生徒会に報告
次の日、シドは登校すると同時に生徒会室に向かった。
「おはよう!待っていたぞ、シド」
キーツがドアを開けたシドを見つけ笑顔を向ける。その声に反応し、集まっていた他のメンバーもシドを見た。
今日はリャッカを含め全員が揃っていた。リャッカから「遅い」と軽く睨まれる。
「おはようございます。遅くなってすみませんでした」
始業時間にはまだまだ早いがそれでも全員が揃っていた状況にシドはそう言って自分の席につく。
「よい。だが、授業の前に話が聞きたい。早速だが昨日のことを教えてくれ」
「はい」
キーツから促され、シドは語り始める。途中で各メンバーから質問が入りながらもシドは語り終える。
「なるほど、校長先生はセス殿の実の祖父であったか」
「そして、クラスタちゃんのお兄様でしたか」
キーツが唸ったのに引継ぎ、ユウリが続けるように発言した。キーツの頭にはすでに色々な考えが浮かんでいるだろう。彼が思考に走っている間、進行役はユウリがするみたいだ。
「シド君、ありがとうございましたわ。校長先生とのご親戚とは驚きましたね」
ユウリがふんわりとした微笑みでシドに言う。シドの話に対し、リャッカ、チュリッシェ、ティムの後輩組が議論していく。
「まっ、情報としては充分だな。校長の暴走を止めるならまずは校長の息子と孫を探すのが一番だが簡単には見つからないだろうな」
リャッカが鋭い目をチュリッシェに向ける。彼女はすでに持参しているパソコンのキーボードを叩いていた。
「こっちからもやってみる。少しでも痕跡があれば一気に詰められる」
淡々と話すチュリッシェは仕事モードに突入していた。ティムはそんな先輩二人の様子を見ていたが、いつも通りに飄々としていた。
「じゃ、僕はシド君のボディーガードにでもなろっかな。学年もいっしょだし、都合もいーでしょ。シド君ってたまに抜けてるからさ」
そう言って笑うティム。シドは曖昧な笑顔を彼に向ける。
「僕の従者も行方不明者の捜索にあたってます。後、組織の方は引き続き保護します。彼らになにか動きがあれば皆さんにもお伝えします。僕は学園での校長先生対策を考えたいです」
「そうですわね。行方不明の二人を探すのも一つですが、それ以外の方法で校長先生を止めることも考えなくてはなりませんね」
ユウリが頬に手を当てキーツの様子を伺う。そこで予鈴が鳴ってしまった。
「むっ、もうそんな時間か。続きは放課後だな。皆、一時解散だ。授業に勤しむように」
予鈴の音で我に返ったキーツがメンバー達にそう伝えた。チュリッシェがさらに高速でキーボードを叩き、パタリとパソコンを閉じる。
「では、後で」
キーツが再び声をかけ、生徒会メンバーはそれぞれ早足で自分のクラスに戻っていった。
それから早半日。シドはいつも通りティムと教室でランチをしていた。
「何事もなく半日が終わったってわけだ」
今日は紙パックのバナナオレを飲んでいたティムが紙パックに差しているストローを噛む。
「そうだな」
シドはサンドイッチを片手に相づちを打つが何事もなく半日が過ぎたことに内心ホッとしていた。
「あっ、それちょうだい」
言うや否やシドの弁当箱からエビフライを摘まんで口にいれた。
「うまいか?」
「うん」
ティムが満足そうな顔をしたのでシドも嬉しく思う。こうしてティムがつまみ食いをすることを知って、お弁当のボリュームが少し増えた。ティムが食べないとギリギリ残さないで食べられる量となっているので食べてもらえた方がありがたい。
そうしてランチをしていると、珍しく校内に放送が流れた。
「一学年Aクラス、シド・クローバード君。一学年Aクラス、シド・クローバード君。職員室までお越しください」
事務の女性が流暢に生徒呼び出しの放送をすると、他に教室でランチをしていた生徒達の視線がシドに集まった。ざわついていた教室がにわかに静まる。
