩三人は顔を見合わせたが、なにか考えがあるのだろうと、先輩二人に続いて機械室のドアを潜った。
「ユウリ」
「はい」
全員がついてきたことをさっと確認すると、キーツは短くユウリに声をかける。ユウリの手には鍵の束が握られていた。どうやら能力が使われたらしい。
「よし、これで話せるな。こっちにしたのは向こうより空間が狭いからな。ユウリの負担が少ない方がいい」
キーツの言葉にユウリは嬉しそうに微笑んだ。後輩三人もそれで納得する。
「リャッカ先輩ならあとからでも入れるからいーね」
ティムが頭の後ろで手を組む。リャッカの体質ならこの中に入ってくるのも問題はない。
「さて、シド。昼休みに起こったことを話してもらおう」
各自、適当な机や椅子を見つけて、座ったり寄りかかったりする。シドは少しだけ話しづらそうに昼の出来事を語り始めた。
「…ということで、そのあとは放課後までここに待機してました」
「確実に探りをいれてきてるじゃない」
シドが話終えると間髪いれずにチュリッシェが断言した。
「そうだな。確信は得ていないが、校長先生は何かに気づいているのだろう。でなくては、プロトネ学園の生徒としてとか、繰返し騙されないようにとかの発言はしないな」
「そもそも昼休みにシド君を呼び出しシークレットジョブの進捗状況を聞くのも変ですわね」
キーツとユウリもそう続いた。ただそれだけで疑いすぎかもしれないとシドは少しだけ思ったが、そもそも警戒して然るべきの状況だ。それを口には出さなかった。
「どうしましょーかね」
皆が口をつぐんだため、ティムが呟いたその声はやけに響いて聞こえた。
「直接校長先生に話してみる?」
「今の話を聞く限り、中々リスクがある行動だな」
チュリッシェの提案にキーツは難しげに眉を寄せる。
「でも動けないよね。行方不明ーな人達も見つかんないしさ。こーして悩むよりもシド君が自首した方が早いかもしんないよ」
「何言ってんの」
ティムがシドをちらりと見て小さく舌を出した。チュリッシェがすかさずティムに突っ込みを入れる。シドはそんな二人を見て苦笑をした。
「シド君は…、先程から黙っていますが何か思いつきませんか?なんでも言ってみてください」
ユウリがシドに水を向ける。シドは遠慮がちに口を開く。
「僕は…」
シドはキーツの方を見る。彼は無言だったがシドを見返してしっかりと頷く。もしかしたら彼も自分と同じ考えに行き着いたのかもしれない。
シドはもう一度口を開きなおす。
「僕は校長先生ともう一度話してみたいです」
「それは危険って話になったじゃない」
呆れたように返すのはチュリッシェだ。彼女が心配してくれているのは伝わっている。
「けど結局話さないことには進まないと思います」
「昼休みは見事に負けてきたじゃん」
ティムが茶々を入れるがシドは構わず続ける。
「どう転ぶかは分かりませんが、現状を動かすにはそれが一番手っ取り早いです。皆さんに協力いただけたのは嬉しかったですが、後は僕に任せてください」
シドが言い切ると同時にキーツは座っていた椅子から飛び降りた。
「だから、一人で抱え込むな。以前にも言っただろう。我々の返事も待たずに一人決めたような顔をするでない」
そういうや否やキーツはシドの背中をバシッと強めに叩いた。シドは思わずよろめく。お構いなしだと言うようにキーツはその場で声を張った。
「俺にも考えがある。皆聞いてほしい。俺の意見もシドと同じだ。校長にもう一度話に行く。正直に話し受け入れてもらう。さっき言ったようにリスクはかなりあるが、これが成功してくれるのが一番平和的だ」
「んー、けどさ、それが出来なさそうだから、俺らは今まで悩んでたんだよねー?」
キーツの急な意見替えにティムは口をへの字に曲げる。
「その通りだ。だが校長先生がシドを呼び出し釘を指す真似をした以上、もう腹の探り合いも根回しする時間もない。後、それをしてもほぼ確実に気づかれるしな。だとしたら何もせずに待つよりはこちらから話を仕掛けた方が勝ち目がある」
「まぁ、それはそーだね」
「それにシド。お前ならば校長先生を説得するすべも何か持っているだろう?」
キーツがニヤリと笑う。シドはさぁ?と言うように意味ありげな微笑みを返した。
「最初とかなり方向性は変わるが、先ずは話し合いの場をもうけたいと思う。なんだったら今からでもな。校長先生には俺から伝えるし、話し合いにも同行したいと思う」
「…ありがとうございます」
キーツはシドの様子を伺いながら皆に宣言をした。チュリッシェやユウリはまだ不安そうな顔をしていたが、当人であるシドが納得している以上口を出すのは違うと思い黙っていた。
「後、チュリッシェ。リャッカと連絡がとれるだろうか?こっちの話を伝えておきたい」
「ええ、大丈夫です。あいつには伝えておきますから、会長は進めていてください」
「すまないな。ではシド準備していてくれ」
「はい」
紆余曲折したものの校長との話し合いをする方向に持っていけた。シドは声に出さずシュミレートしながらキーツの帰りを待った。