その子達の気持ちを代表するようにティムはからかうような笑みを浮かべ声を張る。
「シド君。何やらかしたの?」
「特に何も。そういえば、先生から生徒会の用事を頼まれていたんだ。多分その事だろう」
シドもやや声を張ってティムに言い返した。シドの返答に聞き耳をたてていた他の生徒達は興味を失ったように雑談を再開する。
その空気を感じたのか、ティムはシドに向けてウィンクをした。と思ったら今度はトーンを落とし真顔で問うてきた。
「心当たりは」
「あの件しかないな」
「そう。俺も一緒にいこうか?」
「いや、まだなんの件か分からない。生徒会が関わっているのは伏せておきたいから、僕だけでいいよ」
食べ終わった後のランチボックスを片付けながらシドは答える。
「そか、じゃっ、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
シドはティムを教室に残して職員室に向かった。
「おお、シドではないか」
途中の廊下で向こう側から歩いてきたキーツに話しかけられる。無論偶然ではない。さっきの放送は全校生徒に向けて流れていた。その放送を聞いてキーツはやって来たのだろう。彼には造作もなく出来ることだ。
「ああ、キーツ先輩。お疲れ様です」
あくまでも自然に見えるようにシドは挨拶をする。どこで誰が見ているか分からない。
「そういえば、呼び出しをされていたようだな。何をしたのだ?」
「なにもしていませんよ。ほら、生徒会の用事のことでしょう」
「ああ、なるほどな」
楽しげに茶化しながらキーツはシドと距離を詰め肩を叩いた。そして声を潜めて素早く一言。
「おそらくセス殿とシドが組んでいることはバレている。生徒会も疑われているだろうがこちらは疑惑のみだ。尻尾をつかませるでないぞ」
微かに顎を引いてシドは返事をする。キーツは一瞬だけ真剣な顔でシドを見たが、へらっと笑ってシドから離れた。
「では、また後でな」
「はい」
そのまま何事もなかったように去っていくキーツを振り替えることなく、シドは先を急いだ。
「失礼します。一学年Aクラス、シド・クローバードです。放送を聞いて参りました」
職員室の入り口でシドは名乗る。一人の女性の先生が席を立ち、シドに近寄った。
「クローバード君ね。校長先生がご用があるようなの。先程までここにいたのだけれど、今は校長室だと思う。行ってもらえるかな?」
さっきの放送と同じ声だったので先生ではなく事務の女性だとシドは分かった。シドは彼女に頬笑む。
「分かりました。それにしても校長先生が僕に用亊ですか?一体なんでしょう?」
首をかしげて見せると、彼女は困ったように眉を寄せ曖昧に笑う。
「それは私も分からないの。君を呼んで欲しいと頼まれただけだから」
「そうでしたか」
シドを気遣うように彼女は言った。シドは彼女にお礼を言って校長室に行った。
「呼び出してすまないね」
校長はいつかと同じように大きな窓から外を眺めていた。
「いえ、そんなことはありません」
学園の最上階に位置している校長室まで急いで来たのにも関わらずシドは息一つ乱さないで校長に答えた。
「まあ、立ちっぱなしでは話ができないな。私は君と話がしたくて来てもらったんだ。どうぞ座って」
「失礼します」
シドはなぜ呼ばれたのだろうという顔を心がけながら校長に答える。ソファーに腰かけると対面に校長がどっしりと座った。
「えっと、お話でしたか?」
「ああ、そうだよ。この間お願いしたシークレットジョブについてだ」
やはりそう来たかとシドは内心で思う。そこから話を広げるつもりだろうとは予想していた。だからシドも考えていた通りに言葉を発する。
「組織について調べていたところです。何にせよ下準備というのは重要なことですから」
穏やかに微笑みながらシドは言うも校長の表情は固い。ここから本格的に校長の追求が始まるだろうとシドは覚悟を決めた。




